多賀谷の復讐
「お三方、特に多賀谷さん。なんであなたがここにいるんですかね?」
まあ、怪しい二人はまだわかる。
たまたまこのボス部屋のある階層に降りてきた時に、凛達がハイオーク倒したことで扉が開いていて誰もいないと勘違いした可能性もあるからな。
だけど多賀谷がここにいるのはおかしい。
多賀谷は今、あの魔犬のダンジョンの事件の時の責任を取るために今は謹慎中のはず。
「あ、天宮さん。あの人達って?」
いつの間にか近づいてきていた凛から質問される。
「ちょっと説明が難しいな……でも一人はここにいるわけがない奴だよ。絶対に」
説明しながらも、警戒は怠らないようにしながら睨み付ける。
「クックックッ。まあ、そういうことだな。悪いな嬢ちゃん達も巻き込んじまってよぉ……」
あの謝罪の時の言葉遣いや態度がまったく違う。
完全にチンピラ口調だし、目は虚ろで口元には薄ら笑いを浮かべている。
これはまずいな……
明らかに正気じゃない。
「巻き込んで悪いってことは目的は俺か。一体どういうつもりなんだ?あんた」
「どうするつもりもないさ。ただお前に復讐に来ただけさぁ……」
「復讐だと……?」
こいつもしかすると、あのときのことを根に持ってずっと復讐の機会を狙っていたのか?
……となると残りの二人も協力者と考えるべきだな。
「そうだ。あの時のことを俺は忘れてねぇぞ……てめぇのせいで俺は謹慎処分を受けて、おまけにこれから支部で監視されながらの生活を送らなけりゃいけなくなった。それも全部てめえのせいだ……」
「それで復讐のためにそこの二人に協力してもらってるってことか」
「ああ、その通りだ。だが、それだけじゃねえ。てめえが俺を突然変異モンスターを倒したと嘘をついて嵌めたことも忘れちゃいねえ。その分もまとめてたっぷり苦しめてやるぜ!」
「なにそれ!逆恨みってことでしょ!?」
多賀谷の話を聞いた凛が怒りをあらわにして多賀谷を睨み付けた。
杏樹も、莉奈も言葉には出してはいないけど、その目に怒りを宿して、多賀谷を睨み付けてる。
「はん!それがどうした!俺のこれからの生活はどうやっても取り戻せねえんだよ!!だったらせめてそいつを殺して憂さを晴らすしかないだろ!!」
……やっぱり狂ってるな。
目の焦点も合ってないし、とてもじゃないけど普通とは思えない。
「悪いけど、俺も殺されるつもりはないからな。抵抗させてもらうぞ」
見たところ多賀谷はそこまでレベルは高くないし、残りの二人も……Dランクダンジョンぐらいか?それぐらいのモンスターを倒せるぐらいのレベルだ。
少なくともDランクダンジョンのボスをソロで正面から倒せる俺の敵ではない。
「そうかよ殺れ!お前ら!今更抵抗したところで無駄だってことを教えてやれ!ただし女は殺すなよ!」
「……了解」
「……」
多賀谷は後ろの二人の仲間に命令する。
すぐに攻撃してくるかと思ってすぐに疾走の短剣を構える。
だけど、俺の予想に反して、二人が襲いかかってくることはなかった。
二人はただ銃を構えて、銃口を俺に向けてくる。
さて、どうしようかな。
倒すだけなら簡単だ。
だけど、下手なことすると普通に俺の攻撃で死にかねないんだよな。
俺がどうやってあの二人を倒そうかと考えていると、俺の隣にいた凛が一歩前に出て俺の前に立った。
まるで俺を守るかのように。
「凛!?なにをしてるんだ!」
俺は思わず声を荒げてしまう。
「なにって……天宮さん一人じゃ二人はきついって思ったんだけど……」
「いや、心配は嬉しいけど、問題ないよ。凛達は、俺にあいつらの相手をさせてその間に逃げてくれればいい。だからここは俺に任せて……」
「そんなの駄目だよ!それに私達だってもう巻き込まれてるんだからね!いくよ!神速!」
「あ、バカ!」
俺が止めるまもなく、凛はユニークスキルの【神速】を使って一瞬でソードオフ・ショットガンを持った男の目の前に移動すると、鞘に入ったままの剣を振り下ろす。
「やぁっ!」
しかし、男は振り下ろされた剣を片手で掴み止める。
「ふん!」
そして、流れるような動きで凛の腹に向かって蹴りを放つ。
「うぐぅ……くはぁ……」
男の攻撃は見事に凛に命中した。
幸いにも防具のお陰で致命傷にはなっていないようだが、それでもかなり効いているようで凛はそのまま俺達のところまで吹っ飛ばされる。
「り、凛!大丈夫か!?」
「凛ちゃん!」
莉奈が光を放ち、回復魔法を発動させる。
すると、凛のHPは見る間に回復していってすぐにお腹を押さえながら膝立ちになった。
「凛の敵……っ!?」
「……」
杏樹が短剣を構えた瞬間、凛を蹴り飛ばした方じゃない男の持ったスナイパーライフルから放たれた弾丸が、杏樹の構えた短剣を吹き飛ばす。
「……次は当てるぞ……」
「ハッ!こいつらは普段Dランクダンジョンに潜ってる探索者だ!お前らみたいなEランクダンジョンに潜り浸っている奴らに負けるわけねぇだろ!」
確かに、多賀谷の言う通りこの三人はDランクダンジョンに潜っているような強さをしている。
装備の質はそこそこいいし、纏った雰囲気からもそれなりに場数を踏んだ戦い慣れしている感じがある。
だけど、それでも今の俺の敵じゃない。
「……」
杏樹の短剣を撃ったスナイパーライフルを持った男が、今度は俺に銃口を合わせる。
「やれ!」
「……」
俺は無言でスナイパーライフルの銃口を見つめ続ける。
しばらく見続けると、銃口から火が噴いた。
だけど、その銃弾は俺に当たることはない。
「ハッ!」
なぜなら、疾走の短剣で銃弾を斬り裂いて防いだからだ。
「なにぃ!?」
俺の行動に、多賀谷は驚愕の声をあげる。
まあ当然のことで、魔道具に強化されていないただの銃なら、これぐらい今の俺のレベルなら楽勝だ。
しかも今の俺は、600超えのレベル+俊敏、精神力特化のBP振りというステータスなので、ちょっとやそっとの銃撃では俺を捉えることはできない。
それに、魔犬の腕輪で俊敏も補正がかかってるんだから今更ただの銃弾なんて遅い遅い。
「な、なんだと!?」
「い、今のなに?」
多賀谷達が動揺してる隙を突いて、俺の方も多賀谷達に反撃するために、【アイテムボックス】から龍樹の弓を取り出し、【魔法矢】で透明な矢を二本作り出して、弓につがえる。
「複数捕捉……シッ!」
そして、【複数捕捉】でスナイパーライフルとショットガンに狙いをつけて、当てるという意思を込めて弓を上に向けて矢を射ちだす。
すると、上方向に射ち出された二本の矢は、上に飛んでいっている途中でグネッと曲がり、それぞれがスナイパーライフルとショットガンに突き刺さる。
そして、そのまま貫き、スナイパーライフルとショットガンの両方を粉砕した。
「……!?」
「……なに!?」
「な、な、な、なにをしたぁ!!!?」
俺が放った予想外であろう攻撃に、三人は混乱したような声をあげた。
俺は、そんな三人の声を無視して、今度は龍樹の弓を【アイテムボックス】にしまって、疾走の短剣を取り出す。
「これで終わりだよ」
「チッ!」
「……!」
俺は、残り二人のナイフを構えた男と拳を構えた男に狙いを定めて短剣を横にしてうちわのように振るう。
すると、振られた短剣の軌跡から凄まじい風圧が発生し、二人の体を吹き飛ばす。
なんと、こんなことができるようになっちゃいました。
ステータス様々だね。
「ぐわっ!」
「がふぅ……!」
二人は吹き飛ばされると、壁に叩きつけられて動かなくなる。
まあ、HPは残ってるし死ぬことはないだろ。
てか死ぬなよ?俺だけならまだしも、凛達も巻き込んだんだから絶対に許すつもりはないからな。
そして、多賀谷も巻き込めないかな?と狙ってみたけど、残念ながら野生の勘なのか知らないけど、風圧があまり届いてないところまで下がっていたようで当たらなかった。
「な、なにこれー!!!」
「す、すごい」
「……」
凛達を巻き込んでないか、確認すると、凛は、目の前で起きた出来事に驚いているようで、声を上げている。
そして、莉奈は、驚きつつもどこか感心するような目をしていた。
最後に杏樹だけは、俺がやったことに納得しているのか、うんうんとうなずいている。
だけどこれで多賀谷の復讐のための戦力は無力化出来ただろ。
「さてと、お前が頼りにしてたらしい探索者は倒した。おとなしく降参してもらおうか?」




