第37話 親バートンの隠し事 イノベーションの行方 Bパート
「県営住宅だぷー!」
どうやらエモバグが現れたのは本庄の団地の事みたい。
やや上里よりにある十棟の団地だ。
「青いエモバグみたいだぷー!」
これはわたしの出番。
わたし達は県営住宅へ向かった。
「咲き誇るキュレーター、プリジェクションサクラ!」
「実りのキュレーター、プリジェクションペアー!」
「はじけるキュレーター、プリジェクションソーダ!」
「満開のキュレーター、プリジェクションケラサス!」
変身して現地に向かう。
「エモバグだけだね」
団地の陰から青い巨人が見え隠れしている。
「レボリューショナーはいないみたい」
「新しいアジトの選定に手間取っているのかも知れない」
と親バートン。
またプリジェクションインフルエンサーに出くわしても太刀打ちできない。
これはラッキーなんじゃないかな。
『埼北市なんかが実験都市に選ばれたのは汚い取り引きがあったからだー!』
抑揚のない大音響の声が響く。
団地の間を練り歩くエモバグ。
植木が踏みつぶされたり、窓ガラスが割られたりしている。
こんなところで暴れられたら怪我人が出る可能性もある。
わたしは速やかにエモバグに接近。
団地の壁を蹴り上げ、三角飛び、からの……、
「埼北市が選ばれたのは東京がそこそこ近いのと、災害が少ないから!」
ジャンプキック。
何回かおんなじ事言われてるけど、実際この種の書き込みは今でも多いんだよね。
『この前総理大臣が来たのは癒着の証拠ー!』
よろけたエモバグだがすぐに体勢を立て直し、踏み付け攻撃。
「そんな事ない!」
エモバグの足の裏にパンチ!
攻撃を弾き返す。
「実験都市アドバイザーのお父さんは、藁葺木総理に怒られてたんだからー!」
さらに距離を詰め、裏拳気味のフックを命中させた。
「あおいちゃん!余計な事言わないで」
お父さんは困ってるけど、キレキレ攻撃は成立したからセーフ。
「埼玉なんか田舎クサいたまだよな!」
「埼玉は!」
ジャンプからの蹴り上げと蹴りおろし。
その軌道はきれいな円形を描く。
「彩の国!」
そのまま着地せず、で反対の足の膝蹴りと蹴り上げ。
「だってわたしは何度だって言い返すんだからー!」
そして、両足のかかと落とし!
わたしの空中連続技が炸裂。
「パワーが貯まったベェ!」
わたしの胸のブローチが光輝く。
「ソーダスプラッシュ!」
エモーショナルな炭酸を受けたエモバグは雲散霧消して、後には青いサイスフィアが残される。
変身を解除したわたしは勢揃いのみんなの前へ。
「わたしはイノベーションを進めたい。
あかねとずっと一緒にいたい。
支配じゃくて、共存を目指したい」
これがわたしの気持ち。
「実験都市を完成させたい」
「あおい……」
あかねの頭のハードディスクがキューンと言っている。
「そうね。それにガールズルールをこのままにしておく訳にはいかないわ」
怒ってたももだけど、彼女なりに親バートンとの絆があったみたい。
今度こそここからわたし達の快進撃が……!
「ちょっと待って」
大きな声で会話が中断される。
「あたしは許せないかな」
いろちゃんだった。
無表情のいろちゃん。
「協力はしたいし、あかねちゃんの事は嫌いじゃないけど。
そういう嘘はわたしはダメ」
普段おっとりしているいろちゃんの真顔。
その迫力にわたしは引き止める事ができない。
「ごめんね」
スタスタ立ち去って行くいろちゃん。
理由は何なのか。
これは想像できる事が一つある。
埼北市の実験都市の始まる前。
千葉の学園都市で起こったいじめが原因の自殺。
そして、その隠蔽工作。
被害者はいろちゃんのお兄さんだったのだ。
実験都市にまつわる隠し事には嫌な思い出がある。
いろちゃんが不快に思うのは仕方がない。
そう言えば今日いろちゃんはこの件について発言していなかった。
うかつだった。
でも、これからどうしよう。
「いろはどうしたんですか?」
あかねが不思議がっている。
「いろちゃん、プリジェクションキュレーターをやめちゃうのかなあ」
「そうしたいなら尊重するしかない。
無理強いしていい事じゃないわ」
ももの考えでも原因について、わたしと同じ事を考えているのだろう。
でも、せっかくここまで一緒に頑張って来たのにお別れなんてやだよ……。
一件落着と思ったらとんでもない話だった。
これまでで最大のピンチが、埼北プリジェクションキュレーター崩壊の危機が訪れてしまった。




