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第17話 伝説の銘菓、わかいづみを手に入れろ! サクラの新必殺技! B、Cパート

 梅桃ももはご当地アイドルグループ、SAH40のメンバーだ。

 そのももが新曲お披露目ライブで、サビでセンターになる機会があると聞き、応援に駆け付けたわたしといろちゃん。

 ロワイヤル洋菓子店でももがリクエストした伝説の銘菓、「わかいづみ」を入手。


 わたし達をモチーフにした新曲、「町のキュレーターガールズ」に大興奮!

 ライブの合間にももに伝説の銘菓、「わかいづみ」を渡そうと思ってたんだけど……。


『最近のアイドルの歌は歌じゃないー!ランキングから除外しろー!』


 抑揚のない大音量の声が。


 ライブハウスの外に出ると、ピンクのエモバグが。


「ひゃっはっは!NOと言いなよ、マジョリティ!ってなあ」


 そして、刺々しい黒装束と、仮面からはみ出す黄緑色の長髪。

 キュレーショナーのエキセントリックだ。


 わたしといろちゃんは物影に入る。


「キュレーティン!」


 変身したわたし達はライブハウスとエモバグの間に割って入る。

「はじけるキュレーター、プリジェクションソーダ!」

「実りのキュレーター、プリジェクションペアー!」


「早いじゃねえか、プリジェクションキュレーター!」

「今日は新曲お披露目ライブなんだから、邪魔しないで!」

「ぬるくせーアイドルのライブを潰しに来たんだよ、気に入らないなら止めてみろよ」

「もー、Don’t say noなんだよー」

 これはいろちゃん。


『握手会や総選挙のためにCDが売れてもアーティストとしての実力じゃないー!』


 エモバグのパンチを二人で受け止める。たくさんの人がいるライブハウスを殴らせたくない。

 避難する人々がライブハウスから出て来る。


「今回のエモバグはいい事言うよなあ!」


「あなたはアイドルが嫌いなの?」

 なんだかエキセントリックはエモバグと意気投合してるみたい。


「当たり前じゃねえか!音楽はやっぱロックだろ」

「わたしはSAH40大好きだよ!」

「はっ、センスねえなあ!こんな建物、ぶっ壊しちまいな!」


『最近のアイドルの歌は歌じゃないー!ランキングから除外しろー!』


 ピンクバグが振りかぶってライブハウスに殴りかかってくる!

 もう一度二人で攻撃を止めようとした時だった。


「何言ってるの?見る事や聞く事より、参加する事が求められる時代になっただけでしょ!」


 ピンク色の姿が現れて、エモバグのパンチにクロスカウンターを放った。エモバグは勢いよくライブハウスの反対方向にふっ飛ばされる。


「咲き誇るキュレーター、プリジェクションサクラ!」


 腰まで伸びたポニーテールがトレードマーク。

 ピンクのキュレーター、プリジェクションサクラだった。


 さっきのライブと同じポーズ。

 避難中のファンから歓声と拍手が上がる。


「てめえ!アイドル気取りか?気に入らねえ」

 エキセントリックも狼狽している。

「好かれる必要がないわね、あんたには」


 颯爽と現れたサクラ。


「さっさとやっつけるわよ……」


 ただやっぱりどこか疲れてる感じ。


「そうだ、これ!」

 わたしはサクラに四角い包みを投げた。

 手のひらサイズの白いその包みは伝説の銘菓「わかいづみ」だ。


「サンキュー」

 キャッチしたももはすぐに包みを解いて食べ始めた。


「てめえ、なめてんのか!」

 エキセントリックがそう言うと、エモバグがももに飛びかかってきた。

 狭い商店街の建物にぶつかりながら、轟音を上げつつ掴みかかってくる。


『握手会や総選挙のためにCDが売れてもアーティストとしての実力じゃないー!』


 ももは伝説の銘菓「わかいづみ」をくわえたまま、攻撃をいなした。

 そして、次の瞬間には食べ終わり、


「ネットで音楽が配信される状況下で、ライブ感によってマネタイズの方法を模索してたんでしょ」


 エモバグに鋭い回し蹴りを喰らわせた。


「フェスなどにも繋がっていく流れなんだからー!」


 ちなみにSAH40では総選挙での選抜等は行なわれてない。

 握手会も2019年より廃止されてるよ。

 プロデューサーのリョウさんの方針みたい。


「パワーが貯まったぷー」

 はにぷーが言うと、確かにもものブローチが輝いている。


「ちぃっ!屁理屈ばっかのアイドルのライブなんざぶっつぶしてやる!」


 見ればエキセントリックは目に黄緑色のバイザーを、キュレーションサイトをかけている。

「うんざりなんだよマジョリティ!」


 エモバグが巨大化する。

 ライブハウスの商店街の二階建ての建物より大きい。


「どうしよう、サクラ!」

「パワーアップしてない必殺技じゃ倒せないよー!」

 わたし達はうろたえるが、


「あ、そう」

 ももは冷静だった。

「じゃあパワーアップしてみせればいいんでしょ」


 そう言いながら伝説の銘菓、「わかいづみ」をもう一個食べるほどの余裕を見せる。


「はっ、和菓子を食ったくらいでパワーアップしてたまるかよ!」


 サクラはエキセントリックをキッと睨んだ。

「わたしを甘く見ない事ね。いや、伝説の銘菓を甘く見ない事ね」

 もはやまったく疲れた感じじゃない。

 すっかりエモーションがみなぎった感じだ。


「サクラブリザード!」


 ももが叫ぶとエモーショナルな桜吹雪が現れて竜巻のようにももをつつんだ。


「ふん、竜巻を使うって聞いてたが、そのまんまじゃねえか」

 エキセントリックは吐き捨てるように言った。


 でも違う。今までと同じじゃない。

 サクラは竜巻で攻撃していない。

 ずっと桜吹雪に包まれている。

 そして、これまでのサクラブリザード以上のエネルギーを感じる!


「やっちまえ!エモバグ!」

 巨大ピンクエモバグがサクラめがけて突進してくる。


 そして、


「遊びは終わりよ!」


 そう言って自分もエモバグに向かっていくサクラ。

 桜吹雪を纏ったまま。

 一瞬でエモバグの目の前まで移動。そして……!


「サクラブリザード・繚乱!」


 桜吹雪を纏ったパンチとキックの連続攻撃。

 その一回一回が巨大エモバグを揺さぶっているのが威力を物語っている。


 最後はジャンピングアッパーでとどめ。

 巨大エモバグは空中に巻き上げられ、桜吹雪とともに消滅した。


「ざっとこんなもんね」

 桜吹雪をバックに着地するサクラは、まるで舞台で見ているみたいに華麗だった。


「サイスフィアゲットぷー。めっさかっこよかったぷー」

 はにぷーが後に残されたピンクのサイスフィアを回収する。


 ももに駆け寄るわたしとペアー。

「すごいよ、サクラ!」

「これで三人ともパワーアップだね」


「伝説の銘菓『わかいづみ』のサクサク感とクリームのたたみかけるような美味しさをヒントにしたんだ」

 こうしてたたみかける連続桜吹雪攻撃は完成したのだった。

 美味しさもエモーションを大きく刺激するものなのだ!


「だけどサクラ、わかいづみ食べるの早いね。全然ぽろぽろしないなんて」


 これは伝説の銘菓『わかいづみ』あるあるだが、とにかくぽろぽろ破片が落ちて食べるのが難しいのだ。


「うん、わたしは一切ぽろぽろしないよ」


 そう言うとももは三個セットの最後の一個を食べて見せた。

 絶妙な甘噛みで本当に一切ぽろぽろしなかった。


「すごい!どうやるの?」

「わたしにも食べ方教えて!」

「てか三個とも食べちゃったし」


 これはライブの二回転目が終わったら、ロワイヤル洋菓子店に向かわなければ!


「ちぃっ!伝説の銘菓を甘く見たか」


 一方、立ち去ろうとするエキセントリックだったが、


「ちょっと待て!」

 レッドサインのオーナー、リョウさんだった。


 最初は誰に言ってるのか分からなかった。

 でも、視線の先にいたのは、エキセントリックだった。

 エキセントリックを見つめて愕然としていた。


「その声、その髪の色……。お前、芽崎(めさき)じゃないのか?」


 エキセントリックは何も答えない。


「芽崎!お前なんでそんな恰好してる?怪物騒ぎはお前の仕業しわざだったのか!?」


 エキセントリックはリョウさんをにらんでいた。

 仮面の下からでもそれが分かった。


「ちっ……!」

 エキセントリックはそのまま去って行った。


「オーナー!あいつを、エキセントリックを知ってるんですか?」

 変身を解除した後、ももは尋ねた。


「あいつは一時期バンド仲間だったんだ」


 リョウさんはかつてバンドをやっていて、今はライブハウス、レッドサインでSAH40をプロデュースしている。

 エキセントリックはそのかつてのバンドのメンバーだったのだろうか。


「あいつの名前は芽崎みどり」


「きみどり?」

 わたしは聞き返した。


「みどり。芽崎みどり、バンドのボーカルだった」


 意外なところから判明したエキセントリックの正体。

 事態は急展開を迎えていた。


 ☆☆☆


 これは後で聞いた話。


 エキセントリックは本庄商店街の裏路地に降り立った。


 そこはエモーショナルプロジェクションマッピングの光の届かない場所だ。

 エキセントリックのコーデが消えていく。


 黄緑の長髪に映える、赤い派手な柄のシャツと黒のレザーのチョッキとパンツ。

 複数の指輪に、派手なベルト。パンツから伸びたチェーン。

 色白の肌と、多きなクマのできた目と、口元と両耳のピアス。


 それが、芽崎みどりだった。


「クソっ!」

 壁に腕を叩きつけた。


「いらつくぜ!クソっ!」

 置いてあったエアコンの室外機を蹴りつけた。


「だから一番壊したい場所なのに今まで行かなかったんだ。それなのに……!」


 フラフラと路地を出ていく芽崎みどり。


「なんでアイドルのプロデュースなんかやってんだよ……」


 表通りがまぶしくて顔をしかめる。


「なんでロックを捨てちまったんだよ…、リョウ……」

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