第32話 ありえなーい!?赤いエモバグ出現! 誕生!プリジェクションケラサス! Bパート
初登場のレボリューショナー、アンダーと赤いエモバグ。
「だったら50回攻撃してエモーショナルパワーをためるだけよ」
サクラは一歩前に出たが、さらにシンクロニシティ姉妹まで現れて大ピンチ。
ところが、
「待ちたまえ」
急な低い声。
街灯の上に小さな姿。
「それには及ばない。50回攻撃する必要などない」
それは埼玉のゆるキャラ、子バートンに似ていた。
紫色の鳥のようなキャラクター。
しかし、それは赤いマフラーをなびかせていた。
それに何より目付きが鋭く、釣り上がっている!
トレードマークのつぶらな瞳ではない以上、これは断じて子バートンではない!
「あなたはいったい誰?」
「わたしだ。親バートンだ」
「親バートン!」
私たちを何度か助けてくれている、謎の存在。
今までは声しか聞こえなかったのに。
「ダンディー!カッコいい!」
いろちゃんは目を輝かせている。
確かに腕と言うか、羽を組んだその姿はカッコいいとも言えるけど。
「それより50回攻撃しなくていいって?」
実務的な質問をするサクラ。
「この事態を察知して研究してきたが、ついに完成した」
街灯の上の親バートンは腕というか羽を組んだまま、赤いエモバグを一瞥して、言った。
「あの、赤い社会問題のエモバグに対応したプリジェクションキュレーターのドライバーだ」
赤いプリジェクションキュレーター!?
「でも、一体誰が?」
ドライバーだけあっても意味がない。
「あかね君、君だ」
親バートンの話しかけた相手は、あかねだった。
「なぜわたくしに言うのです。わたくしは人間ではありません」
「人間ではないがエモーションを持っている」
「無理です」
下を向くあかね。
頭のハードディスクから「シューン」と音がする。
落ち込んでいる音だ。
「わたくしにはあおい達のようなエモーションは備わっていません。」
「なぜそう思うんだね?」
「わたくしは物事をロジカルに見てしまいます。
聖書の教えから普遍的な愛や優しさを学べません。
禅を組んでも無我の境地には至れません」
「そうかね」
親バートンは大きく頷いた。
「まだ生まれて二ヶ月だ。
それでそこまで思考できているなら上出来だ」
まだ茜のハードディスクは「シューン」と鳴っている。
「大丈夫!あかねならできるよ。一緒に街を守ろう」
「街を守る……」
「幸魂を上昇させるんでしょ!」
ここであかねのハードディスクの音が「キュイーン」となる。
「方法を教えて下さい」
上を向くあかね。
「これからドライバーを転送するから解凍するんだ」
「しました」
一瞬後に返事。やっぱりAIだけあって早い。
「実行すればプロジェクターからEPMが投射される」
両腕をクロスして構えるあかね。
「キュレーティンだよ!あかねちゃん」
ペアーがすかさず叫ぶ。
ああ、わたし達の変身ポーズを真似てたみたい。
「キュレーティン!」
叫ぶとあかねの両目が真っ赤になり、psyの黒字が浮かび上がる(ちょっと怖い)。
あかねにプロジェクションマッピングの光が投射される。
衣装がわたし達と同じようなフリルの付いたドレスに。
もちろん、プロジェクションマッピンでの投影された衣装だ。
色は赤。
胸元のリボンの中央には大きな宝石型のブローチが。
違うのは髪型でカチューシャはなく、ツインテールのテール部分が大きくなっている。
「何だと!?」
「ぶっちゃけた話、赤いプリジェクションキュレーター!?」
「ここだけの話、赤いプリジェクションキュレーター!?」
ガールズルールらの狼狽する声。
「さあ、あかね君、名乗るんだ。
君のエモーションに従って」
親バートンの声を聞いたあかねのハードディスクが「ヒュオーン」と鳴る。
思考を巡らせているのだ。
「ケラサス……」
しばらく自分の衣装の各部を眺めていたあかねだったが、前を向いて、言った。
「わたくしはプリジェクションケラサスです」
「ケラサス……!」
その名を聞いてわたしの身体は思わず震えてしまう。
涙が出そうになる。
「どうしたの、あおい?」
「あおいちゃん、大丈夫?」
うずくまるわたしにももといろちゃんが心配して駆けつける。
「ケラサス=スパキアナ、しだれ桜の学名だよ。
お母さんの大好きだったお花……」
「わたくしの心の奥にある、美しい、守りたいもののイメージです」
あかねのメモリの中にあるわたしのお母さんの記録映像から名付けたんだろう。
大丈夫。ちゃんとあかねは景色を美しいと思うエモーションを持っているよ。
その後、ツインテール型のヘッドパーツが赤紫に変色し、大きく垂れ下がる。
まるであかね自身がしだれ桜のよう。
「なんか桜が被っちゃってるわね。別にいいけど」
サクラがつぶやく。
「エモバグとのバトルは大丈夫?」
起き上がって尋ねる。
「はい。わたくしにお任せ下さい」
そう言うとあかねは両手両足をゆっくりと広げた。
さらにそのまま、片足立ちに。
「この構えは?」
体操、かなあ?
わたしは拳法には全然詳しくない。
「武術としての太極拳、伝統拳か」
アンダーが口を開く。
「これは面白い」
「呼吸法というのは興味深いテーマです」
あかねは拳法もディープラーニングしてたようだ。
でもロボットなのに呼吸法?
「だが、やらせると思うな!」
アンダーの巨体があかねに、プリジェクションケラサスに迫る。
「この場で破壊してやる!」
しかし、
「あんたの相手はわたしよ」
サクラの正拳突きは受け止められたが、アンダーはケラサスに接触できなかった。
「邪魔をするな」
「そっちこそ」
アンダーとサクラのバトルが始った。
「わたし達もいくよ、ペアー!」
「オッケー!ソーダちゃん」
わたし達はシンクロニシティ姉妹の相手だ。
「ぶっちゃけた話、邪魔じゃん!」
「ここだけの話、邪魔じゃん!」
「ケラサス!あなたは赤いエモバグをやっつけて!」
「分かりました」
大きなツインテールのプリジェクションケラサスが市庁舎の前に。
市庁舎に迫る赤いエモバグの前に立ちはだかる。
再び両手を広げて片足立ちになるケラサス。
『危険な紛争地域に行って取材するのを非難するなー』
エモバグがケラサスにパンチを仕掛けてくる。
ケラサスは右腕でその拳を抱え、左手で肘を相手の外から内に上げた。
そこから腕を突き出し、
「自分達にとって都合の悪い、信じたくない情報は無視するあなた達の言う事ではありません」
攬雀尾の型で吹っ飛ばした!
「エモーショナルパワーは貯まってるぞ!」
親バートンが叫んだ。
「キレッキレだトン!だよ」
わたしは訂正した。
「むう、キレッキレだ、トン!」
まだ照れを感じるなあ。
まあおいおい慣れてくるかな。
『彼らが貴重な情報を持ちかえってくれるから我々は真実を知る事ができるんだー』
吹っ飛ばされたエモバグは再び、飛びかかってきた。
今度はケラサスは回避する。
実と見せて虚。
しかし、
「本当に貴重だと思っているなら、情報それ自体を重要視しなさい」
つま先の蹴り、分脚が炸裂。
軽い蹴りなのにエモバグは大きく転倒した。
クロスカウンターで威力が倍増したのだ。
今度は虚と見せて実だ。
「あなた達に比べたら『危険だから行くな』と言ってるほうが命を大切にしてるだけ優しいです」
ケラサスの太極拳はエモバグを圧倒していた。
「君達。いいかね?」
親バートンだった。
「今の攻撃でエモーショナルパワーがチャージされた」
あ、そうなんだ。
見ればあかねのブローチが光輝いている。
「もっと大きな声で言うんだよ」
ミムベェ、はにぷー、こむぎっちゃんともに結構声を張り上げるイメージがある。
「あとトンも付けて」
「むう……。パワーが貯まったトン!!こうかね?」
「うん!いい感じ。あかね。必殺技、いけるよ!」
「把握しています……」
あかねは輝くブローチの前に両手を置いた。
「いきます!」
あかねの全身が光輝く。
「ケラサスプロジェクト!」
掛け声とともに左右のツインテールが二つに割れ、四本のテールになった。
そしてそれらは鎌首を持ち上げるとエモバグに向かって行く!
テールはエモバグの両腕、両足を捕まえるとケラサスの方へ戻って行く。
ケラサスは左手で迫って来るエモバグの頭をキャッチした。
そして、白く輝く右手でエモバグの胸に掌底を放った!
「これって気功!?」
「うむ、エモーショナルな気功だ」
わたしの疑問に親バートンが答える。
ロボットによるエモーショナルな気功。
言ってて訳が分からなくなってくるが、そういうものらしかった。
消滅する赤いエモバグ。
プリジェクションケラサスの勝利。あかねの勝利だ。
「ふん」
鼻で笑うアンダー。
「あいつが親バートンか。これに対応してくるとはやってくれる」
親バートンを睨んでるみたい。
「まあいい。退くぞ」
アンダーとシンクロニシティ姉妹は跳躍を繰り返しながら去って行った。
まあ、ケラサスが必殺技を出した辺りからみんな、バトルそっちのけで釘付けになってたけどね。
「サイスフィアゲット、トン」
ダンディな言い方でサイスフィアをつかむ親バートン。
ちなみにそれは初めて見る赤いサイスフィアだ。
「親バートンと出会う日が来るなんて」
赤いマフラーの目つきの鋭い子バートン、それが親バートンだ。
「久しぶりと言うか、初めましてと言うべきか」
ビバークモールのエモバグを教えてくれた時以来。
そして、姿を見るのは初めてだ。
「赤いエモバグの出現を察知してからこっち、キュレーターシステムの開発で手一杯だった。
なんとか間に合ってほっとしている」
「それは今ならゆっくり話を聞ける、と考えていいんだね?」
そこにいたのはわたしのお父さんだった。
「葵上蒼介……」
「やっと君に会えたよ、親バートン」
そう、これはお父さんと親バートンの初めての遭遇だったのだ。




