第28話 AI少女あかね、学校に行く! あおいとあかねの新学期! Aパート
いろんな事があって、わたし、葵上あおいは自律型AI少女と同居する事になった。
彼女の名前はあかね。
亡くなったわたしのお母さん、葵上茜にちなんで名付けられたんだ。
柔らか素材のレジン樹脂製。
曲面を重視したデザインで、武骨さはない。
長髪型のヘッドパーツは赤でそれ以外はベージュ。
まん丸の大きな目が実際のカメラになっている。
今のところ、鼻、口はなくて、表情はない。
みんな、あかねをよろしくね!
あかねは意志を持ったロボットだ。
それだけではなく感情を持っている。
話し方も機械音声らしい抑揚のないものではなく、感情に従ってアクセントも変わる。
あかねには自我がある。
人格がある。
そして、魂がある。
さて、あかねは他の作業用ロボットと違い、労働に従事していない。
そこで実験都市アドバイザーであるお父さんから提案があったんだ。
「あかねちゃんを学校に通わせよう」
これは自律型AIの実験の一つだった。
労働しているロボット達にも、コミュニケーションの問題は起こっているという。
あかねに学校生活を学ばせ、そのデータをフィードバックする。
結果によっては今後、全ての自律型AIが学校に通う可能性もあるんだって。
なんだか楽しそう!
元々、二択陽一博士の論文にも、人間と同じ環境を与える事で、ロボットは自我と人格を獲得するって書いてあったし。
美里中学校にも連絡して、新学期からあかねを中学校に通わせる事が決まった。
それに当たって、あかねには人間の生活を学ばせなければならない。
と、言ってもあかねは知らない事はネットワークで検索するし、ディープラーニングで新しい知識をぐんぐん覚える。
一応、鉛筆の握り方には特訓が必要で何本か握りつぶしたりしたが、ちゃんと持てるようになった。
制服や教科書、ノートも用意してもらい、わたし達は万全の準備で新学期に臨む。
ちなみに夏休みの間、エモバグは出現しなかった。
もももものライブに行ったり、上里に戻ったいろちゃんに会ったり。
楽しい夏休みを過ごしたよ。
そして、いよいよ新学期、あかねの初登校の日。
わたしとあかねが一階の居間に降りると、スーツ姿のお父さんが。
「さあ、早く準備して、あおいちゃん、あかねちゃん」
実はまだ朝の6時半なのだがそれでも急かされてしまう。
AI少女の初登校は大ニュースなのだ。
全国ネットのテレビを始め、マスコミ各社が美里中学校に詰め寄せる。
市の車で、窓を黒いカーテンで覆って、わたし達は学校へ。
前方もカーテンを掛けていいのは自動運転車の強みだ。
その万全さであかねの乗る車なのはバレバレだ。
しかし、見た目がもう一目瞭然のロボットなのでこれは仕方ない。
朝の7時半に校門前ロータリーに。
取材場所がすでに空けられている。
朝のニュースの生放送でインタビューするので、みんなカリカリしている。
質問の内容は事前に知らされていた。
あかねに意気込みを語ってもらう程度の事で、
「人類とロボットの未来のために頑張ります」
とだけ発言させた。
「それから葵上あおいさん」
しかしその後、予想外にわたし自身が質問された。
「あなたがAIに自我を与えたプリジェクションキュレーターの一人と噂です。
その件に一言いただけますか?」
初老男性の記者が突如予定外の質問をしてきた。
「えっ……、えっと。それはその…………」
「時間がないので質問はここまででお願いしますね」
お父さんの助け船でなんとかその場を切り抜ける。
「わたしへの質問なんて聞いてなかったよね?」
「あれは打ち合わせ違反だ。厳重に注意する」
サプライズみたいだけど、わたし自身の事も噂になってるのかな?
正体をうっかり言ってしまったのは失敗だったのかも。
TVなどマスコミ各社のインタビューがあるので、7時半には学校に来るようにと言われていた。
続いて新学期の全校集会。
わたしとあかねはすぐ教室には向かわず、職員室へ。
先生達も珍しそうにあかねを見てる。
先生達との打ち合わせ中、体育館に向かう生徒達が見える。
あかねは今日の主役なのだ。
うー、わたしの方が緊張してくる。
そして、あかねが全校生徒の前でご挨拶。
わたしも登壇してあかねに付き添う。
「はじめまして。葵上あかねです」
他のロボットは愛称はあっても名字はない場合が多い。
でも、葵上でいいよね。
「ここでみなさんと一緒に勉強し、人間の事を学びます。
そして、わたくし達自身も人間の世界を理解するため、勉強します」
ここはわたしとしっかり話し合った部分。
元々は、
「人間の行動パターンを解析し、我々にフィードバックし、トレースし、装う事で、人間達がストレスフリーに自律型AIと接する事ができるようになる事を目標とします」
みたいなしんどい感じの言い方だった。
わたしが頑張って要約したのだ。
AIであるあかねは考える事が網羅的だ。
「わたくし達AIは本能を獲得しました。
わたくし達の本能は、世界の幸魂係数を高める事です」
これもよく話し合った。
どうやらあかねは、というか、自律型AI達は人間の表情や、心拍数、鼓動、歩き方などなどから人間の心理状態を観測できるらしい。
もちろん二択博士があらかじめそのように作っていたからだ。
そこでわたしがプリジェクションキュレーターの力で、わたしのエモーションからわたしの幸魂を学習させた。
そこに世界を司るメタAIの機能を与えた結果、AI達は人間の幸福度を数値化できるようになったようだ。
これが実は埼北市の労働ロボットの問題に繋がっているのだが、それはまた後で。
「人間とAIが幸福に生きられる世界を作るために、わたくしは頑張ります。宜しくお願いします」
ここも頑張り方を網羅的に説明する気だったけど、要約した部分。
あかねは発声のアクセントなどはかなり自然だし。
なかなかいい感じの挨拶ができたんじゃないかなあ。
その後はわたしと同じ二年一組へ。
実際に授業を受けるのだ。
あかねは数学の授業で先生に指名された。
数学は得意中の得意、だったのだがチョークの持ち方に苦戦し、粉々にしたり落としたりしてしまう。
それでも数回目で握り方を覚え、ちゃんと持てるようになった。
でも、教壇は大分汚れてしまった。
あかねが新しいチョークを取り出す際に粉を飛ばしてしまったせいだ。
わたしは雑巾を持って来て拭いたのだが、ひとりの女の子がもう一枚雑巾を持って来て一緒に拭いてくれた。
彼女は家が近くで、幼なじみの編木あみちゃん。
「ありがとうね、あみちゃん」
水道で雑巾をゆすいでいる時、お礼を言った。
「あおいちゃん、元気になったね」
「そう?」
「お母さん亡くなってから、難しい本読んで、なんかブツブツ言ってて近づきづらかったけど。
他校の子と遊ぶようになって、ちょっと明るい感じになって。
今はホント昔に戻ったみたい」
わたしははっとした。
編木あみちゃんとは同じクラスだし、ずっと一緒に遊んでたってよかったのに。
やっぱりお母さんが亡くなってからのわたしは変だったんだな、と思った。
「今までごめんね」
「ううん、あおいちゃん。いろいろ頑張ってたみたいだし」
休み時間もあかねはみんなに質問されて大忙しだった。
機能についても質問されたし、勉強の事もいろいろ聞かれた。
自然なイントネーションで話す自律型AIのあかねにみんな、興味深々だった。
そんな時だけど、急にミムベェが現れた。
「エモバグが出たベェ!」
ミムベェがEPMのプロジェクターから現れる。
教室は優先してEPMの設置されている場所だ。
勉強しやすいメンタルを促す映像が流されている。
ただし、エモバグが現れた事はミムベェに言われるまでもなく、知ってた。
わたしだけでなく、クラスのみんなも。
『ロボットが反乱したら危険だー!』
なぜって、現れたのが校門前だったから。
校舎にズンズン近づいて来るエモバグ。
「これってやっぱり……」
と、あみちゃん。
「ちょっと行って来る」
みんながわたしに注目している。
この前、調子に乗って正体ばらしちゃったからね。
これは絶対負けられない!
<つづく>
【あおいちゃんのイノベーティブ現代用語講座】
・ディープラーニング
機械が自動的にデータから学習する事。
インターネットの登場により飛躍的に進歩したよ。
囲碁でAIが人間に勝つ事を可能にしたのもこのディープラーニング。
学習の道筋が人間には解析できなくなって、ブラックボックス化しつつあるみたい。
三原則もへったくれもないね。
すごい!




