第34話 サクラのイノベーション! その名はタイプ:スタイリッシュ! Bパート
『梅桃さくらはアイドルやめろー』
城下公園に現れたピンクのエモバグ。
「わたしがご指名みたいね」
ももはちゃんと現れた。
「キュレーティン!」
サクラがスマホを操作するとEPMのプロジェクターから光が降り注ぐ
「咲き誇るキュレーター、プリジェクションサクラ!」
ピンクのドレスと、太ももに届くくらい伸びた長いポニーテールが特徴だ。
「わたし達も変身しなきゃ!」
とは言え、ピンクのエモバグならプリジェクションサクラが相手をするのがセオリー。
なんだけど……。
『変身ヒロインの話題性だけでセンターになっただけー!』
エモバグの突進攻撃だが、サクラは回避しただけで、反撃も反論もしない。
「自分の事は反論できないか」
「たこ」の上からアンダーが話しかける。
「ならばここで勝負に出る!」
「たこ」から降りるアンダー。
「影は可能性、ってね」
エモバグが後ろに下がる。
いや、アンダーに近づいていく。
二体のシルエットが重なったと思った瞬間、エモバグが巨大化していく。
巨大化したエモバグはコートのようなものを羽織ったような姿に。
顔には目元を隠す仮面のような突起が現れる。
その姿はまるでレボリューショナーのよう。
「レボリューショナーとエモバグの融合!
マジョリティから接収した技術だ」
マジョリティのアジトで遭遇した、中にキュレーショナーの入ったエモバグ。
「トゲバグ」のようなものだろうか。
巨体が両手を広げるとアンダーの声が聞こえてきた。
「この優美で勇壮な姿!
まさに革命の闘士!レボリューショナルバグ!」
でもバグはバグなんだね。
『梅桃さくらがセンターに立ったらSAH40の人気は低迷したー』
エモバグのパンチだが、
「くっ!」
回避したと思ったら反対の腕でつかまれる。
パンチはフェイントだった。
身動きの取れないサクラ。
「エモバグと一緒にするんじゃない」
確かにフェイントなんて今までなかった。
「サクラを離して!」
わたしがその腕に攻撃して締め上げの緩んだところで、ペアーがサクラを救出した。
「済まないわね、二人とも」
謝罪するサクラ。
助ける事なんて何でもない。
けど、問題はそこじゃない。
「キレキレの反論をしないと!」
「分かってはいるけど、うまい事言えないのよ」
珍しく後ろ向きなサクラ。
「事実なんだから反論のしようがないでしょ」
「そんな事ない!」
わたしは反論した。
「全然、事実じゃないよ!
妙心こころさんだって、ももに任せられると思ったから推薦したって」
「でも実際ライブは盛り上がってない」
「その理由はちゃんとあるんだって!」
今がそのタイミングだと思った。
「あかね、説明して!」
あかねは、は前に出るが気まずそう。
頭のハードディスクが「シューン」と鳴っている。
「まずは謝ります、もも。
あなたがアイドルをやめる必要などないのです」
サクラは答えない。
「あなたには、勘だけで衣装のEPMのエモーションを判別する能力があります」
二択博士が論文に記載した『EPMファッションデザイナー』の能力です」
「わたしにはその職業が向いてるって?」
「服飾とデザインへの知見を深めれば、きっとなれます。
でもアイドルにもきっとなれます。
ライブが盛り上がらないのはもも以上に『EPMファッションデザイナー』の適正のある人間がいなかっただけなのです」
「そっか」
優しい表情のサクラ。
「ごめんね、ちゃんと最後まで話を聞けばよかったわね。
わたしも焦ってた」
ももだってリーダーになる事が決まって、ライブがうまくいかない状況には重圧があっただろう。
「謝るのはわたくしです。
まだまだ人間の心を学べていません」
すれ違ってしまった二人だけど、これでちゃんとお互いの気持ちは伝わったかな?
後はあのデカブツを何とかすれば!
「もも君、袖のホックを取り外したまえ」
ここで親バートンが現れた。
「袖?」
ドレスの袖にはボタンのような、短い筒状の物体が付いていた。
色は白。
見てみたらわたしとペアーもそうだった。
「これは?」
「サイホックメモリーだ」
「埼北メモリー!?」
わたしは思わず叫んだ。
「サイホックメモリー。
プリジェクションケラサスのデータと共に君達のコスチュームもアップデートした。
あらたに作ったホック型のメモリーだ」
服に付ける留め金のホックの形のアイテムみたい。
これもプロジェクションマッピングで投影された映像だけど。
「そのサイホックメモリーにサイスフィアを格納するんだ」
そう言うと親バートンはサクラにピンク色のサイスフィアを投げた。
サイホックメモリーにサイスフィアが吸い込まれる。
サイホックメモリーの方が小さいけど、プロジェクションマッピングのデータの話だしね。
「それをあかね君に渡すんだ。
そうすればあのパワーアップしたエモバグとも渡り合えるはずだ」
「そうはさせるか!」
アンダーが、レボリューショナルバグがケラサスに近づいて来る。
「わたし達もいるんだから!」
わたしとペアーがそれを食い止める。
「 もも君、君のエモーションをサイホックに込めるんだ」
サクラはサイホックを握りしめた。
「で、どうするって言うの?」
「そこからは君次第だ。
君のエモーションに従えばいい」
サクラはサイホックを握りしめ精神を集中した。
『イメージできたらサイホックをあかね君に』
「分かったわ、あかね!」
サクラはサイホックメモリーをあかねに投げた。
あかねはそれをキャッチすると胸のブローチに格納した。
「メモリー解析完了」
あかねの両目がピンク色に輝く。
「プリダイムシフト!」
あかねが広げた両手を前に突き出すと、胸のブローチからEPMの光がサクラに向けて照射される。
光に包まれるサクラ。
「イノベーション!」
サクラの口からイノベーションの言葉が!
そして、サクラのドレスが変化していく。
正確には真っ白のガウンのような新たなドレスが追加されていく。
ガウンもフリルが付いていて、優美なデザイン。
まるでプリンセスみたい。
前方は空いていて、中のドレスのブローチとリボンがはっきり見える。
「モード:スタイリッシュ!」
サクラは左足を前に出して、左手を前にかかげ、レボリューショナルバグを指さした。
新たに白いガウンを纏った堂々たる姿だ。
「カッコいい、サクラちゃん!」
ペアーが手を叩いて感激する。
モード:スタイリッシュはポーズもスタイリッシュだ。
「モード:スタイリッシュ、だと」
サクラをにらむアンダー。
「ええい、邪魔だ!」
レボリューショナルバグ、つまりレボバグのパワフルさに弾き飛ばされるわたしとペアー。
「そいつはわたしに任せて」
ゆっくりとレボバグに近づくサクラ。
『梅桃さくらがセンターに立ったらSAH40の人気は低迷したー』
巨大なレボバグのパンチ。
「そうかも知れない」
サクラはそれを片手で受け止めた。
『変身ヒロインの話題性だけでセンターになっただけー!』
さらにレボバグは両手を組んだ拳を振り下ろす。
「それもそうかも知れない」
回し蹴りでそれを弾き返す。
「どうした?キレキレの反論はしないのか?
本当の事には言い返せないか?」
アンダーの声が聞こえる。
『梅桃さくらはアイドルやめろー』
ボディプレスを仕掛けてくるエモバグ。
「それでもわたしは!」
サクラの両手を上下に突き出す双手突き!
「自分で選んだ自分の夢を目指して、進む!」
さらに膝をついた相手に身体を回転させて、フグトルネード!
「パワーが貯まったぷー!」
はにぷーが叫ぶ。
「まだ終わらん!」
レボバグの姿勢を低くしたレスリングのタックル。
「あらそう」
しかし、サクラはさらにその下にもぐり込んだ。
サクラのブローチが輝く。
サクラは桜吹雪に包まれた。そして!
「サクラブリザード・入魂!」
サクラが拳を放つと桜吹雪はその腕に集約された。
上方への正拳突きがレボバグに炸裂すると、その巨体は竜巻のようになった桜吹雪と共に天高く吹っ飛ばされる。
拳を天に向けて立つサクラの白いガウンが、風になびいている。
上空でエモバグが掻き消えると、ピンク色のサイスフィアとアンダーが落ちて来た。
アンダーは着地した。
狼狽はしているが無傷だ。
「中の人間のエモーションを避けて攻撃するみたいね」
「はい、人間を傷つける事はありません」
どうやらあかねの機能でレボバグを攻撃しても中の人間にダメージはないようだ。
「そのロボットがお前達のパワーアップまでできるとは……!」
あかねをにらみ付けるアンダー。
「赤バグの事と言い、いちいち先回りしてくる……。
やってくれるな、親バートン」
アンダーは跳躍を繰り返して飛び去って行った。
「すごい!すごい!ももちゃん、カッコいい!かわいい!」
サクラに駆け寄ってはしゃぐペアー。
確かにフリルの付いた白いガウンを纏ったその姿は強そうなのに、かわいらしい。
これもEPMの心理効果かな。
「あかね、わたしはセンターからは降りる。
また衣装選びに参加する」
「せっかくのチャンスに水を刺してごめんなさい」
「わたしに才能があるならそれはいい事じゃない」
そう言ったももはすがすがしい笑顔だった。
「でも、センターを降りたらまたいろいろ言われそう」
いろちゃんが心配そうに言う。
「わたしは自分が納得してやってる事なら、誰に何を言われても気にしないわ」
凛としたいつものももだ。
「アイドルやめちゃうの?」
元アイドルのお母さんにあこがれて、この世界に入ったもも。
それなのに引退してしまうのか、わたしは心配だった。
「やめないけどデザインの勉強は本格的にやりたいわね」
EPMファッションデザイナーも目指すのだろうか。
それはちょっと忙しそう。
「今時ワンイシューの方がリスキーよ」
元々衣装選びをしてたし、全然無関係な事を同時進行するのとは違うのかも。
「わたしの方がイノベーティブになっちゃうかもね」
いたずらっぽく微笑むもも。
「わ、わたしだって負けないよ、もももも」
「ももももって言うな!」
「それはだじゃれですか?」
「これは……、そうかも」
「全然違う!何言ってんの、あんた達」
「三人とも、おかしー!」
パワーアップも果たし、ピンチを乗り越えたももとあかね。
あかねはいつも目が離せないけど、これからもその成長を見守っていきたい。
心からそう思った。
だけどこの後起こった事は、わたし自身の問題だった。
それをこの時は知るよしもなかったんだ……。




