第36話 ガールズルールのリーダー! プリジェクションインフルエンサー現る! A、Bパート
わたし達はその日、ゴルフ場、児玉カウンティクラブにいた。
『エモーショナルプロジェクションマッピングは人の心を操作する危険な技術ー!』
「操ったりなんてしてない!EPMのリラックス効果で交通事故が格段に減ってるんだからー!」
エモバグとグリーンの上で熱いバトルを繰り広げているが、もちろんゴルフの話ではない。
エモバグの後ろには、紺の礼服の三つ編みを左右に垂らしたレボリューショナー、ジコチューだ。
エモバグとレボリューショナーが現れたのだ。
「へへへ、来たねえ。プリジェクションソーダ。
もっと技を見せてくれよー」
エモバグに近づいて行くジコチュー。
「ジコチューだっていいじゃないかー!」
ジコチューはエモバグの影を踏んで叫んだ。
すると、ジコチューとエモバグが融合していく。
巨大化したエモバグはコートのようなものを羽織ったような姿に。
顔には目元を隠す仮面のような突起が現れる。
レボリューショナルバグ、レボバグの登場だ。
膝蹴りから回し蹴りの連携。
エモバグと違い、シャープな攻撃だ。
素早くてかわせない。わたしは防御に専念。
「この姿ならさあ、SSR技を使ってくれるよね」
ジコチューは基本的には他人に無関心でスマホでゲームばっかりやってる。
でも、プリジェクションキュレーターの技を見るのが楽しいらしくて、急にテンションが上がる。
それはそれとして、やはりレボバグの戦闘力は厄介だ。
「あおい君!『モード:スタイリッシュ』だ」
赤いマフラーの親バートンが現れる。
「『モード:スタイリッシュ』はももの技でしょ?」
わたしはスタイリッシュじゃないしなあ。
家では結構ジャージだし。
「もも君。サイホックメモリーに青いサイスフィアを入れるんだ。
それであおい君はレボバグと戦える」
親バートンがサクラに青いサイスフィアを投げる。
「分かったわ!」
キャッチしたサクラはサイホックを握りしめ精神を集中した!
そして、サクラはサイホックをケラサスにパス。
「プリダイムシフト!」
ケラサスのブローチからの光がわたしに注がれる。
すると、フリルの付いた真っ白のガウンのような新たなドレスが追加されていく。
ガウンもフリルが付いていて、優美なデザイン。
そして、どんどん気分が盛り上がっていく。
エモーションの高まりを実感する。
これがきっとももの『EPMファッションデザイナー』の能力なんだね。
「プリジェクションソーダ!タイプ:スタイリッシュ!」
わたしは曲げた左手を肩と水平に構え、広げた右手を外側に向け頭にかざした。
「タイプ:スタイリッシュ」になったらスタイリッシュなポーズがしたくなっちゃった。
テンションが上がって、力が沸いてくる。
「そう言えば親バートン、プリダイムシフトってどういう意味?」
「プリジェクションマッピングのパラダイムシフトだ」
そのまんまだった。
「いいじゃん。いいじゃん。そういうの!」
はしゃいでいるジコチュー。
『藁葺木煉歌は国民を操る事を企んでいるー!』
レボバグのパンチのラッシュ。
素早い動きはレボリューショナーとの融合あってこそだろう。
しかし、わたしはそのラッシュをすべて見切ってかわす。
「タイプ:スタイリッシュ」でスピードも上がっているのだ。
そして、
「藁葺木首相は支持率が低過ぎて、それどころじゃないんだからー!」
カウンターのローリングソバットが命中した。
「エモーショナルパワーが貯まったベェ!」
ミムベェが叫ぶ。
わたしの胸のブローチが輝いている。
「さあ、あんたのSSRを見せてくれよ!」
ジコチューははしゃいでいる。
もちろん、エモバグはやっつけなければならない。
精神を集中するとわたしの伸ばした手の先に大きな白い碁石のような物体が。
エモーショナルなメントヌだ。
「メントヌーッ!」
掛け声と共にエモーショナルなメントヌが三つに増え、二つが左右に別れ、レボバグの後ろに飛んで行く。
「ソーダスプラッシュリフレクション!」
目の前のメントヌに触れたソーダスプラッシュが三つに分かれ、まず一つがレボバグに命中。
残り二つは相手の後ろのメントヌに当たってからレボバグを攻撃。
三方向からのメントヌで強化されたソーダスプラッシュが命中する。
たまらず吹っ飛ばされ、雲散霧消するレボバグ。
「大丈夫?」
中の人間にダメージはないと言われたけど、それでもわたしは人間相手に攻撃するのは嫌な気分。
「ヒャッホー!
これはもうSSRじゃくなって、URじゃん!
最高!これ最高ーっ!」
喜んでもらえたなら何よりですけど。
「じゃあそういう事で」
青いサイスフィアを残し、跳躍を繰り返して逃げるジコチュー。
「彼女を追いかけるんだ」
目の前に現れた親バートンが言う。
「え?」
「『タイプ:スタイリッシュ』なら追いつけるはずだ」
わたしは白いガウンをなびかせ、ジコチューの逃げる方向を目指す。
かなり遅れての追跡だったが、みるみる追いついていく。
これでガールズルールのアジトを見つけたら、壊滅させる事ができるかも知れない。
「タイプ:スタイリッシュ」の能力ならレボリューショナーにも勝てるのでは?
そうすればもう戦いは終わり。
実験都市計画を邪魔するものもいなくなり、お母さんの夢を叶える事だって!
勝利の予感でわたしはドキドキしてきてしまったのだった。
☆☆☆
これは後で聞いた話なんだけど。
埼北市某所。、ガールズルールのアジト。
「ジコチューがプリジェクションソーダに追跡されている」
スマートフォンを耳元に当てながら言ったのは大柄な銀色の礼服のレボリューショナー、アンダー。
「『タイプ:スタイリッシュ』のスピードは振り切れないようだな」
「ぶっちゃけた話、それじゃあここがバレちゃうじゃん」
「ここだけの話、それってやばいじゃん」
シンクロニシティ姉妹はアンダーに詰め寄った。
「ぶっちゃけた話、ソーダまで『タイプ:スタイリッシュ』になってんじゃん」
「ここだけの話、4人ともなるかもしんないじゃん」
「全員で迎え撃つしかないだろう」
アンダーは顔色を変えずに言った。
「ぶっちゃけた話、そんな事は聞いてないよ」
「ここだけの話、聞きたいのはそんなセリフじゃないよ」
「何が言いたい?」
アンダーは視線を合わせない。
「決まってんじゃん!」
姉妹は揃って言った。
「ぶっちゃけた話、あの子はいつ来るの?」
「ここだけの話、あの子と連絡ついてるの?」
もちろん、アンダーも聞くまでもなく、分かっていた質問だった。
「わたしに分かれば苦労しない」
その時だった。
「あ、ダーク親バートンからメール来てる!」
三人は一人のキュレーショナーの方を向いた。
黄色の礼服で、髪は灰色のロングの巻き毛、バレッタだった。
「彼女はもう日本に来てるって!」
小柄な少女はノートPCの画面の文字を読み上げていた。
「追跡を逃れるために遠回りをしているが、そろそろ埼北市に着く頃だろう、だってー」
「そうか!」
アンダーは立ち上がった。
「と、言う事はあのシステムも完成したという事だろう。
彼女が来れば何とかなる!」
4人はジコチューの到着を待った。
そして、もう一人の『彼女』を。
なんだかスゴイね!
【あおいちゃんのイノベーティブ現代用語講座】
その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが劇的に変化する事。
パラダイムが規範、範例、常識という意味でそれがシフトするって事だね。
プリダイムシフトもそのくらいの劇的な変化って事なのかな。




