第23話 大大大決戦! 出現、アンビバレントゴッドG! Bパート
アジト内にはディスコードとエキセントリックの他に人間はいなかった。
元エキセントリックの芽崎みどりは意識があったが、ゴッドGの事はほとんど知らなかった。
操っている人間についても。
ゴッドGが姿を消してしまった以上、ここに留まっても仕方がない。
アジトを出ると、お父さんや警察の人達が来ていた。
芽崎みどりは警察に預ける事になった。
松木きいちゃんも病院に護送されたようだ。
もうお昼を過ぎていたし、今日は山甲うどんにでも寄って帰る事になった。
ゴッドGの行方は、お父さんや警察に任せる事になった。
はずだったが、神川町の市街地まで差し掛かった辺りで、わたしとももといろちゃんに謎の声が聞こえてきた。
親バートンの声だった。
『やっと繋がった』
いつも冷静なイメージだが、その時は焦っているような声だった。
『ゴッドGは神川町にはいない』
「うん、知ってる」
「そんな事をわざわざ伝えに来たの?」
わたしとももが口々に言う。
もっと早く教えてくれればいいのに。
『ゴッドGのデータの発生源を突き止めた。そして、データの持ち主を特定した』
「持ち主を特定……、それってゴッドGの中の人って事?」
『その通りだ。間違いない。彼ならEPMを統御できるし、コーデのようなシステムを構築できてもおかしくない』
「その人を知っているの?!」
『彼は研究者として著名ではある』
著名なEPMの研究者?わたしも知っている人だろうか。
『彼の名前は日上一平。二択陽一の師匠に当たる人物だ』
日上一平……、知らないや、と思ったら……。
「日上一平博士……!!」
いろちゃんだった。
「その人って千葉県でEPMの実験に携わっていた日上博士の事?」
いつものコロコロした感じじゃない、低い、いろちゃんらしくない怖い声だった。
『その通り。
彼は教育委員会とグルになっていじめによる自殺を隠蔽して、二択陽一博士に罷免されている』
「よく知ってるよ」
自殺したのはいろちゃんのお兄さんなのだ。
「なんであの人がまだ教育に関わっているの」
『どんなつてを使ったかは知らないが、早稲由大学付属高校の教師になっていた。
そして、付属高校こそがゴッドGの配信元なのだ』
何と。
マジョリティの首領は二択陽一博士の師匠であり、千葉県の学園都市でのいじめ自殺隠蔽に関わっていた。
「ゴッドGがサイストレージを奪っていったのはなんで?
そもそもサイスフィアって何なの?」
『サイスフィアはEPMが観測した人々のエモーションを形にしたものだ。
二択陽一博士はサイスフィアをサンプルとして一定水準集めれば自立型AIを作る事が可能だと考えていた』
確かにそんな話は聞いた話事がある。
『だが、わたしの考えではそれだけで自立型AIが完成するとは思えない。AIに意志を与える事はできない』
「本能を与える事ができないって話?」
『その通りだ。本能を与えない限り、AIに心は宿らない』
だとすればゴッドGがサイストレージを奪った理由は何だろう?
と、思っている間に車は山甲うどん児玉町店に到着。
早稲由大学付属高校にはすでに警察が向かっているという。
博士の身柄さえ抑えられれば、きっと企みは阻止する事ができるだろう。それが何だったとしても。
と、思っていたのだが、
「エモバグが出たベェ!」
「エモバグが出たぷー!」
「エモバグが出たっち!」
ゆるキャラ達が突然、山甲うどんの駐車場に現れ、叫ぶ。
「これからお昼ご飯なんだけどー?」
「そんな事言ってる場合じゃないベェ!あおい」
「付属高校だぷー!」
「エモバグって言ったけど、普通じゃないっち!」
ここでお父さんの携帯が鳴った。
「どうやら一足遅かったようだ。日上博士の研究室に警官隊が突入する直前にエモバグが現れた」
これはお昼ご飯とか言ってる場合じゃなさそう。
わたし達は早稲由大学付属高校へ向かったのだった。
本庄、児玉、美里、三地区に跨がる浅見丘陵、通称大久保山と呼ばれる山中に早稲由大学付属高校はある。
美里のわたしの家からもほど近い、埼北市の中心とも言える場所。
こんな所にマジョリティ首領の中の人がいたなんて!
林に囲まれた坂道を避難する生徒達。
その流れに逆らってキャンパスに向かうわたし達。
坂道を上がり切るまでもなく、その巨人の姿は確認できた。
三階建ての寮の建物より大きい、巨大エモバグより大きな姿だった。
大きいだけでなく、筋肉質で強そう。
トゲバグとも違う感じ。
そして、何を叫ぶでもなく、坦々と坂を下っている。
その様子はまるで……。
「日上博士は中にいるのかな?」
「かも知れないわね」
「あの中に日上博士が……」
「君達、何をやってるんだ?早く避難しなさい」
避難誘導している警察の人に声をかけられる。
「この子達はわたしの連れです」
お父さんが身分証明証を見せるが、
「何言ってんの?じゃあ、あなたがちゃんと避難させなさい!」
うーん、なんかもめてる。
そうしてる間にズシンズシンと足音が近付いて来る。
「らちがあかないよー」
顔を見合わせるわたし達。
「うーん、キュレーティンしちゃう?」
わたしの質問にうなずく二人。
わたし達はスマホを取り出し、アプリを起動する。
EPMの光が降り注ぎ、わたし達はプリジェクションキュレーターに変身した。
「咲き誇るキュレーター、プリジェクションサクラ!」
「実りのキュレーター、プリジェクションペアー!」
「はじけるキュレーター、プリジェクションソーダ!」
「埼北プリジェクションキュレーターです!」
「ご、ご苦労様です!」
敬礼する警察官。これで心置きなく先に進める。
丘陵の中腹でついにエモバグと対面。
市街地に降りる前に戦う事ができたのはよかったとも言える。
「お父さん、街の人達を避難させて」
「分かった。気を付けるんだよ」
エモバグの前に立ったわたし達。
『貴様らか!プリジェクションキュレーターッ!』
男の老人の声が響く。
「あなたがゴッドG?」
「そして、日上一平博士ね」
「あなたの千葉県での実験でお兄ちゃんが……」
『その通りじゃっ!』
激昂した声が響く。
なんだかテンション高いめ。
そして、この超巨大エモバグの中にいるようだ。
『あの二択陽一の恩知らずめが!自殺を防ぐEPMを作ったわしを事もあろうか、クビにしおって!』
「防ぐのは自殺でなく、いじめの方でしょ!」
『ふん、教育委員会はわしの研究の価値を理解したわい』
確かにそうだったらしい。自殺を食い止められたなら有用だと当時は判断されたらしい。
「日上博士!あなたはっ……!」
いろちゃんは叫んだ。
『あの一件でわしは大学も辞めざるを得なくなった。
わしは恩を仇で返した弟子が憎い!
奴が責任者を務める実験都市を失敗に追い込むのがわしの目的なのじゃ!』
この人物はいろちゃんのお兄さんが亡くなった事に、後悔も反省もしていなかった。
それどころか、自分が失脚した事で逆恨みすらしていた。
その復讐心でマジョリティなんて組織を作った。
実験都市に恨みを持つ者達からキュレーショナーを選び、コーデシステムを与えた。
そして、彼女達にエモバグを召喚させ、テロ活動をしていた。
「あたしの妹までキュレーショナーに!」
『ディスコードか、ふん。
コーデシステムはエモーションの強さだけでなく、恨みや憎しみのような負のエモーションを必要とするのじゃ。
選ばれたのはあやつの心の問題でもある。
それでわしに利用されていれば世話ないのう』
結果としては、松木きいちゃんはお兄さんの仇に等しい日上博士にまんまと利用されていた事になる。
「あ、あなたって人は!」
いろちゃんはもちろん怒っていた。
わたしもそう。
こんな酷い事をする人がいるなんて。
「わたしはあなたを絶対にゆ……」
わたしの言葉を遮ったのは、サクラだった。
わたし達を押し退け前に出る。
「日上博士?ゴッドGだっけ?どっちでもいいけど」
ももは落ち着いていた。静かに博士に話しかける。
「ここで大人しく投降するならわたし達が戦う必要はない。
あとは警察に任せる事にするわ」
感情的でない、冷静な対応ではある。
『そうはいかんわい』
しかし、さすがにここであっさり和解とはいかなかった。
『このアンビバレントゴッドGはお前らの集めたサイスフィアのエモーションとアンビバレントのコーデを使う事でやっと起動した。
この街で暴れ回り、実験都市計画を中止に追い込むのじゃ』
「あらそう」
特に気にしている風でもないサクラだったが、
『残念じゃったな』
「そうでもないわ」
一転して、日上博士をキッとにらみつけるサクラ。
「あんたを直接懲らしめられるじゃない」
さらにニッとほほえんだ。
そして、わたしとペアーに目配せする。
「こいつを必ずここで止めるわよ!」
「うん!」
そうなのだ。
巨大な敵が相手でも、ここで絶対に食い止めなければ。
逆に言えば、ここで日上博士を食い止めればマジョリティは壊滅する。
エモバグの原因究明と撲滅は3カ年計画の項目の一つでもある。
アンビバレントゴッドGに向かっていくわたし達。
もう一息。あともう一息で街は平和になり、全てが上手くいく。
絶対に負けられない。
絶対に勝って、イノベーションを達成したい!




