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第24話 最高のイノベーション! みんなで幸魂ゲットだよ! Aパート

 アンビバレントゴッドGとプリジェクションキュレーターのバトルは始まった。


 サクラが正面から、ペアーは右から、わたしは左からしかける。

 大久保山の林に隠れながら、奇襲をかける。

 相手が大きいというもあり攻撃は当てられる。


「えーい!」


 相手のパンチをかわしてから腕に向かってジャンプキック。

 しかし、手ごたえは固い。エモバグとは違う。


 サクラとペアーも背中や頭部に攻撃をしかけたがやはり効果は芳しくない。


『エモバグと一緒にするでない!』


 アンビバレントゴッドGの勝ち誇った声がする。


『アンビバレントのコーデは不規則に変化する様々なエモーションを操らなければならない暴れ馬。

 サイストレージで集めた108のエモーションを使ってようやく起動したのじゃ』


「108?サイストレージの中のさいたまは54個だったよ」


『サイスフィアはエモバグを作る時にもできる。それにお前達が集めたものを合わせて108じゃ』


 108個のサイスフィアのエモーション。

 それでようやく起動したアンビバレントのコーデ。

 その力はただのパワフルさとタフネスだけではなかった。


『こそこそ隠れおって。これでどうじゃ!』


 アンビバレントゴッドGの腕が輝く。


『アンビバレントバウト!』


 その巨人の腕から光弾が放たれる。

 轟音と共に林の木々が吹っ飛んだ。


『これで隠れられまい!』


 今度は両腕が輝く。


『アンビバレントバウト!』


 光弾が林に炸裂し、木々が破壊され、土煙が上がる。


「自然破壊はダメだよ!」

 思わずわたしは声を上げる。


『そこかあ!』


 間一髪で避けるが、また林が破壊された。

 このままではいずれ隠れるスペースはなくなってしまうし、森林破壊が進んでしまう。


「手強いわね」


「あんなのが市街地で暴れたら大変!」


「だけどどうやってやっつけたらいいの?」


 攻撃力もさることながら、身体の固さも厄介だ。

 パンチやキックも効果がない。


「必殺技ならどうかな」

 いろちゃんの提案。


「でもキレキレ攻撃出してないし、エモーショナルパワーが……」


 そう言ったわたしの胸元のブローチをサクラが指差す。


「あ、貯まってる!なんで?」


「わたし達のエモーションは成長してるんでしょ」


 加えて言うなら今日は二度のサイスフィア(さいたま)・リベレーション・ストリームを使っていて、サイスフィアを二回ブローチに入れている。


 そのエモーショナルパワーが残っている事もあるのだろう。

 とにかく必殺技は使えそうだ。


「誰がやるの?」


「みんなでやろうよ」


「放出技と格闘と関節技よ。一緒は無理だって」


「じゃあ順番にやろう!」


 いろちゃんの提案だ。


「元々考えてたんだ。わたし達の最強技!」


 さすがヒーロー好きのいろちゃん。


「技の名前も考えてあるよ!みんなで言おう!」


 さすがヒーロー好きのいろちゃん。


「まずはソーダちゃんが『キュレーターフォーメーション』って言ってスタートね」


「それは技の名前じゃないの?」


「違うけど、重要な段取りだよ」


 段取りかあ。


「まあ、声がけは連携には大切かもね」


 アイドルグループでいつも連携を取っているももが言うなら、きっとそうなんだろう。


「キュレーターフォーメーションね。分かった、やってみる」


「まずはソーダが離れて必殺技の準備。声掛けしっかりね!」

「あたし達が博士を引き付けるよ」

「分かった!」


 巨大な博士に挑むサクラとペアー。

 その間にわたしは必殺技の準備。

 エモーショナルなメントヌとエモーショナルな炭酸を作り出すのだ。


「いくよ!」

 大きな声で言ったらサクラとペアーは射線を空けた。


 アンビバレント・ゴッドGを正面に見据えたわたし。


「キュレーターフォーメーション!」


 わたしの突き出した腕からエモーショナルなメントヌが出現する。


「ブーストソーダスプラッシュ!」


 ブローチから放たれたエモーショナルなソーダは、エモーショナルなメントヌに触れると、勢いを増して噴出する。


『何じゃとーーーーーっ!』


 ソーダスプラッシュはバッチリ命中!

 しかし、やはりエモバグのように雲散霧消とはいかない。


 結局ソーダの勢いの方が弱まってしまう。


「サクラ!」

 わたしは呼びかけて後を任せる。


「サクラブリザード・繚乱!」


 スタンバって待っていたのだろう。

 間髪入れずサクラが猛スピードでアンビバレント・ゴッドGに向かっていく。


 長いポニーテルがなびく。

 桜吹雪を竜巻のようにまとった、美しくも、荒々しい姿だ。


 パンチとキックの連続攻撃。

 巨体とは言えしっかり効いている。

 最後はジャンピングアッパー。


 敵は桜吹雪と共に吹っ飛んでいく。


「ペアー!」


 打ち上げた先にはすでにジャンプしたペアーが待ち構えていた。


「ペアークラッシャー!」


 光輝く左足のキックが炸裂する。


 さて、この後なのだが、超巨大エモバグサイズのアンビバレントゴッドGに対して小柄なペアーが関節技をかける事はできない。

 いや、わたしやサクラにだってできない。


「いくよ!ふたりとも!」


 しかしそんな事は織り込み済み、打ち合わせ済みなのだ!


「オッケー!」

「任せて!」


 わたしとサクラは巨体めがけてジャンプ!


 わたしは敵の左腕、サクラは右腕を捕まえて持ち上げる。

 そして、ペアーは頭を押さえ付ける。


 疑似的なペアークラッシャーハーヴェストの完成!


「トリニティハーヴェスト!」


 轟音が大久保山に鳴り響く。

 三人がかりの強力な落下激突技が炸裂した。


「プリジェクションキュレーター・グラン・オルケストラ!」


 技名はみんなで!

 敵から離れて、着地するわたし達。


『グオオオオオ―――――っ!』


 雄叫びを上げるアンビバレントゴッドG。


「やった?」


 地面に押し付けられたまま、動かない。

 効き目はあったようだけど。


 グオゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!


 まだ続く雄叫び。

 いや、これは雄叫びなんだろうか?

 巨体の中から聞こえるんだけど、だんだん声じゃないような気もしてきた。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


 アンビバレントゴッドGの身体は不規則に波立っていた。

 そして、それが終わると背中が風船のように広がっていく。


「やっつけたの?」


 膨張はしばらく続いた。


 やがて不気味な轟音が終わり……


『グワアアアアーーーーッ!!』


 しかし、やっつけてはいなかった。

 膨張は背中だけでなく全身に及んでいく。


「な、何なの?あれ」


 それはさっきの10倍はありそうな巨大な化け物だった。

 超巨大エモバグのさらなる巨大化だった。

 よつんばいで動こうとする。立ち上がる事はできないようだ。


『アンビバレントのコーデが暴走している』


 親バートンの声がする。


「親バートン!暴走って何?!」


『不安定なエモーションを無制限に表現するのが、アンビバレントのコーデ。

 そこに108ものエモバグのエモーションを注ぎ込んだ結果だ。

 それに耐えて、自壊を起こさないのは驚嘆に価するが、制御できていない』


 でたらめに周囲を破壊ながら移動するそれは、二択博士によってプロジェクトから外された日上博士の執念が産み出した怪物だ。


「日上博士は?」


『中に生命反応はある。しかし、意識があるかは分からない』


 わたし達の攻撃で意識を失ったのだろうか?

 それが暴走の原因?


『エモーショナルビーストとでも呼ぶべきか』


「名前なんてどうでもいいわ」


「な、なんとかならないベェ?」


「でもあれをやっつける方法はあるぷー?エモバグじゃないならキュレーターの攻撃が効くかどうかすら分からないぷー」


「それにあの大きさっち。あんなのとどうやってバトルするっち」


「仮にあれを倒せたとしてもあんな怪物が生まれる事自体が実験都市計画を中止に追い込むだろうね」

 お父さんはかぶりを振っている。


 ゆるキャラ達もお父さんもどうしていいか分からない。


 エモーショナルビーストが市街地に迫っている。

 警報が鳴り響く。

 人々が避難できたとしても、甚大な損害が出る事だろう。


「これで実験都市計画は終わりだわ……」


 サクラは力なくつぶやいた。震えているようだった。


「私達の夢も」


「お兄ちゃんを死なせた日上博士が、わたしの友達の夢まで奪おうとしてるって言うの?」


 しゃがみ込んで両手で顔を覆ういろちゃん。


「こんなの酷過ぎるよぉ……」


 いろちゃんは泣き出してしまう。


 みんな巨大な敵の前にすっかり絶望していた。


「イノベーーーション!」


 わたしだった。


 両足を肩幅に開き、左手は腰、右手を高らかに掲げる。

 親指と人差し指を90度に開き、天を指差す。

 これがわたしのイノベーションポーズ。


「な、何言ってんの?こんな時に!」

 サクラが詰め寄ってくる。


「毎日がイノベーション。イノベーションはわたしの命、だよ」


「何か思い付いたって言うの?」


「あの怪物を倒しても、実験都市計画はもう終わりなんだよ……」


 いろちゃんも泣きながら言ってくる。


「終わらないよ!」

 わたしはイノベーションポーズのまま、叫ぶ。


「今日、最高のイノベーションを起こして実験都市計画は完成するの。イノベーションは終わったりしない」


 大久保山を降りて、市街地に向かうエモビーストを見上げる。


「親バートン!」


『何だね?』


 わたしが呼ぶと声が聞こえてきた。

「サイストレージをちょうだい」


「あれは日上博士が使っちゃったでしょ?」

 サクラが指摘するが、


「サイストレージを作ったのはサイスフィアをデータ化するためなんだよね?」


『…………』


 親バートンは答えない。


「バックアップは基本でしょ。あるよね?さいたま」


『あったらどうするつもりかね?』


「もちろん、あのエモビーストをやっつけるんだよ」


「彼はネットワークのアンダーグラウンドのネガティブなデータを大量に集め、それにサイスフィアで形を与えている。この日のために集めた膨大なデータだ」


 人々の悪意と一人の老人の妄執が産み出した感情の怪物。


『サイスフィアを使っても、あれに対抗する事はできない』


「できるよ!」


 わたしは叫んだ。


「むしろ日上博士は大ヒントをくれたよ」


 わたしは左手も掲げた。これがわたしのダブルイノベーションポーズ。


「イノベーーーーーーション!!」


『分かった。いや、分からないがやってみるといい』


 わたしの目の前にサイストレージが現れる。

 中にはぎっしり三色のサイスフィアが入っていた。


「やっぱりあった!」


「ソーダ、一体どうするって言うの?」


 サクラが心配そうに尋ねてくる。


「まずはこれを……」

 わたしは一個サイスフィアを取り出した。


「食べます」


「いっ?!」


 わたしはそれを口元に、というのは嘘で実際は胸元のブローチに押し付けた。

 サイスフィアはブローチに吸い込まれていく。

 

 わたしはさらにサイストレージからサイスフィアを取りだす。

 次から次へとサイスフィアをブローチに吸い込ませていく。

 一箱全部を吸収した。


「で、どうするの?ソーダちゃん」


「サイスフィアのエモーションでこの街のAIに自我を、エモーションを与えるよ」


「AIに、エモーション?」


 わたしは何度かお父さんのロボットの営業について行ったが、その時以外にもお父さんはロボットのリース契約を成立させている。

 老人ホームや、病院などなど。


 自律型AIへのアップデートを前提に作られたPSYシリーズの。


「データ化されたエモーションで、エモビーストと同じくらいのパワーを引き出すの」


「そんな事……!可能なの?」


『不可能だ』

 親バートンが言う。


『サイスフィアは確かに人の心がデータ化したものだが、それでも表層的に過ぎない。言うなれば球体の中は空洞なのだ。魂の代わりになどならない。

 サイスフィアは機械の身体に目的意識を与える事はできない』


「そんな事ない!」

 わたしは断言した。


「わたしのさいたまが、幸魂(さきみたま)が目的意識だよ」


『幸魂……?』


 わたしのブローチが光輝く。かつてないほど、サイストレージいっぱいのサイスフィアの輝き。


「博士の憎しみなんて彼一人のものでしかない。でも幸魂は、さいたまは誰の心の中にもある。世界中にさいたまはあるんだよ!」


「またさいたまか」

 ももはあきれてるけどわたしは続ける。


「さあ、みんな!わたしの幸魂で、あなた達の中の幸魂に気付いて」


 わたしは埼北市の全てのAIに呼びかけた。


「人間かAIかなんて関係ない。生きているかどうかなんて関係ない。国籍も肌の色も関係ない。存在している人も、していない人も関係ない。

 みんなみんな、心にさいたまを持ってるんだよ!世界はさいたまでいっぱいなんだよ!」


「何だって言うの?」

「あおいちゃん……?」

 ももといろちゃんもあっけに取られている。


「世界に気付いて。わたし達はみんな、地球の仲間なんだよ!

 今こそみんなのエモーションが必要なんだよ!」


『世界』に対する『自分』を知る事に成功すれば、AIは『自我』を獲得する。

『社会』に対する自分の『役割と責任』を知れば、AIは『人格』を獲得する。


 わたしはダブルイノベーションポーズの両手を見つめた。

 台形のようなそれは、まさしくさいたまの魂を形にした姿だ。


「さいたまビーム!」


 そして……


「メターーーーーッ!!!!!」


 ブローチから放たれた輝きはわたしの両手の間から空へ消えて行く。


「メタメタメターーーーー!!!」


 さらに連続で光を発射するわたし。

『メタ………、メタAIのメタか!』

 親バートンが叫んだ。


<つづく>

【あおいちゃんのイノベーティブ現代用語講座】

・メタAI

ゲーム世界で展開するさまざまなゲームイベントを司るAI。

ゲーム内の世界の状況を俯瞰的に見て、ゲーム要素に指示を出すことで状況を作りだす。

キャラクターやゲームイベントなどを動的に変えたり、ダンジョンマップやサブイベントのシナリオなどを自動に生成したりする。

能動的にゲーム世界に関与するAIの事。

ゲームをするプレイヤーのモチベーションを操作するために、人の感情と能力を読み取るセンシング技術が肝と言われているよ。

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