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第29話 ぶっちゃけた話? ここだけの話? シンクロニシティ姉妹登場! Bパート

「なんて事言うの?あかね!」


「死んじゃダメな理由を、イリーガルな理由を説明しました」


「リーガルじゃなくてエモーショナルに説明して!」


「離れて下さい。重いです」


 わたし立ちが取っ組み合いをしていると、


「お前らうるさい!」


 男子生徒の怒鳴り声が。


「邪魔だ!そこどけよ」


 見上げてみれば男子生徒身を乗り出している。


「刺激しちゃダメでしょ!」


 花壇前の先生から叱られる。

 わたしはあかねから離れた。


「あかねはロボット三原則って知ってる?」


「もちろんです。ロボット運用のガイドラインの中でも最も重要なものの一つです」


 ロボット三原則とはざっくり言うと、


 1、ロボットは人間を傷つけてはいけません。

 2、ロボットは人間の言う事を聞きなさい。

 3、ロボットは、自分の事も守りなさい。


 と言うロボットが従うべき原則だ。


「だったらあの子を助けなきゃ」


「それは正しいです。ですが……」


「ですが?」


「強引に取り押さえる事は彼の幸魂係数を低下させます」


 こんな時まで幸魂係数の話だった。


「命には代えられないでしょ?」


「三原則も大切ですが、世界の幸魂係数を高める事はわたし達の本能です」


 ロボット三原則より優先な事なんてあるのかと思ったら、わたしがロボット達に与えた本能の事だった。


「これらを両立させる手段はあるのではないでしょうか」


 そう言うとあかねは校舎に向かっていく。


 あかねが両手を壁に押し付ける。

 そして、プシューと音がすると、壁に手が貼り付いた。


「何やってるの?あかね」


「やはりこの壁は大丈夫そうです」


 その手より高い位置に反対の手を張り付け、またプシューと音がするとその手も張り付いた。


 そして、最初に貼り付けた手がプシューという音と共に壁から離れた。


 この手をさらに高い位置に付けると足が浮く。


「これならいけそうです」


 あかねは壁を登っているのだった。

 樹脂でできたあかねの身体はある程度の変形ができる。


 手のひらを壁に密着させ、真空状態を作る事で張り付けるのだ。


「うわあああ!」


 男子生徒が驚いている。

 まあ仕方がない。

 ロボットが自分めがけて壁をよじ登ってくるなんて結構なスリラーだ。


「来るな! 来るなあ!」


 思いっ切り刺激しまくってる。

 ただわたしは、これは悪くないと思った。


 生徒はフェンスにつかまっていた。

 階下から迫るあかねから逃れるにはそういう動きになる。

 このままフェンスの内側に逃げてくれれば安全だし、先生方が取り押さえるチャンスができる。


 実際は男子生徒はその場で固まっていたが、ともあれあかねは屋上までたどり着いた。


 周囲から嘆息が漏れる。

 これで最悪の事態は避けられた。

 と、誰もが思ったが、そこであかねの口から出たのは意外な一言だった。


「さあ、わたくしと一緒に飛び降りましょう」


 あかねは少年をがっちりと抱え込んで校舎の下を見据えた。


「な、何やってんの?あかね」


「わたくしの身体はこの程度の衝撃は吸収できます」


「だから何?」


「この方の飛び降りたい欲求を安全に満たす事で、人命救助と幸魂係数の上昇の両方を達成します」


「ちょっと……!」


「行きましょう」


「あかね、ダメったら!」


 あかねは少年を抱えたまま、飛び降りた!


「わあああああああああああああ!」


 花壇に落着したあかね。

 激突音としか聞こえない音と、飛び散る花壇の土。


 柔らかい花壇の土が衝撃を抑える事が計算の内だったのかも知れないが、


 確かに男子生徒にケガはなかったが、


 あかねは平然と歩いて花壇を出て来たが、


「なんて事するの!あかね」


 わたしはあかねを叱った。


「救助しました」


「しました、じゃありません!」


 のしのしとあかねに迫るわたしだが、


「すっげー!」


 男子生徒の歓声。


「おれさ、ジェットコースターとか大好きなんだ!

 そういや、受験で行ってなかったっけ」


「あなたの幸魂係数が上昇しました」


 あかねの頭のハードディスクが嬉しそうに「キュイーン」と鳴っている。


「ねえ、ロボットの姉ちゃん。もう一回やって!いいでしょ?」


「よくありません!」


 わたしは男子生徒も叱った。


「遊園地に行きなさい!」


 わたしはジェスチャーで少年にあかねから降りるよう促す。


「あかね!危ないでしょ!」


「人命救助と幸魂係数上昇を両立できました」


「だからって飛び降りるなんて!」


 心配したやら、安心したやら、怒ってるやらでわたしはかなり感情的になってしまった。

 ちょっと泣いてたし。

 じっくり説教しようとしてたその時、だった。


「エモバグが出たベェ!」


 紫色の鳥のような姿。ミムベェが姿を現す。


「色はピンク。本庄西中学校だベェ」


 今度は本庄か。ももがなんとかしてくれそうだが一応向かわないと。


「あなたも来なさい!」


 わたしはあかねを伴って学校を後に。


 本庄に向かうバスの中であかねに説教する事にした、


 のだが、バスが動き出してほどなくももからメールが。


『また変なのが出た!』


 それはミムベェから聞いてるって。

 それに「変なの」って……。


「全くももももはホウレンソウがなってないなあ」


「ホウレンソウ……」


 あかねのハードディスクが「キリキリ」と音を立てる。


「報告、連絡、相談の事ですね。


 またはヒユ科アカザ亜科の野菜の事ですね」


「そうそれ」


 あかねは網羅的だ。


「この場合は……前者になりますか?」


「前者になりますね」


 とにかく変身して、その場へ向かう。

 あかねは校外で待機。


 そこにはエモバグとサクラ、ペアーの他に二人の人影があった。

 白い仮面から長い黒髪が流れている。


 二人はわたしの姿に気付いた。


「ぶっちゃけた話、青い奴来たじゃん」


「ここだけの話、あいつががプリジェクションソーダじゃん」


 ああ……!


「あ、ソーダちゃん!」


「あかねも一緒なのね」


 サクラとペアーと並んだわたし。


「ぶっちゃけた話、あたし達はシンクロニシティ姉妹じゃん」


「ここだけの話、プリジェクションキュレーターはあたし達が倒すじゃん」


「また変なのが出た……」


 わたしはつぶやいていた。


 その二人は白い仮面をしていた。


 口元は開いていて、目を隠すタイプ。


 仮面だけでなく服装も全体的に白い。

 金の刺繍が所々に施された貴族の礼装のような姿。


 トゲトケして黒っぽかったキュレーショナーとは対照的。


「あ、あなた達は何者ですか?

 キュレーショナーと関係あるんですか?」


「ぶっちゃけた話、あたし達はキュレーショナーじゃないじゃん」


「ここだけの話、あんなのと一緒にして欲しくないじゃん」


「ぶっちゃけた話」

「ここだけの話」


 二人は並ぶと、片方は立って、片方は座って両腕を広げ、ポーズを決めた。


 そして揃って叫んだ。


「あたし達はシンクロニシティ姉妹。

 ガールズルールのレボリューショナーじゃん!」


「ガールズルール!」


「レボリューショナー……」


 ガールズルールが組織名になるのかな?

 そして、背丈が一緒。双子かも。

 わたし達より高い目で高校生くらいなのかも知れない。


「あなた達がエモバグを作ったんですか?!」


「ぶっちゃけた話、その通りじゃん」


「ここだけの話、なかなか便利じゃん」


 もものメールの通りの変な奴らだけど、エモバグはやはり彼女達の仕業のようだ。


「どうしてこんな事するんですか?」


「ぶっちゃけた話、藁葺木煉歌の肝入りの特区計画をぶち壊すためじゃん」


「ここだけの話、人の心を操るEPMと人間を脅かす自律型AIを作る計画を阻止するためじゃん」


「それがあたし達の革命じゃん」


 これは二人揃って。


「そんなの言いがかりだよ!」


 もっともらしい理屈だけど二択博士もお父さんも技術を悪用なんかしてない。


「うー、バトルは遊びじゃないんだよ!

 ケガする事だってあるんだよ!」


 それならとわたしは言ってみた。

 セゾン姉妹がわたしがケガを負った事にショックを受け、戦意喪失した件を思い出したのだ。


「ぶっちゃけた話、そんなの当たり前じゃん」


 あたし達は革命の闘士じゃん」


「ここだけの話、そんなの覚悟の上じゃん」


 馬鹿にするなじゃん」


 ステレオで反論されてしまう。


 それにしても革命って単語がよく出てくる。

 革命だからレボリューショナーなのかな。


「御託は立派だけどただのテロリストね」


 ももが一歩前に出る。


「ソーダ、ペアー、あいつらを引き付けて」


「分かった!」


「オッケー!サクラちゃん」


 そう、エモバグがピンクならサクラの出番。


 シンクロニシティ姉妹はわたしとペアーで食い止めるのだ。


「いけー!エモバグ!」


 姉妹はエモバグの肩から降りる。


『ネットで動画配信してる素人よりプロの芸人の方が面白いー!』


 エモバグは学校に向かって行くが、わたしとペアーはスルー。

 シンクロニシティ姉妹を迎え撃つ。


「悪い事は許しません!」


「革命の邪魔をするお前らがワルじゃん」


 その隙にサクラがエモバグを攻撃する。


「それは動画の再生時間とテレビの拘束時間も考えに入れて、満足度の比較をしなければ意味がないわ!」


 サクラの飛び後ろ回し蹴りがエモバグにヒット。

 大きく体勢を崩す。


「キレッキレぷー!」


 はにぷーが歓声を上げる。


「ぶっちゃけた話、なかなかやるじゃん」


「ここだけの話、アイドルのくせにキレがあるじゃん」


「アイドルだからキレがあるんですー!」


 わたしはペアーと共にバトルしつつ、姉妹を論破した。


「大体、言ってる事がおかしいよ!


 ぶっちゃけた話なんですか?

 ここだけの話なんですか?」


「ぶっちゃけた話じゃん」

 シンクロ二シティ(左)が答える。


「ここだけの話じゃん」

 シンクロ二シティ(右)が答える。


 ……聞いたわたしが馬鹿だった。


「相手のぺースに飲まれちゃダメ。ソーダちゃん」


 とペアー。

 その通りだ。

 幸い、バトルしてみると、シンクロニシティ姉妹は強過ぎる訳ではない。

 わたしとペアーでサクラがエモバグに集中できるようにフォローできればいいのだ。


『犯罪まがいの迷惑行為で再生数を稼ごうとする連中もいるー!』


 そのエモバグだが、体勢を立て直し、サクラにパンチをしてくる。


「確かに人に迷惑をかけたり、自分をが危険な目にあう人もいるけど!」


 サクラ、カウンターの逆突き。


「でも、ネット配信は芸能人に限らず、専門家が知識を伝える空間にだってなる!」


 そして、足刀蹴り!


 大きく吹っ飛ぶエモバグ。

 やはりサクラのエモーションも成長している。


『プロの芸人が動画作ったら素人配信者はいなくなるー!』


 さらに飛びかかってくるエモバグだが、


「そんな事ない!」


 素早く回避してからの反撃。


「ネットで調べないと本当の事を言ってるかすら怪しいニュースやワイドショーに、コメンテーター面して座ってる芸人たちは!」


 すねを狙った素早い蹴りでエモバグのバランスを崩してからの、


「襟を正さなくっちゃいけないんだからー!」


 腰を正面にひねって拳を繰り出す振り打ちがこめかみにクリーンヒット。


 ここでサクラの胸のブローチが光輝く。


「エモーショナルパワーが貯まったぷー!」


「くらいなさい!」


 ももの周囲をエモーショナルな桜の花びらが舞う。


「サクラブリザード!」


 その桜吹雪は竜巻になってエモバグに向かって行った。

 桜吹雪が散るとエモバグも姿を消していて、ピンク色に輝く球体が残っただけだった。


「サイスフィア、ゲットしたぷー。

 でも、しまえないぷー」


「わたしが預かるわ」


 サクラはそれを胸のブローチにしまった。


「くっ!エモバグが!」


 シンクロニシティ姉妹は後退していく。


「ぶっちゃけた話、今日は小手調べじゃん」


「ここだけの話、わたし達のレボリューションはここからじゃん」


 ジャンプを繰り返しながらシンクロニシティ姉妹は去っていった。


 ガールズルール、一見するとマジョリティと大差ない感じだけど、何者なんだろう。

 革命の闘士だって。

 この前親バートンが言いかけてた事なのかな。


 まあエモバグがやっつけられてよかった。


「二人ともお疲れ」


 ももは疲れてはいるけど、まだまだ元気みたい。


「あかねも連れて来たんだ」


「まあ、いろいろあって……」


 帰りのバスの中、あかねは謝ってきた。


「わたくしの行為は危険だったですね」


 あかねの頭のハードディスクが「シューン」と言っている。


「あかねが安全だと思ったのならわたしは信じるよ」


 今さらながらきつく言い過ぎたのかも。

 あかねの手を握る。


「あかねが心配だっただけ。わたしの方こそごめんね」


「わたくしの心配は無用です。

 ロボットは痛みを感じませんし、修理もできます」


「そんな事ないよ」


 わたしはあかねとおでことおでこを合わせた。


「あなたにはエモーションがあるの。それを忘れないで」


 もちろん、危険な状況をロボットに引き受けてもらう事はあるだろうし、期待もされるだろう。

 でもわたしはあかねをむやみに危険な目にはあわせたくないって、そう思ったんだ。


「さあ、学校に戻ろう!」


 でも、結局その後、先生達には叱られました……。

【あおいちゃんのイノベーティブ現代用語講座】

・ロボット三原則


・第一条

ロボットは人間に危害を加えてはならない。

また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。

・第二条

ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。

ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。

・第三条

ロボットは、前掲第一条および第二条に反する恐れのない限り、自己を守らなければならない。


 SF作家アイザック・アシモフによる、ロボット・人工知能(AI)が従うべきとされるルール。

 と、言っても70年も前の小説で出てきた言葉。

 でも、人間に近い知性を作るって事は、原理原則で縛る事はできない感じがするよね!

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