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第36話 ガールズルールのリーダー! プリジェクションインフルエンサー現る! Cパート

 ゴルフ場、児玉カウンティクラブでのバトルから逃走するレボリューショナー、ジコチューを追うわたし達。

 神川町もほど近い廃工場に逃げ込むジコチューをついに目撃する。


「あそこがガールズルールのアジト?」


 追いついたサクラ。


「いよいよなんだね!」


 そして、いろちゃん。


「じゃあ、二人ともいくよ」


 わたしが白いガウンをなびかせて言ったその時だった。


「待ちたまえ」


 親バートンが姿を現す。


「もも君といろ君も『モード:スタイリッシュ』になっておいた方がいい」


 そう言うと親バートンはももにピンクと黄色のサイスフィアを渡した。


「イノベーション!」


「プリダイムシフト!」


 サクラとケラサスのやり取り。

 サクラとペアーも「モード:スタイリッシュ」になった。


 三人の「モード:スタイリッシュ」の揃い踏み。

 実に壮観な姿。

 最後の戦いに臨むにふさわしい姿。


 いざ廃工場に突入する私達。


 いた。


 大柄な銀色の礼服、アンダー。

 白い礼服の高校生くらいの双子、シンクロニシティ姉妹。

 三つ編みの紺の礼服の少女、ジコチュー。

 銀髪の巻き毛、黄色い礼服のバレッタ。


 ガールズルール勢ぞろいだ。

 建物内にEPMのプリジェクターもあった。

 ここがガールズルールのアジトで間違いない。


 人数はあっちの方が多いけど、わたし達は「モード:スタイリッシュ」でレボバグに勝利している。

 何人かでも、できれば全員拘束したい。


 彼女達がどんな事情でレボリューショナーになったのかは知らないけど、話し合いは拘束した後でいいじゃない。

 わたしはとにかくこの一件を解決する好機を逃したくなかった。


「どうする?もも」


「あっちが動かないなら三方向から仕掛ける。

 間を抜けて来た奴はあかねが止める。いいわね」


「オッケー」


「わかりました」


 お互いがお互いから目を離さない、緊張の一瞬。


「よし。いっせーのでいくわよ」


 ももの指示で今まさに仕掛けようとしたその時だった。


「待ちなさい!」


 レボリューショナー達より後ろ。

 裏口から聞こえる声。


 その声の主は金髪の女性だった。

 若い大人の女性に見える。

 長く美しい金色の長髪だが、東洋人の顔立ち。多分、日本人。


 ドレスを着ている。

 白が基調だが、金色の太陽が大きくスカートに描かれ、その円から伸びる炎が服全体に絡み付き、ほぼ金色に見える。


「待たせたわ、みんな」


 ガールズルールに話しかける女性。


「完成……したのか」


 つぶやくアンダー。


「ええ、ギリギリ間に合ってよかった」


 そういうと女性はスマホを構える。

 やはり彼女もレボリューショナーなんだろうか。


「初めまして、プリジェクションキュレーターの皆さん」


 スカートの端をつまみ、お辞儀をする。


「わたしの名前は旭日照子(あさひてるこ)

 テルコとは、日の照す子と書きます」


 ご丁寧に自己紹介。


 優雅にクルクル回転してからスマホを操作。

 六人目のレボリューショナーか。


 と思ったが、そうではなかった。


()()()()()()()!」


 確かにそう聞こえた直後、彼女にEPMのプロジェクターから光が降り注いだ。


 金髪はところどころカールに。まるでプロミネンスみたい。

 ドレスがオレンジ色に変わる。

 ドレスの胸や肩口とスカートの裾にフリルが付く。


 そして、頭には羽飾りの着いた冠。

 胸元にはリボンとブローチが。


 その姿はまるで……。

 その姿はまさに……。


「日輪のキュレータ~ァ♪、プリジェクションインフルエンサァ~ア~♪」


 そう。わたし達と同じだった。

 旭日照子はプリジェクションキュレーターに変身した。


 て言うか、この人なんで歌っているの?


「ま~あぁ♪」


 本人も驚いている。

 そして、驚きすら歌っている。


「なんという事だ」


 みんなあっけに取られているが、親バートンは一人狼狽していた。


「エモーションが強力過ぎて会話がミュージカル化している!

 桁違いのエモーションだ!」


 そういうもんなんだ。


「エモい! エモ過ぎる!」


 埼玉銘菓のCMみたいだが大真面目。


 どうやらエモーションが強過ぎるとミュージカル仕様のしゃべり方になるらしい。

 確かに雰囲気だけでも強力なエモーションが伝わって来る。


「とにかく~♪ いきますわ~あ~ぁ♪」


 両手を胸の前に組んだ可憐な姿。


 と、思った直後だった。

 オレンジのドレスの姿が消えた。


 そして、わたし達の先頭にいたももが後ろに吹っ飛んだ。

 もものいた場所に膝蹴りの姿のプリジェクションインフルエンサー。


「一人目~♪」


 そのまま振り上げた足でいろちゃんに回し蹴り。


「二人目~♪」


 いろちゃんも吹っ飛ばされる。


 まずい!次はわたしだ。

 とっさにガード。


 わたしのクロスした腕にハイキックがヒット。


 その瞬間、相手と目が合った。

 それまでの可憐な印象と打って変わって自信に満ちた笑顔。

 鼻筋の通った美しい顔立ちと大きな瞳に引き込まれそう。


 近くに存在するだけで影響を与えてしまう。

 これがインフルエンサーって事なんだろうか。


「あなたが~♪ AIに魂を与えたイノベーションの申し子ね~♪」


 別に申し子なんて呼ばれた事ないけど。


「あなたがイノベーションの申し子なら~♪ わたしはレボリューションの申し子だわーぁー♪」


 即座に放たれたアッパーカットによって吹っ飛ばされてしまうわたし。


「三人目~♪」


 ケラサスと目が合うインフルエンサー。


「ロボットは痛そうだから♪ 今日は♪ やめておくの~♪」


 しかし、プリジェクションインフルエンサーは後ろに飛び退いた。

 ロングドレスと金髪がなびく。

 飛び退く姿すら美しかった。


 何とか元の位置に戻ったわたし達だが、強い光に目がくらんだ。


「エモーショナルアーツ♪ いきます~わーーーあ♪」


 彼女は手を高く掲げると叫んだ。(歌った)


「インフルエンサー♪ グラビティーイーッ♪」


 その後彼女が手を下げると、わたし達四人は強烈な重圧を受けた。


 ブーン、ブーン、ブーン、ブーン…


 不吉な音と共にわたし達は身動きが取れなくなる。

 身体が重くなってくる。

 まるで重力か引力に惹かれるみたいに。


 たまらず膝を付き、そして倒れてしまうわたし達。


『どうだ。我らの力は?親バートン』


 聞き覚えのある低い声。

 レボリューショナー、バレッタのノートパソコンの上に鳥のようなキャラクターが。

 どうやらパソコンの画面からEPMが投射されているみたい。


 目付きの鋭いシュッとしたキャラクター。


 親バートンに似ている。


 でも色は赤い。

 そして、紫色のマフラーをしている。


 親バートンのカラーリングを反転させた感じ。


「ダーク親バートン!」


 バレッタが歓声を上げた。


 もちろん初めて聞く名前。


「ダーク親バートンと名乗っているのか?」


 と、親バートン。


「君にちなんで名乗らせてもらっている。

 わたしがダークとは皮肉なものだと思わないかね」


「悪い奴なんだからダークじゃない…!」


 いろちゃんが叫ぶ。

 この間もわたし達は重力が掛かって身動きできない。


「果たして本当にそうだろうか?」


「エモバグで街を破壊してるじゃない」


「目的のための手段だ。

 正悪を決定するのはその目的にある」


「目的?」


 イノベーションの邪魔をするテロリズムの目的だろうか。


「二択陽一の相反する感情から作られたのがわたし達。

 人間が革命する可能性を信じる心から作られたのがわたし。

 そして、人間はテクノロジーとイノベーションに頼らなければ先がないと判断した心から作られたのが彼だ」


 つまりどういう事だろう。

 ダーク親バートンが人間の可能性を信じているなら、親バートンは人間の可能性を信じていない?


「……………」


 親バートンは何も言わなかった。


「EPMと人工知能による人間の支配、それが彼の、親バートンの本当の目的だ」


 支配……?

 わたし達を助けてくれている親バートンの目的が人間の支配?


「だったらあなたの目的は何だって言うの?」


「エモーションを最も発揮できる者を見つけ、革命を成し遂げる。

 それがわたしの目的だ。

 そしてそれができる者をわたしは遂に見つけた」


 旭日照子、たしかに強力なエモーションの持ち主だ。


「わたしと彼のどちらがが光で、どちらが闇か、これで分かったかね」


 太陽のごときエモーションを発するプリジェクションインフルエンサー。

 その彼女の力によって地に伏すわたし達。


 その関係にも似ていた。


「分かったかね?皮肉さが」


 腕を組むダーク親バートンがわたし達を見下ろしている。


「わたくし達のー♪ 革命にぃー♪ 降伏するのですー♪」


 インフルエンサーの(歌っている)声が降り注ぐ。


「実験都市計画を中止するのだ。

 それで戦いは終わる。

 考える時間は与えよう」


「こーれーでー♪、しばしのーお別れー♪

 ごきげん……」


「待ちなさい、あなた達……」


「よ―――――♪」


 ガールズルール達は飛び去って行く。

 最後まで残っていたインフルエンサーの声が消えると、わたし達の重圧も消えた。


 待ちなさい、なんて。

 わたし、丸っきり歯が立たなかったのに何を言ってるんだろう。


 エモーションの強さを武器に戦ってきたわたし達。

 しかし、旭日照子のエモーションはわたし達を上回る。

 その上、彼女はプリジェクションキュレーターに変身できる。

 必殺技だって使ってきた。


 わたし達が優位に立てる要素はひとつもない。

 かつてない強敵の登場だった。


 そして……、


「きちんと説明してもらえるわよね?」


 真顔のサクラの低い声。

 怒声ではないけど、これはかなりきてる時の声だ。


 だけど仕方がない。

 わたしだってちゃんと話が聞きたい。


 わたし達の視線は親バートンに集中していた。


「あんたの目的は人間を支配する事なの?」


 強敵が現れた事に加えて味方への不信感。


「うー、どうなっちゃうの……」


 と、いろちゃん。


 わたしはあかねを抱きしめた。

 抱きしめたあかねの頭のハードディスクが「キュルキュル」と不安そうに動いていた。

第3クール完結です。

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