第33話 梅桃さくら大ピンチ! あなたはアイドルを辞めるべきです Aパート
「やっと君に会えたよ、親バートン」
ゆるキャラとして現れた親バートン。
そこにやって来たわたしのお父さん、葵上蒼介。
二人の初めての出会いだ。
「お父さん、親バートンが見えるんだね」
「そう言えばそうだね」
「見えないのはエモーションの高いものを選別するためだ。
もはやその機能は好ましくない」
わたし達がプリジェクションキュレーターに選ばれたのはゆるキャラ達の姿が見えたから。
でも、それ自体が選別方法だったみたい。
「赤いキュレーターはあかね君と決めていた」
そう言えば初めからあかねを指名してたっけ。
「この件に絡んで役所の君のアカウントにプリジェクションケラサスに関するファイルを送った」
「ああ、あとで確認するよ」
お父さんも緊張の面持ちだ。
「君に質問をさせてもらっていいかい?」
今まで姿を現さなかった親バートン。
聞きたい事はたくさんあるが、プロジェクションマッピングの映像に過ぎない。
あっさりと姿を消してしまうかも知れない。
「これからはこの姿を見せる機会も増える。
答えられる事は答えよう」
その鋭いまなざしをお父さんの方へ。
今回はじっくり話が聞けそう。
「では。ガールズルールとは何者なんだい?」
革命の闘士を名乗る少女達。
仮面を付けていて、正体不明だ。
「ガールズルールこそ、この街を狙う敵の本体だ」
「マジョリティとの関係は?」
「マジョリティはコーデシステムの実験台に過ぎない」
「そして、どちらも『彼』が作った」
「彼?」
「もう一人のわたしだ。
彼は実験都市計画の中止を狙っている」
そんなのがいるんだ。
「そして、わたしも彼も二択陽一が作った」
二択陽一!
行方不明の天才科学者。
EPMとAIの権威。
ついにこの人の名前が出て来た。
お父さんも驚いている。
「か、彼は今どこにいるんだ!?」
「わたしにも分からない」
「なぜ陽一は姿を消したんだい?」
「彼は命と研究成果を狙われている。
だから身を隠した」
命を狙われてるって!
「一体誰に?」
「AIを危険視する者や、宗教上の理由でその存在を許せないものは、無数に存在する」
「まさかガールズルールを操る組織とかもいるの?」
「『彼』が直接動かすガールズルールが間違いなく本体だ。
その上部組織はない」
「でもどうして二択陽一博士は実験都市計画を邪魔するAIなんて作ったの?」
実験都市の敵を作るなんて。
しかも自分の命を狙われているのに。
「わたしには分からない。
しかし、『彼』が本腰を入れる日は近い。
それに対抗する準備を進めたい」
実験都市計画の中止を目論む、もう一人の親バートン。
それが本腰を入れると何が起こるのだろう。
「最後にもう一つ、教えて欲しい」
お父さんは親バートンを見つめ、言った。
「君は自律型AIではないのか?」
そう言えば親バートンは自分の意思を持っているように見える。
だとしたらすでに二択陽一博士は自律型AIを作っていた事になる。
「博士が自律型AIを目指して作ったのが、わたしと彼であるのは事実だ。
しかし、わたしはエモーションを持ち合わせていない。
わたしは博士が事前に用意したプランを実行しているだけだ。
キュレーターシステムも博士が事前に用意していたものだ」
「そうか。やっぱりアイツは天才だな」
苦笑するお父さん。
「あかね君の成長でわたしもエモーションが獲得できると助かる」
「そうだね……」
懐かしいような寂しいような不思議な表情のお父さん。
親バートンに親友、二択陽一の面影を見ていたのかも知れない。
その日はそれで家に帰った。
お父さんは親バートンの送ってきたファイルの実装をしたみたいだけど。
次の日。
「あおい本庄のニュースです」
朝ごはんの時間、テレビを見ていたあかねの声でテレビを見てみる。
食事をしないあかねはテレビを熱心に見る。
それはもう食い入るようにガン見する。
変わった言い回しやジョークを聞く度にハードディスクが大きな音を立てる。
それはさておき、ニュースは本庄のご当地アイドル、SAH40の話題だった。
「妙心こころ、東京進出」の見出しが目に付く。
SAH40リーダー、不動のセンター。妙心こころさん。
まずは、こころさんが東京の芸能プロダクションと契約する事と、映画で主演するらしい事が書いてあった。
その後、画面に映ったのは端正なキリッとした顔立ちのポニーテールのアイドル。
脱退するこころさんの、次のリーダーとして若干14歳の梅桃さくらの名前が上がっているらしい!
プリジェクションキュレーターである事が明らかになって、知名度が急上昇からの大抜擢に注目が集まっている、との事。
それに、元々美人だし、スタイルいいし、歌とダンスの実力だって申し分ない。
最近はあかねに付きっきりだったし、ガールズルールも現れて、ライブに行く余裕なんてなかった。
だけど、ももがセンターで歌うなら見にいかなくっちゃ!
ももといろちゃんにメール。
今日も確かライブをやるはず。
いろちゃんも予定合いそうなので、学校が終わったら一緒にライブハウスに行く事になった!
もちろん、あかねも一緒。
ただちょっとだけ気になった事が。
肝心のももからの返信が「わかったわ」の一言だけだった。
気合いを入れておめでとうメール送ったんだけど、調子狂っちゃった。
疲れてたのかな、と思った。
その時は。
本庄の商店街にあるライブハウス、レッドサイン前でいろちゃんと待ち合わせ。
「今日のライブでリーダー交代の発表するかな?」
「ライブではすでにセンターでちょくちょくやってるんだって」
知らない間に結構頑張ってたんだなあ、もももも。
ももの好物、伝説の銘菓、わかいづみも買ってくればよかった。
当日のチケットがダメ元で手に入ってラッキー。
そんなに並ばないで済んでラッキー。
と、思っていたが、会場の客席自体も空席があった事にはさすがに異変を感じる。
「前は平日でも混み混みだったよねー」
いろちゃんも首を傾げている。
そして、ライブが始まった。
センターに立ったももにエールを送る。
友人としても鼻が高い。
のだが、なぜか会場の盛り上がりがイマイチ。
て、言うかわたし達もややテンションが上がらない。
ももやメンバーのみんなに悪いところがあるようには見えない。
歌もダンスもEPMによる没入感もバッチリ。
なのになんだか盛り上がらない。
そのまま、ライブ終了。
もしかして、当日チケットが取れて、あんまり並ばないで済んだのって、人気が低迷してるって事?
いやいや、いいライブだったよ。
なぜかテンション上がらなかったけど。
帰る時、わたし達の前を行くファンの人の会話が聞こえてきた。
「センター変わってからなんかダメだよなー」
「!」
「ステイ、ステイだよ。あおいちゃん」
飛びかかりそうになるが、いろちゃんに制止される。
リーダーが変わったから?もものせいだって言うの?
ひどい!
「でもたしかに盛り上がらなかったよね?」
いろちゃんも同じ感想みたい。
でも、何が違うんだろう?
「幸魂係数が低下しています」
あかねだった。
「過去のライブ映像と今回のライブでは、観測できる幸魂係数に明確な違いがあります」
「それはなんでなの?」
「分かりません。ですが、数値で観測できる様な明確な違いがあるはずです」
あかねには分析を続けてもらう事にした。
とは言え、ももと話をしたいなあ。
放っておけないよ。
と、思っていたら、
「エモバグが出たトン、君達」
低いダンディーな声で語尾に「トン」を付けてきたのは、サッカーボールくらいの大きさの、赤いマフラーをした、紫色の鳥のようなキャラクター、親バートンだ。
「色は?」
「赤と青だトン」
どうやら二体現れたみたい。
これまでにないパターン。
やはりガールズルールが本腰を入れつつあるのだろうか。
「場所ははにぷープラザだトン」
旧本庄市役所である、市民活動交流センター、はにぷープラザ。
駆け付けると、その駐車場に二体のエモバグが。
青いエモバグが叫ぶ。
『多くの人々が不快に思ってる表現は中止すべきだー』
赤いエモバグが叫ぶ。
『表現の自由は公共の福祉に反しない限り、制限してはならないー!』
うー、ももが大変な時なんだから静かにしててよー。
<つづく>




