表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/100

第17話 伝説の銘菓、わかいづみを手に入れろ! サクラの新必殺技! Aパート

 最近の梅桃ももは忙しい。もとい、アイドル梅桃さくらは忙しい。

 SAH(エスエーエイチ)40の人気が急上昇しているのだ。


 それには理由があって、最近SAHのライブでプリジェクションマッピングによる衣装が実装されるようになったのだ。


 一曲ごとに、それもシームレスで衣装が変わる。

 会場自体もプロジェクションマッピングでの演出が施されている。

 埼北市でしか見られない最先端のパフォーマンスなのだ。


 全国からお客さんがやってくるほどだし、取材も殺到している。


 このプリジェクションマッピング衣装のデータは、わたし達のキュレーターとしてのバトルから取られているのは秘密だ。


 実験都市アドバイザーであるお父さんの関わっている仕事でもある。

 実験都市のパフォーマンスにもなって、わたしとしてはさらに嬉しい。

 わたしといろちゃんもファンで、ももを応援している。


 中学生というのもあって中列に収まっているがももの、もとい「梅桃さくら」の実力はやっぱりすごい。

 トップクラスなのではないかとすら思う。

 顔立ちの美しさも元アイドルの母親譲りだし、背の高さやスタイルのよさも目を引く。

 歌唱力とダンスも申し分ない(これはわたし自身が詳しくないのでちょっと自信がないけど)。


 ただ、珠に傷なのは、ライブ中にエモバグが出ると退場してしまう事だ。

 できるならわたし達だけで何とかしたいのだが、キュレーショナーが現れて以来、正直ツラい。

 ピンクバグの場合はどうしてもプリジェクションサクラが必要になってしまうというのもある。


 プロデューサーである、ライブハウス「レッドサイン」のオーナー、リョウさんはももがプリジェクションキュレーターである事を知っている。

 メンバーにに対して、もものライブ中抜けは市からの仕事、と説明してくれているみたい。


 そんな中、この前ももから新曲ではサビの部分で前列センターになる場面がある、と報告が。

 その新曲の初お披露目のライブなら絶対観に行きたい。

 そんな訳で今日はいろちゃんと一緒に、ライブハウスのある本庄商店街に向かっていた。

 

 しかし、わたし達はまっすぐレッドサインに向かった訳ではなかった。

 ももにお土産に何か欲しいものある?と聞いたらリクエストがあったのだ。

 それを入手するべくわたし達はロワイヤル洋菓子店を目指していた。

  

 ロワイヤル洋菓子店は埼北市で最も有名なお菓子店だ。

 その名の通り各種洋菓子が揃っていて、わたしも大好き。


 しかし、ケーキ類ばかりではなく、一見和菓子のようにも見えるお菓子類も販売されている。


 中でも絶品なのがももが欲しがっている伝説の銘菓「わかいづみ」なのだ。

 ウェハース生地のサクサク感とクリームのまろやかさのハーモニーが奇跡的に両立していて、食感と甘さを繰り返している内に食べ終わってしまう。


 また、パウンドケーキの「本庄そだち」もおいしいが、レーズン入りが「本庄の女」なのがイヤーンな感じ。


 銀行前のバス停を降りればロワイヤル洋菓子店はすぐそこだ。

 煉瓦作りのアーチが目に入る。


「ここが噂のロワイヤルだね」

「いろちゃんは初めて?」

「うん、でも来てみたかった。現代はさながら戦国だね」

 時々いろちゃんの言う事は分からないが、なんかのなんかなんだろう。


 煉瓦造りの店舗に足を踏み入れる。

 120年前に建てられたというこの建物は元は繭を担保にしてお金を借りられる銀行であったという。

 取り扱いがデリケートな繭の保管のため、換気や通着性に優れ、また関東大震災を大きな損傷なく切り抜けた丈夫さも持っている。


 色とりどりのケーキに目を奪われるが、ここは迷わず伝説の銘菓「わかいづみ」三個セットを購入した。


 買ったら急いでライブハウスに向かう。やはり大盛況の人だかりだった。


 わたしといろちゃんはライブ会場に入った。


 新曲ではももがサビでセンターに入るシーンがあるという。

 なんだかわたしが緊張してしまう。


 しかし、SAH40のメンバーが入場した瞬間、わたし達は息を飲んだ。

 正確には彼女達のステージ衣装に釘付けになった。


 ピンク、黄色、青に色分けされたそれは袖と裾にフリルが付いていた。

 胸元にはリボンの付いたブローチ。

 頭には羽飾り。


 そして前列センター、SAHのトップアイドル、明心(みょうしん)こころちゃんが新曲のタイトルを発表した瞬間、予感は核心に変わった。


「いきます!街のキュレーターガールズ!」


 それはわたし達、プリジェクションキュレーターをテーマにした曲だった!


 プリジェクションキュレーターは、初めの頃はみんな避難していたし、報道からも隠されていたが、最近は携帯で写真や動画がアップされていて、公然の存在になりかかっていた。


 それをプロデューサーのリョウさんがいち早く目を付けて、新曲に取り入れたんだろう。

 お父さんとも話を付けて、EPMの衣装のデザインをしたのかも知れない。


 歌詞の方はヒーローの歌と言うよりは、女の子の自立して強くなって行く様を、街を守る謎のヒーローにシンクロさせた歌だった。


 そして、サビのシーンで前に出たもも(芸名は梅桃さくら)。

 とったポーズは空手の構えをモチーフにした、両腕を上下に広げたような、プリジェクションサクラと同じポーズ!


 観客席もちょっと沸いた。サクラとさくらをかけた、くらいに思われたみたい。

 その後、黄色の子が一人、ペアーのポーズをしたり、青色の子はわたしのポーズをしたりした。


 新曲もその後のライブも大盛況で一回転目は終了。


 このタイミングでももに伝説の銘菓、「わかいづみ」を渡す事にした。

 この新曲お披露目ライブのためか、最近ももは疲れ気味。

 伝説の銘菓で元気になってもらいたい。


 と、思っていたのに、


「エモバグが出たぷー!」

 はにぷーが現れる。やむを得ず伝説の銘菓「わかいづみ」を持ったまま外へ。


『最近のアイドルの歌は歌じゃないー!ランキングから除外しろー!』


 抑揚のない大音量の声が響く。

 もう大事なライブの邪魔しないでよ!


<つづく>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ