第6話 明かされるプリジェクションキュレーターの秘密!あおい達埼北市庁へ、あとファッションセンター Bパート
『タトゥーを認めて欲しいなら日本以外で生活しろー!ここは日本だー!』
音声合成したような、抑揚のない大声が響く。
出現したのは青いエモバグだ。
エモバグは街路樹を殴っていた。その足元に枝や葉っぱが散乱している。
しまむうは道路に面している。枝は道路にも落ち、行き交う車の通り道をふさいでいた。
『外国人や外国はどうだろうと、日本は日本の文化と歴史を大切にするべきだー!』
エモバグが立ち往生した車に狙いを付けた。
運転席にはまだ男性の姿が。それどころか助手席には女性と、さらに後部座席に子供達の姿が。
『プールの監視員がヤクザとファッションを見分ける手間を考えろー!』
「危ない!」
急いで駆けつけようとするわたしだが、距離が遠い。
『入れ墨は派手なファッションみたいに、視覚情報として威嚇してきてるから、偏見を持たれてもしょうがないー!』
車を踏み潰すそうとするエモバグをドロップキックで転倒させたのはももだった。
「ナイス!も……サクラ」
呼び方に気を付けてみたり。
「後はあんたの出番よ、ソーダ」
車は無事に逃げおおせた。あとはエモバグをやっつけるだけ。
政治経済と社会問題の青いエモバグ退治はわたしの仕事だ。
街路樹に寄りかかって起き上がるエモバグ。枝がバキバキと折れる音がする。
『タトゥーを認めて欲しいなら日本以外で生活しろー!ここは日本だー!』
突進してくるエモバグ。わたしはそれをひらりとかわし、
「何言ってるの!グローバル化とか外国人観光客を増やしたいとか言っているんだったら、あなた達が意識を買えるべきよ!」
相手の頭部に踵落としを喰らわせる。
すでに車両の待避した道路の方に、エモバグを押し飛ばす。
『外国人や外国はどうだろうと日本は日本の文化と歴史を大切にするべきだー!』
さらに起き上がってわたしに覆い被さろうとするエモバグだが、
「日本の入れ墨の歴史は縄文時代までさかのぼるんだよ!あなたこそ日本の文化の勉強が足りないわ!」
今度は下から蹴り上げるサマーソルトキック。
こんなとんぼ返りをまじえた攻撃なんて、普段運動してないわたしにはできっこない。
エモーショナルプロジェクションマッピングが身体能力を高めているおかげだ。
『プールの監視員がヤクザとファッションを見分ける手間をかんがえろー!言いがかりで因縁つけられるんだぞー!』
態勢を立て直したエモバグのパンチだが、難なくかわすわたし。
「タトゥーと入れ墨の違いはデザインを見ればわかるでしょ!それこそ言いがかりだよ!」
できた隙を狙ってふところに潜り込んで顎を狙った膝蹴り。
『入れ墨は派手なファッションみたいに、視覚情報として威嚇してきてるから、偏見を持たれてもしょうがないー!』
膝蹴りに耐えて掴みかかって来るエモバグだが、
「恋人や家族の名前のタトゥーを見て、威嚇されていると思うとでも言うの?」
後ろに飛び退いてかわし、
「差別をしたいから非寛容さを後生大事にする、そのさもしさを何とかしなさい!」
ドロップキックが炸裂!
ここでわたしの胸元のブローチが光輝く。
「エモーショナルパワーが貯まったベェ!」
これで必殺技が撃てる。
エモバグが態勢を整えるより、わたしが広げた両腕を前に出すほうが早かった。
「ソーダスプラッシュ!」
ブローチの輝きが炭酸水に変化して噴出する。
それを浴びたエモバグは消え去っていく。わたしの大勝利なのだ。
「やるじゃない」
「かっこよかったよー」
そう言えば二人の前でエモバグを倒したのは初めてだった。
「サイスフィアゲットだベェ」
ミムベェが青いサイスフィアをサイストレージにしまう。
エモバグの謎を解く手掛かり、そればかりでなく、自律型AIの研究に重要な役割を果たすという。
「人々のエモーションの塊か」
ももがつぶやいた。
「サイってサイコロジーとかサイキックとかから来てるのかなあ?」
これはいろちゃん。
二人もサイスフィアが何なのか気になり出したみたい。
わたしはここで兼ねてからの見解を示す事にした。ここがその時だと思った。
「スフィアって球体って意味だよね」
みんながわたしに注目した。
「って事はサイスフィアはさいたまとも言えるよね」
……………
「何言ってるベェ」
あれ、みんなの冷ややかな視線が。
「だってほら、さいたまの方が言いやすいし」
「それもさいたまにしちゃったらまぎらわしいじゃない」
ももももに反論されてしまう。
「そうだねー、さいたま市もあるしー」
いろちゃんの反応もよくなかった、残念。
「さて、帰りましょう」
ももが言う。確かにお昼ご飯もまだなんだよね
「しまむうも店舗の被害はないみたい」
今回はエモバグが店舗より街路樹や車を狙ったためだ。
しまむうが無事でよかった、しまむうが。しまむう……?
「しまむう!」
わたしだった。
「何?あおい、大きな声だして!」
「びっくりしたよー」
「お二人に相談が……!」
「うん?」
「しまむうに行きたいです!」
我が愛する美しい美里町ではあるが、しまむうがない事が珠にキズなのだ。
「本庄も上里もしまむうがあるなんて都会過ぎ」
「うーん」
「いや、最近は全国にあるけど、基本的にローカルなお店だからね」
いろちゃんも、ももも首を傾げている。都会の余裕を見せ付けられた形だ。
「この機会になにとぞ……」
「まあいいけど。わたしもジャケット見たかったし」
「あたしもなんだかんだで買うものあるなあ、安いし」
二人の同意も得られた。センスがよくて、その上リーズナブルなのがしまむうなのだ。
「やったー!しまむうだっ!しまむうだっ!」
「ちょっ、あお……ソーダ、はしゃぎ過ぎ!入るのは変身を解除してから!」
かくしてわたし達はしまむうショッピングに興じたのだった。
わたしは夏に備えてかわいいTシャツとインナーと靴下を買った。
これで夏の準備は万端!プリジェクションキュレーターとしても、自治体のバックアップを得られる事が分かって準備万端!
どんな敵だって迎え撃つばかり!
……なんて思っていたからなのかどうかは分からないが、今後わたし達のバトルは新しい段階に移る事になる。
味方の事が分かったら、今度は敵の事、という流れのようだった。




