なぜこうなったか
【書籍化・8月30日1巻発売予定です!】
「あ、カエデ~手伝ってくれてありがとね~」
俺がパウダーバタフライを倒し終わると、シルフィ達が飛んでくる。
「まあ、大丈夫だっただろうけど一応な。それよりもなんであんな状況になってたんだ?」
「えっとね、ここって広いじゃん? だから探索用の魔法とか強めに使った方が良いんじゃないかって思って……」
「そうか。確かにこの広さかつ森って言うのは隠された場所を見つけるのも大変そうだもんな」
「うん! そういうこと!」
「……まあ、そのせいで空を飛んでいたパウダーバタフライを怒らせてしまって風が吹いてる原因であるわたし達の所に集まってきたんですけどね」
なるほどね……。
シルフィはニコニコ笑ってるけど、ディーネは少し疲れてそうだな。
……周囲を見渡してみると、俺が倒したパウダーバタフライの他にも地面に落ちてるパウダーバタフライが何匹か……。
よし。気づかなかったことにしとこう。
「あ~……そういうことだったのか。でも、シルフィに探索用の魔法を使わないでもらうわけにもいかないし今度から俺も一緒にいるときに探索はしてもらうようにするか」
「是非そうしてもらえるとありがたいですね。わたしも回復が得意とは言えあの程度には負けませんが数が増えるとどうなるかわかりませんから」
「確かに数が増えすぎるとつらいよなぁ……。まあ、そのときは手伝ってくれ」
「ええ、もちろんです」
「もう! 二人とも心配しすぎだよ! あたしだってあいつらを簡単に倒せてたじゃん!」
俺とディーネが話し合っていると、シルフィがすこし頬を膨らませてそう言った。
「確かにそうなんだけどな……。でも、やっぱ心配するのは当たり前だろ?」
「え~……」
「そもそも、あなたがあれをする前に一言言ってくれればよかったのに…………それなのにわたし達の心配を無下にする口はこの口ですか? この口なんですよねぇ?」
「いひゃいいひゃい! ディーネいたいよぉ!」
そして、頬を膨らませるシルフィの口をディーネが優しく引っ張る。
縦、縦、横、横、丸、丸、丸、丸、丸、丸、丸、丸、丸、丸……いや、丸多いなおい。
それにしても……なんだろう。この仲良しなダンジョンの中とは思えない雰囲気は。
「ま、シルフィも大丈夫だってことはわかってるけど俺達も心配してるってことで納得してくれよな?」
「ひゃ、ひゃ~い」
「よし。なら、これでこの話は終わりだな……。ということでディーネはそろそろシルフィを解放してやってくれ」
「……ふぅ。そうですね」
ディーネはそう言うとシルフィの頬から手を離す。
「うぅ……痛かった……」
「まあ、軽いお説教だと思って少し我慢しときなさいな」
「全然軽くないよぉ……」
頬を押さえながら涙目になってシルフィがディーネに視線で抗議する。
「カエデさん、これからどうするんですか?」
だが、その抗議もむなしく、ディーネはそれを無視して俺に話かけてくる。
「うぅ……カエデ~ディーネがいじめる~」
「はいはい。シルフィ、もう終わったことなんだからそろそろ切り替えていこうな?」
「もうシルフィったら。……まあ、そんなとこが可愛らしいんですけどね」
「ああ、そうだな。それとこれからだけど、今日はもう帰ろっか。元々今日はシルフィ達が鱗粉とか大丈夫かの確認だけのつもりだったから」
「わかりました」
「ほーい。りょうかーい」
「それに……」
そう呟きながら視線を少し肩で息をしているディーネへと移す。
「ディーネも疲れてるみたいだしな。このままだと咄嗟の行動に遅れが出るかもしれないしな。
それに、シルフィみたいに解放された最初の頃は俺の内ポケットにずっといたってわけでもないし疲れも出てきてるんだろ」
「あー確かにありそ~う。ディーネってば生真面目だからな~息抜きとか出来てなさそう」
「そ、そんなことはない……ですよ……?」
ディーネはそう言いながらも、目を逸らしている。
「ほら、そういうところだよ。たまには休むのも大事なんだから」
「……わかりました」
「じゃあ、そういうことだし今日はこれで終わりにして体をしっかり休めよう。
それで明日からバリバリ探索を進めていこう」
正直、このダンジョンでは一回近くにパウダーバタフライが飛んでいる時に鱗粉で麻痺か睡眠の状態異常になったら死を覚悟するしかない……らしい。
いや、当然このダンジョンに来たのは今日が初めてな俺からしたら集めた情報でしかないんだけどね?
でもあれはダメだろ。
今日、実際にパウダーバタフライを見てはっきりした。
あれは本当に油断してたらなにも出来ずに叩きのめされる。
もし集めた情報通り、近くにパウダーバタフライがいる状態で麻痺か睡眠の状態異常になったらそこから回復した瞬間にまた状態異常という無限ループに入るだろう。
さすがにそんな事を知った状態かつ、ディーネが疲れている状態でダンジョンに潜るなんて事をしたくない。
「カエデ、そんなに心配しなくても大丈夫だってば~。あたし達、強いんだから!」
「わかってるさ、シルフィ。でも、無理は禁物だろ?」
「うーん、そうだけど……」
「シルフィ、カエデさんの言う通りです。帰る原因になってしまっているわたしが言うことではないかもしれませんけど、慎重になるに越したことはありませんから」
「はーい……」
少ししょんぼりした様子のシルフィに、ディーネが優しく頭を撫でる。
俺たちはそんなやり取りをしながら、ダンジョンの出口へと歩みを進める。
……それと、特に意味はないけど、とりあえずシルフィとディーネをホテルに置いたら近くの協会支部の店で毒と麻痺と睡眠解除のポーションをもう十本ぐらい買って行こう。
何度も失礼しますが
【書籍化・8月30日1巻発売予定】
です!
web版よりも遥かに読みやすくなっております!
ぜひお手に取っていただきたいです(ごますりすり~)




