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第21話 キュレーター達南へ レッツゴー下久保ダム!(前編) B、Cパート

 神川町。


 埼北市神川地区の事で、人口約1万3千人。

 埼玉県の北西にあり、秩父市や群馬県藤岡市とも接している。


 2006年、隣接する神泉村との新設合併により、新たに神川町となった。

 そこからさらに2018年、埼北市に吸収された。


 神川には日本武尊創建として有名な金鑚神社がある。また、梨の特産地として知られ、秋には町内全域でコスモスが咲く。

 神流川が流れており、下久保ダムによって形成された神流湖(かんなこ)がある。


 そして、下久保ダムとは群馬県藤岡市と埼玉県埼北市神川にまたがる、利根川水系神流川に設置されたダムである。

 堤高129.0mの重力式コンクリートダムで首都圏の水がめである利根川水系8ダムの一つであり、規模としては矢木沢ダム(利根川)に次ぐ大規模なダムである。


 わたし達はその下久保ダムにやって来た。


「おっきいー!」

「すごーい!すごーい!」

 わたしといろちゃんは大興奮だった。


「あんた達、遊びに来たんじゃないんだからね」

 ももに注意されるわたし達。


 お父さん達、市の職員や警察ががマジョリティのアジトを探している間、わたし達は下久保ダムの見学をする事になったのだった。

 ちょうど今日ダムの点検放流をするみたいだし、グッドタイミングだよね。


「すずしーい!」

 暑さに定評のあるの熊谷に近い埼北市の夏はなかなかに過酷だが、下久保ダムのある埼玉、長野、群馬の県境の渓谷地帯は結構ひんやりだった。


 今日はダムの放流日。

 夏休みという事もあり、ダム放流のスペクタクルを見学したい人々がちらほら見受けられる。

 スマホを掲げて動画を取る準備をしている人やビデオカメラを持ってきている人まで。

 屋台まで出ているとは思わなかった。


「ねえねえ!やっぱ実物は大迫力だね、もも。

 それに今日が放流日なんて!ついてると思わない?」

 テンションの上がってしまうわたしだったが。


「あおい、ちょっとはいろの気持ちも考えなさいよ」


 それとなく耳打ちするもも。


 そうだった。

 移動中の車の中でもきいちゃんの話題になった。

 どうやらディスコードこと、きいちゃんは正体発覚以降、幸水さんちには戻ってないらしい。


 すでに捜索願も出されている。


 秘密裡に捜索している事になっているが、さすがに一週間以上経過していると大々的な捜査にならざるを得ない。

 具体的には今回のマジョリティのアジト捜索で身柄を確保できなければ、情報提供を求める事になっている。

 今は一応は家出人の扱いだが、話が大きくなってくれば今後エモバグの発生に関わっているテロリストである事が知られてしまう可能性もある。


 そんな複雑な状況だった。


「そうだね、はしゃぎ過ぎだった。ごめんね、いろちゃん」

 わたしはいろちゃんの方を向いたが、姿は見えない。

「あれ?いろちゃん」


「キャー!生ダムセーヴァーだー!」


 いろちゃんはヒーローショーのコーナーにいた。

 どうやらこのヒーローがご当地ヒーローの鬼人戦隊ダムセーヴァーのようだ。


 写真を撮ったり、ポーズをまねたり大はしゃぎのいろちゃん。


 せっかくなのでヒーローショーを最後まで見てみた。

 世界征服のために下久保ダムを破壊しようとする怪人を退治する内容だった。

 心霊動画を撮影しようとする人々を虐待する内容ではなかったようだ。


 その後は放流に備えて、手すりの方へ向かったわたし達だったが、


「やあ君達もダムの放流を見に来たの?」


 わたし達に話しかけてきたのは短い黒髪の、背の高い、がっちりした体格の人物だった。

 声を聞いてきょとんとしてしまうわたし達。

 堂々としていたけど、高い澄んだ声だった。


「ああ、男だと思ったんだね」

 顔に出てしまっていたのだろう。本当に驚きだった。


「ごめんなさい」


「いいんだ。よく言われる」


「イ、イケメンだと思ってました」

 いろちゃんの声は上ずっていた。


「ふふ……、それもよく言われる」

 そんな言い方にも嫌味を感じさせない、かっこよくて、気さくな、感じのいい人だった。


「わたしの名前は綺羅星子(きらほしこ)。神奈川県から来たんだ」


「神奈川からわざわざダムの放流を見に?」


「ああ、どうしても見ておきたくてね。

 君達は地元の子かい?」


「はい。埼北市、って言ってもここから一時間くらいかかるとこなんですけど」

「実験都市ね。最近何かと話題になるよね」


 綺羅さんは神奈川の大学生で、レスリング部所属らしい。

 レスリングでは高校生の時に全国大会に出た事もあるという。


「だから綺羅さんはたくましくて、カッコいいんですね」


 いろちゃんは綺羅さんが気に入ったみたい。

 話してない時も盛んに「絵になるよね」と言ってくる。


 そんなこんなやってる内に、放流を始める放送が聞こえてきた。

「せーの」と大きな声が聞こえてきたと思ったらカウントダウンが始まった。


 わたし達も唱和に参加する。


「10…9…8…7…6…5…4…3…」


『下久保ダムは目撃例多発のマジヤバい心霊スポットー!!』


 抑揚のない大声によって、カウントダウンは中断される。


 みんなの注目する水門の上に青い巨人の姿が!


 よりによって心霊スポットの話なんて!

 こうなってくると、もはや風評被害じゃすまない!


「へえ、実験都市に現れる怪物ってあれのことかい?」

 星子さんはエモバグを見るのは初めてのようだ。

 当然の事だろう。


「行くよあんた達」

「うん!」

「あ、でも……」


 星子さんがいるけどどうしよう。

 一緒に避難しないと不自然な気もする。


「わたしは付近に逃げ遅れた人がいないか確認するよ。

 君達は早く避難するんだ」


 落ち着いた態度でそう言う星子さん。

 うーん、大人。


 これはこちらにとっても好都合。

 別行動して、物陰で変身する事にした。


 エモバグはダムセーヴァーに変わっておしおきです!


 ☆☆☆


 これは後で聞いた話なんだけど。


 走り去っていく三人の少女達を眺めていた綺羅星子だったが、すぐにエモバグに視線を戻した。

 彼女は避難するでもなく、逃げ遅れた人がいないか探索するでもなく、さわやかな笑顔をたたえ、そこにたたずんでいた。


 やがて、フリルがついた、ピンクと黄色と青の、ドレスのような衣装を纏った少女達が現れ、エモバグに向かっていく。


「そうそう。これが見たかった」


 星子はやはり避難はせず、少女達を注視している。


「お手並み拝見といこうか、埼北プリジェクションキュレーター」


 なんだかすごいね!


<つづく>

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