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全属性の付与師ミラ ~そして少女は今日も願う~  作者: 芽生 1/15『裏庭のドア』3巻・コミックス1巻発売!


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第9話 揺れる心

読んでくださり、ありがとうございます。

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「……あたしが魔力持ちだってわかったのは5歳の頃、貴族の血を引くから念のため、鑑定をしたんです。そこでわかったんです。あたしは全属性を持っているって」

「全属性……!? 付与から複数の属性を持つとはわかっていたが……全属性とは……」


 エルザの店で売られている商品には様々な付与がかけられていた。そのことから、複数の属性持ちであろうと推測していたギルバートではあったが、まさかミラが全属性だとは思ってはいなかったのだ。

 衝撃を受けるギルバートにミラは言葉を続ける。


「それでも父も母も変わらなかった。もちろんジルも。でも、他の人々はそうじゃありませんでした。どこで聞きつけたのか、叔父があたしを養子にと申し出てきて……父も母も抵抗した。だけど、貴族である叔父が権力を使えば、なんでもできる……あたしは叔父の養子となりました」

「……そうだったのか」


 貴族としては全属性であるミラを放ってはおかないだろう。

 それは貴族であるギルバートとしても予測できることだ。そこにミラの家族の思い、幼いミラの心が考慮されることはなかったのだろうと、ギルバートは眉間に皺を寄せる。


「結局、魔力は扱えなかった。厳しい生活に耐えて、学んでもダメだったんです」

「だが、今は付与を扱えるだろう?」

「――それはあたしにもよくわかりません。力が使えるようになったのはジルが体調を崩したとき、高熱が出て、もうダメなんじゃないかって思ったんです。だから、願った。あたしの大事な人をもうこれ以上奪わないでって――それが初めての付与になりました」


 魔力の顕現には人によって違いや制約があるという。 

 13歳となったときに詳細な鑑定を行うのが一般的ではあるが、それですべての力が決まるわけではないのではという意見もある。

 魔力の顕現は精神の状態に作用されるのではというのが、最近学者達の間では議論されているとギルバートは聞いた。

 叔父の家でどのような扱いを受けていたか、ミラは『厳しい生活』としか語らなかったが全属性に惹かれ、強引に引き取ったことからも良い環境ではなかったのだろう。


「魔力が顕現出来ないあたしを家族以外は皆、見放した。叔父は怒ってあたしを家から追い出して、籍も抜いたんです。婚約していた人ともそれ以来、会っていません。彼らは皆、貴族です」


 ギルバートはミラの言葉に静かに耳を傾ける。

 初めて出会ったあの日も、騎士である自分にミラは警戒心を解かなかった。それが貴族への不信感にあるのだろう。

 

「――あなたも騎士なんだから貴族でしょう? あたしはもう貴族なんて信じない。あたしとジルの生活を守るのはあたし達自身なんです」

 

 ミラは震えそうになる声をなんとか抑えつつ、ギルバートをまっすぐに見つめる。

 世話になった街の人々を助けたいという気持ちをミラは持っている。だが、この力を知られることでミラとジルの日々は変わってしまう。

 貴族がすべて悪いわけではないとミラとて信じたい。

 しかし、彼らはミラ達にはない権力を持っているのだ。


「――俺には魔力がないと言ったら信じるか?」

「……え?」


 突然のギルバートの言葉にミラは目を大きく見開く。

 それは今、全属性の付与を持つとミラが打ち明けたのと同様に、衝撃の事実であった。

 貴族は皆、魔力を持って生まれてくる。その属性の数で将来が決まると言っても良い程だ。にもかかわらず、騎士であり、貴族の生まれであるギルバートがなんの魔力も持っていないとはミラは想像だにしていなかったのだ。


「同じように5歳の鑑定で魔力を持たないと言われた。それ以来、魔力を身につける努力を怠らなかったが、13歳の鑑定でも結果は変わることはなかった。だが、魔力を感知する能力だけが人より長けていた。おかげで君の付与も見つけることができたんだ」

「……じゃあ、どうやって騎士になることができたんですか? 貴族で魔力がないとその……大変じゃないですか……」

 

 ミラの言葉に少し気恥ずかしそうにギルバートは肩を竦める。

 

「まぁ、その、努力だな。ひたすらに剣の腕を磨いたんだ。……これで貴族だからといって、皆が同じではないとこれで信じてもらえるだろうか?」


 ミラの視線はギルバートの手に移る。

 彼の手はごつごつとして、傷もある。華やかな外見と異なる武骨なその手は剣を振るい、自身を高めてきたであろう彼の努力を伝えてくれる。

 今日、孤児院へ向かったこと、ミラに頼んだ付与の内容も含めて、彼がミラが出会ってきた貴族とは異なることを示していた。

 そもそも、彼が騎士であり、貴族であるならば、ミラに頼むことなく命令することが出来るのだ。

 それが貴族の権力であるとミラは経験を通して知っている。

 しかし、出会った当初から一貫してギルバートはミラに協力を仰いでいるのだ。


「……わかりました。出来るかぎり、付与をしてみます」

「本当か……!?」

「別にあなたがどうとかではなくって……! この街はあたしとジルを助けてくれた人達がいる場所だから。街の皆には平和に過ごしてほしいんです……! あ、でもちゃんと街の人にも渡るようにしてください! 偉い人にだけ、渡すことはしないで」


 それはギルバートも望んでいることだ。

 貴族達は自らを優先することを主張するだろう。しかし、領民がいなければ領地は存在し得ない。

 ギルバートが幼い頃、よく聞かされた言葉である。

 病が広がり、最も先に被害を受ける市井の者を中心に、付与の効果を授ける必要があるのだ。


「もちろんだ。気付かれないように君は付与を施したブレスレットを今後も販売してくれ。市販の物に付与をしたものは、俺が王都へと広げていく。もちろん、民を中心にだ」

「そう上手くいくんでしょうか……?」

「都会の人間は流行に機敏だからな。問題ない」


 自分や家族以外の人々のために、付与の力を惜しむことなく使える。それがどれだけ稀有で崇高なことであるか、ミラは知らないのだろう。

 この街リブル、そして多くの人々を救うことになるだろう少女の不安を打ち消すようにギルバートは力強く微笑むのだった。

 

 

 



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