第29話 ぶっちゃけた話? ここだけの話? シンクロニシティ姉妹登場! Aパート
今日もお父さんの車で通学。
お父さんの仕事場は埼北市市役所。
お父さんは「実験都市アドバイザー」なのだ。
早出の時はいつも学校まで乗せてもらってるんだ。
お父さんの車の中であかねの長髪型のヘッドパーツをすいてあげる。
って言っても、レジン樹脂製のヘッドパーツは髪の毛一本一本を再現しているのではなく、柔らかい板のようなもの。
切れ込みの肩にひっかかった部分を直してあげたんだ。
「わたくしはヘッドパーツがなくても構いません」
「ダメだよ。ファッションも楽しまなきゃ。でも違う髪型にしてもいいかもね」
「研究所に余りがあれば持ってくるよ」
と、お父さん。
「やったあ!あかねはどんな髪型にしたい?」
「あおいの幸魂係数が上がれば、わたくしはどれでも構いません」
あかねにもファッションも楽しんでもらいたいけど、あんまり興味ないみたい。
そんなこんなしてる内に、お父さんがいつも聞いているラジオのニュース番組が流れて来た。
「みなさん、おはようございます。
今日のコメンテーターは経済学者、陰念稔さんです。
今日のテーマはこちら、『自律型AI完成。実験都市埼北市の今後は?』」
我らが埼北市のニュースだ。
最近は自律型AIがらみでよく取り上げられるようになったけどね。
「まず、3ヶ年計画はすでに1年6ヶ月経過してしまっている事ですよね。
果たして残り半分で十分な運用データが取れるものなのか?」
「藁葺木総理は、自律型AIが完成したなら、運用試験のための期間の延長も視野に入れる、としていますが」
「次の選挙までに肝入りの実験都市計画に成果がないと困るんでしょう。
公約違反ですよ! 公約違反!
往生際が悪い!」
やっぱりこのコメンテーターの人は実験都市が気に入らないみたい。
「すでに1000億かけてますが、さらに予算を投入するって事でしょ。
こんな事ならまだオリンピック誘致にお金を使った方がマシだったんじゃないんですか?」
そうなのかなあ?
オリンピックがどのくらいお金のかかるものか知らないけど。
「大体終息したはずの怪物騒ぎがまたあったみたいじゃないですか!」
うう……、それを言われるとツラい。
「実験都市なんて胡散臭いものに投資し続けるのはいかがなものなのか」
「でも新しい産業を興す事や、災害対策も重要との認識を総理は示しています。
自律型AIは生産力向上と復興支援にも効果が期待できる、と」
「そんな夢みたいな話より、経済対策と国防でしょう。
復興支援してる間に戦争になったらどう責任取るんですか!」
「実験都市は評判よくないのかなあ?」
街の外に行く機会があまりないから、イノベーションは順調に進んでるつもりだったけど、周りからはそうは思われてないのかも。
うう……
「必ずしもそうじゃない。
他の自治体や企業が興味を持ち始めてる。
落ち着いて確実に成果を上げていけばいいと思ってるよ」
「わたくしも頑張ります」
あかねのハードディスクが「キュイーンと」言っている。
あかねもやる気満々だ。
そう。自律型AIはいろんな分野で活躍できる。
人命救助や復興支援だってできる。
「そうだよね、お父さん。いつかきっとみんな分かってくれるよね」
そんなお昼に事件は起こった。
給食は食べ終わり、後片付けも済んだ。
ちなみにあかねもこのタイミングでアダプタを繋いで充電。
掃除の時間だとアダプタが邪魔になるし。
わたし達のお昼ご飯と同じタイミングだが、この時間での充電が利にかなっているのだ。
しかし、不意に校内がざわめき出す。
「大変だよ!あおいちゃん!あかねちゃん!」
教室に入って来たのは編木あみちゃん。
あみちゃんは3階の理科室の掃除だったはずだけど。
「飛び降りそうな生徒がいるって!」
屋上のフェンスの外に生徒がいるのが発見されたとの事。
階段付近に向かってみたが、先生達が勢揃いしていて屋上はおろか3階にも上がるな、教室に戻れと怒鳴っている。
だからと言って誘導できる先生もいない。
困ったもので、今度はグラウンドにみんな見に行ってしまう。
「あおい、わたくし達は教室に戻るように言われました」
「だって気になるんだもん」
わたしもだけど。
生徒でごった返すグラウンドに出るとこっちも先生達がいた。
危ないから近付くなと、校舎手前の花壇前にバリケードを張っている。
そして確かに屋上の手すりの外にYシャツと黒ズボンの男子生徒の姿が。
「戻って来い!」
屋上から先生の怒鳴り声が。
男子生徒を改めて見ると、わたしは知らない顔だ。
「失敗したオレの一生にはもう価値がないんだ!」
男の子がそう言っている。
「1年の男子みたい」
と、あみちゃん。
「中学受験に失敗したのをずっと気にしてたんだって」
そんな子がいたんだ。
プリジェクションキュレーターに変身すれば阻止できるだろうか?
でも、かえって刺激してしまうかも。
あ、でも彼の見えない場所で変身して一気に近付けば……。
と思っていると、
「あ、あかねちゃん!」
あみちゃんの声がしたと思ったらあかねが校舎に向かっている。
「何やってんの、あかね!」
「落ちると危険です」
「そんなの分かってるよ。
刺激しちゃダメ」
魂があると言っても繊細さは備わっていないようだ。
「生きてればいい事あるから。帰って来るんだ!」
屋上の先生の呼び掛けだが、
「嘘だよ。もうオレの人生は終わったんだ!」
男子生徒にはなかなか伝わらない。
「いい事も悪い事も同様に起こります」
あかねの冷静な分析、ではあるんだけど。
説得してる先生にツッコミ入れてどうすんの!
「あかね、あの子に死んじゃダメって思わせなきゃ!」
「そうですね」
あかねは上を見上げた。
そして、頭のハードディスクが「ウィーン」と動き出す。
あかねは思考している。
「そこのあなた」
屋上にも届くような大きな声。
音声の出力を挙げたみたい。
「あなたはここから飛び降りてはいけません。命が危険です。」
わたし達の出る幕かどうかの問題はあるけど、この際頑張って、あかね!
「そんなの分かってるよ!」
男子生徒の反論。
「オレは死にたいんだ!」
「いいえ、分かっていません」
ビシッと言ったあかね。
ロボットだって命の大切さを教えられる。
それを証明するの。
あかねの肩に置いた両手に力が入ってしまう。
「何故ならあなたがここで死ぬ事は死体遺棄に当たります」
最初はあかねが何を言っているのか分からなかった。
「ここで死ぬ自由はありません。死体遺棄です。イリーガルです」
イリーガル……?!
「あかねー!」
わたしはあかねに飛びかかった。
<つづく>




