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第26話 希望が絶望に変わったとしても Bパート

「埼北市はこのわたしがっ!

 美里中学校二年一組、葵上あおいが守るんだからっ!」


 わたしの名前は葵上あおい。


 埼北市美里町に住んでいる。

 美里中学校に通う十四歳。

 背は高過ぎず、低過ぎず、黒髪のロングヘアがトレードマーク。


 なんだけど、今まさに本庄ビバークホームに現れた青いエモバグとバトルしようとしている。


 でもまずは、昨日の夜の事から話すね。


 わたしはお母さんの思い出のデータの入ったロボットに魂を与えた。

 それでお母さんが生き返ると思っていた。


 でも、その子はわたしのお母さんの魂を持った訳ではなかった。

 お母さんと呼ぶわたしをキモいと言って出て行ってしまった。


 彼女が出て行った後のわたしは、我ながら酷い状態だった。

 泣きじゃくって、茜を探しに行こうとするお父さんについて行こうとした。


 しかし、シャワーに入るよう言われ、その後ベッドに寝かしつけられた。

 その時、お父さんに当たり散らした。

 でもしばらくして落ち着いてくると、今度は自分のしてきた事を後悔する気持ちが芽生えてくる。


 お母さんの思い出を集めたロボットに魂を与えたら、お母さんが亡くなった事をなかった事にできる。

 そんな事がある訳なかったのだ。


 自分が恥ずかしくなった。

 同時に、今までお父さんに迷惑と心配をかけていた事を自覚するようになった。

 そして、お母さんのお墓参りにも行ってない事を思い出した。

 いつか生き返らせるつもりだったからだ。


 ロボットのあの子にもひどい事をした。

 せっかく自我が目覚めたところなのに、初めて見たのがわたしみたいなキモい奴なんて。


 なんてわたしは悪い子なんだろう。

 罪の意識におかしくなりそうだった。


 その時、インターホンが鳴り来客が。

 大人の女性だった。お父さんより年下。


「お父さんは出掛けるから何かあったらこの相川さんにお願いするんだよ」


相川麦芽あいかわむぎめよ。

 よろしくね、あおいちゃん」


 黒髪を肩で切り揃えた、清潔感のある女性。


 わたしの部屋に来てそう言ったその女性は、なぜか親近感というかどこかで会ったような、不思議な感じがした。


 だからかな。

 こんな精神状態で。初めて会う人と二人っきりなんて普通は嫌だけど、なんだか落ち着けたんだ。


 お父さんの車が出て行った後、寝ているわたしの枕元に相川さんはやって来た。


「今日は神川行ったり、早稲由付属高校行ったり、大変だったね」


「!知ってるの?」


「うん。役所の仕事で関わってるんだ」


 確かに役所にプリジェクションキュレーターを知ってる人がいてもおかしくない。


「お母さんは亡くなってたんだね」


「それも知ってるの?」


「と、言うより前から葵上さんの奥さんの件は何かあるって、思ってた」


「そう……」


「心配しないで」


 頭を撫でてくれる相川さん。

 でも、それで気持ちが晴れるって事にはならない。


「わたしはイノベーションでお母さんが亡くなったのをなかった事にできると思ってたの」


「そう」


「でもそうじゃなかった」


 イノベーションじゃ死は乗り越えられない。


「いずれはお父さんだって死んじゃう。そんなの耐えられないよ!いっそ今すぐ死にたい!」


 話してる内に感情的になってしまうわたし。

 ギョッとして、真顔になる相川さん。


「ごめんなさい。言い過ぎました。本気じゃありません」


 はずみで言ってしまっただけ。

 自分でも本気かどうかなんて分からない。


「でも、放っておいて下さい。ごめんなさい」


 それだけ言って布団を被る。


 とにかく誰にも干渉されたくなかった。


「ふぅ……」


 ため息が聞こえる。


 別にキモいと思われたって、嫌われたって構わない。

 どうせわたしなんて。


 ガチャと、ドアの閉まる音。

 相川さんも愛想を尽かせたかな。


 しかし、部屋がかすかに明るい。

 光源がある。


 布団の間からのぞくいてみる。

 わたしの学習机の上にノートパソコンが。


 相川さんの持っていたもののようだが、蓋が開いていて起動している。


 さすがに目障りなので起きて相川さんに渡そうかと思った。

 しかし、今度は部屋の外から声が聞こえてきた。


「間庭、今どこ?」


 相川さんの声。


「ん?何時だろうと関係ないの」


 誰かと電話で話してるみたい。


「ガヤガヤしてんじゃん。家飲みじゃないよね」


「またガールズバーだろ。三村もいるんでしょ」


「仕事だよ。時間は関係ないって言ってんだろ」


 ちょっと不機嫌そう。

 相川さんは誰と会話しているんだろう。

 いや、そもそもお父さんからわたしがプリジェクションソーダである事を告げられている、相川さんは何者だろう。


 しばらくすると相川さんが階段を降りる足音が。


 そして、


「こんばんはー、あおいちゃん!」


 机の上のパソコンから声が。


 パソコンの画面からの光の上に現れた映像は、


「わたし、こむぎっちゃんだっちー」

「ボクははにぷーだぷー」


 こむぎっちゃん、はにぷー、ミムベェだった。

 パソコンから出ていたのはEPMの光だったみたい。


「あおいちゃんが元気ないみたいだから心配になっちゃったっち」


「そうそう、元気出すッス……ぷー」


 こむぎっちゃんとはにぷーがあいついで話しかけてくる。


「マジョリティをやっつけた後もわたし達は友達っち……


 て、おい!ミムベェ!お前もなんかしゃべれよ」


 そう言えばミムベェもいるのにしゃべってない。

 そして、ミムベェだけピクリとも動かない。


「あおいちゃんはお前のパートナーだろ」

 

「インカムを店内に持って来たぷー。なんかしゃべるぷー」


 カンカンに怒っているこむぎっちゃん。

 ゆるキャラ達の中の人がもめている。

 店内ってのはきっとガールズバーだ。

 ミムベェ、本当に好きだなあ。


「てめー、いい加減にしろよ」


「こむぎっちゃん、落ち着くぷー。ミムベェもなんか言うぷー」


 こむぎっちゃんとはにぷーの声の後だった。


「あおいなら心配いらないベェ」


 相変わらず動かないミムベェだが、声は聞こえてきた。


「あおいは自分のためだけにイノベーションしてきた訳じゃない。


 初めてエモバグとバトルした時も、ボクがスカウトする前からエモバグに向かっていたベェ」


 確かにわたしはあの時、この街のイノベーションが馬鹿にされた事が許せなくて、エモバグに向かって行った。


「あおいは敵であるセゾン姉妹をかばったり、助けるために頑張ったりした事もあるベェ。


 そんなあおいが、自分のためのイノベーションが失敗したくらいでへこたれたりする訳ないベェ」


 ミムベェはわたしの事をそんな風に思ってたんだ。


「そうは言っても今のあおいちゃんの事が心配じゃないっち?」


「今日は疲れてるに決まってるんだから、早く休ませればいいんだベェ」


「……言うじゃない……っち」


 わたしを見向きもしないでつぶやくミムベェ。

 でも、今はなんだかそれがとっても心地よかった。


 もやもやしたものがすっと消えていく。

 確かにこの街のイノベーションは続く。

 お母さんと過ごした、大好きなこの街のイノベーション。

 それは見たいし、関わりたい。


 わたし自身の事なんて小さな事だと思えてきた。

 わたしが魂を与えたロボット達はどんな未来を作っていくんだろう……。


 そんな事を考えてたら、ふっと眠気が襲ってきた。


 わたしは眠りについた。

 ミムベェ達の会話はまだ続いていたみたいだけど……。


 そして、目が覚めたわたし。朝の7時。


 昨日の事を思い出す。

 一部は今日の深夜にまたがる長い1日。


 お母さんの魂を、思い出の詰まったロボットに宿す試みは、失敗に終わった。

 でもその件をいつまでも悲しんでいられない。

 それよりあの子は、飛び出して行ったあのロボットは今どうしてるんだろう。


 無事だろうか?

 車にはねられたりしてないだろうか?


 あの子の事が心配だった。

 わたしはあの子にひどい事をした。

 身勝手な理由で魂を与えてしまった。


 いても立ってといられず、ベッドを飛び起き、一階に降りる。

 お父さんが朝ごはんを作っていた。


「おはよう!お父さん」


「あおいちゃん?」


 びっくりして目を丸くしてるお父さん。


「まだ休んでいていいんだよ」


「ううん、わたしはもう大丈夫。それよりあの子は見つかった?」


「う、うん。まあね……」


 話しずらそうなお父さん。まあ、しょうがない。


「あの子はわたしに会いたくないよね。

 でもいいの。無事でいてくれさえすれば」


 あの子は一旦、役場で預かるとの事だった。


「お母さんに関するデータは取り戻せるように頑張るよ」


 お父さんは言ってくれた。


「心配かけてごめんなさい」


 わたしのわがままで一番迷惑をかけてきたのがお父さんだ。

 昨日は取り乱してしまったし。


「わたしは悪い子だったよね」


 お父さんは首を振った。


「あおいちゃんは僕の自慢の娘さ。茜さんもきっとそう思ってるよ」


「そうかな……。そうだといいな…」


 あの子の出て行った居間で、二人だけの朝ごはん。

 だけどこの日、わたしは久しぶりにお母さんの存在を感じたんだ。


「そう言えば相川さんって……」


「なんだい?」


「ううん、なんでもない。いい人だね」


 相川さんはわたしが眠りについた後も、お父さんが戻って来るまでいてくれたみたい。

 ミムベェも、はにぷーも、こむぎっちゃんもみんないい人達。


 あの子の事はみんなにに任せよう。

 お父さんを見送るわたし。


 これからどうしようかな。

 夏休みなんだよね。

 でも、お母さんのお墓参りは行かなくちゃ。


 家の中に戻ろうとしていた時だった。


『聞こえるかね?葵上あおい君』


 いきなり声が聞こえて来る。

 この低い男の人の声は親バートンだ。


 恐らくプリジェクションキュレーターのシステムを作った人物。


 そしてAIとEPMの権威、二択陽一博士かも知れない人物。


 不意に現れてはサポートしてくれる。


「親バートン、どうしたの?」


 いつもは変身した時しか話しかけて来ないのに。


『昨日、君達に接触した際にハッキングを受けた。

 重要なシステムを奪われてしまった』


「奪われたって誰に?

 マジョリティはやっつけたでしょ?」


 日上一平博士の身柄も、警察が確保したらしいってお父さんが言ってたけど。


『マジョリティは尖兵に過ぎない。いよいよ彼が動き出すだろう』


「彼?」


『もう一人のわたしだ。彼は……』


「エモバグが出たベェ!」


 その時、ミムベェが家の前に現れた。


「ビバークモールだベェ!」


「ビバークモールってあのできたばかりの?!」


 マジョリティ以外の誰かがエモバグを作り出した……?


「この事なの?親バートン!」


 返事はなかった。


「行けるかベェ?あおい」


 恐る恐る尋ねてくるミムベェ。


「行けるよ!」


 街に新たなる脅威が迫っているなら、落ち込んでなんかいられない。

 だってわたしは街のヒーローなんだから!


 こうして、わたしはビバークモールに向かい、エモバグと対峙した。

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