第1話 カリヴァリ君大好き!美里町のヒーロー、プリジェクションソーダ誕生! Aパート
埼玉県、埼北市。
人口54000人。埼玉県の北西の端。
本庄市|(旧児玉町含む)、美里町、上里町、神川町が合併して作られた新しい自治体。
わたしの名前は葵上あおい。
埼北市美里町に住んでいる。
美里中学校に通う十四歳。どこにでもいる普通の女の子。
背は高過ぎず、低過ぎず、黒髪のロングヘアがトレードマーク。
今回はそのわたしが変身ヒーローになった日の話をするね。
「行ってきます、お母さん」
「行ってらっしゃいあおいちゃん」
玄関を開け外に出ると、そこには小人さんや妖精さんが楽しそうに踊っている。
「おはよう!あおいちゃん」
「おはよう!小人さん!」
「今日はいい天気ね、あおいちゃん!」
「そうだね、妖精さん!」
みんなに挨拶しながら徒歩で学校を目指す。
小人さんと妖精さんはプロジェクションマッピングだ。
埼北市は街中にプロジェクションマッピングによる映像が投影されている。
しかも、ただのプロジェクションマッピングではない。
人の感情に作用し、心を和ませて平穏にするエモーショナルプロジェクションマッピング(略してEPM)なのだ。
ここ、埼北市は世界初のEPM実験都市。
特に美里町はメルヘンをスローガンにしているので、小人や妖精をテーマにしたプロジェクションマッピングが街中に投影されている。
住民の情報が反映されていて名前を呼んでくれる。気味が悪いって言う人もいるけど、わたしは小人さんも妖精さんも大好き。
わたしはスクールバスに乗り込んだ。定期券をかざして、座席に座る。
「出発いたします」
機械の音声が流れ、バスは発進する。
埼北市のバスは見晴らしがいい。
何しろ運転席がない。
そう、埼北市のバスは完全自動運転なのだ。
自動運転車の研究は各国で行われているが、実用されているのは埼北市のみ。
本数も停車場所も多い。
その決め手となったのがエモーショナルプロジェクションマッピング。
自動運転車の事故を激減させた決め手は、人工知能の発展ではなく周りの人間の心の持ち様だった。
EPMの映像が人々の心の平穏を促す事によって、自動運転車は実用レベルになったのだ。
今日のプロジェクションマッピングは透き通るようなブルーの海底。優しい日射しとサンゴ礁と色とりどりの魚たち。
学校でもEMPによるメンタルケアは行われている。
授業中にも高山や平原の映像が壁に投影される。
一見気が散りそうな気もするが、感情を平穏にし、集中力を高める効果のあるプロジェクションマッピングなのだ。
放課後もバスに乗り込んで帰る。
プロジェクションマッピングは日光のふんだんに差し込む林。
小鳥たちの鳴き声が心地いい。
わたしはヤバンセ前の停留所で降りる。
ヤバンセとはショッピングセンター。百円ショップも併設されているわたし行きつけなのだ。
晩ご飯のおかずを買ってくるようお父さんに言われたのだ。
建物を目指して駐車場を横切っていると不意に警報が鳴り響く。
消防車とも救急車とも違う聞いた事のない警報だ。
買い物客もみんな不安がっている。
こんな事初めて。一体何が起こったのだろう。
眼の前が暗くなった。
何事かと思ったら駐車場の向こう、店舗の壁面から巨大な影が現われた。
店舗と同じくらいの背丈の青い巨人だった。
『埼北市なんかが実験都市に選ばれたのは汚い取り引きがあったからだー!』
<つづく>
【あおいちゃんのクリエイティブ作中用語講座】
・エモーショナルプロジェクションマッピング(EPM)
人の感情に作用するプロジェクションマッピングの事。
人の精神を穏やかにしたり、集中力を高めるために使われている。
埼北市では町中にEPM用のプロジェクターが設置されているよ。
EPMで人々の心の平穏を促す事によって、埼北市の自動運転車は実用レベルになったんだ。




