鱗粉のダンジョン
【書籍化・8月30日1巻発売予定です!】
鱗粉のダンジョン。
このダンジョンは、魔樹のダンジョンや新緑のダンジョンのような木が生い茂っているタイプのダンジョン。
木々の間から木漏れ日が差し込み、地面には当然ながら草や花が生えている。
そして、このダンジョンには……あいつがいるんだよなぁ……。
あまり積極的にこのダンジョンには来たくなかったし。
正直、今日もシルフィとディーネが色々な意味でこのダンジョンが大丈夫かの確認がなければ明日に来ようと思ってたからな。
「……う~……。なんかこのダンジョンにいると体がムズムズする……」
シルフィはそう言いながら自分の体を手で払うような動作をしている。
「そうですね……。なにかこう、体にまとわりつくような……」
シルフィの言葉に頷きながら、ディーネも自分の手を同じように振りはじめる。
「あ~……。そうだよな、俺はあまり気にならないけど二人の大きさだと気になるかもしれないよな」
俺はそう聞くと、シルフィとディーネが同時に俺の方を向く。
「そうなの?」
「あ、ああ……。本当にそれが原因は微妙なところだけどな」
「……どういうことです?」
不思議そうな表情を浮かべる二人を見て俺がそう答えると、さらに不思議そうな表情でディーネが聞き返してくる。
「いや、そのな……うん。こればっかりは見た方が早いな。ちなみに二人とも体調とかは大丈夫か?」
「え~……。体調は大丈夫だけど?」
「わたしも体調は大丈夫ですけど。カエデさん……せめて説明ぐらいは……」
二人は俺の言葉に不満そうにする。
「いや、まあ……体調が大丈夫なら見た方が早いから」
俺はそう言いながら足元の根っこなどに気を付けながら鱗粉のダンジョンの奥へと足を進めていく。
そして、しばらく進むと……。
「あ~……いたいた。あれが二人がそんな状態になっているであろう……原因かなぁ?」
「おぉ~……」
「なるほど、そういうことでしたか」
俺が指差す先。そこにいるのは黄色い粉を羽から出しながらパタパタと飛んでいる五匹の蝶。
シルフィが興味深そうにその蝶とにらめっこをしている間に、ディーネは俺が何を言いたいのか理解したらしく納得したような声を出す。
そう。
この鱗粉のダンジョンにいる蝶。
こいつらが俺達がこのダンジョンをあまり来たくなかった理由である。
あの、蝶のモンスターはパウダーバタフライ。
この鱗粉のダンジョンの名前にもなっている鱗粉を常にばらまきながら飛び回っている蝶だ。
「でもあの蝶かわいいよ?」
「まあ、確かに見た目はな……」
「そうですね。でも、この体の違和感の原因はあの鱗粉ですよね?」
「多分そうなんだよね……。パウダーバタフライの鱗粉は毒や麻痺、睡眠の状態を引き起こすんだよ。
そんな鱗粉がこのダンジョンにはうすーくだけど常に舞ってるんだよね」
しかもこの鱗粉が燃えるせいでこのダンジョンは火を使ったり、火の魔法なんかが使用が禁止になってたりするんだよなぁ。
常に鱗粉が舞ってるせいで【状態異常耐性】のスキルレベルも15はないと少しずつだけど状態異常がかかってくるみたいだし……。
「まあ、俺達はあんまり関係ないしいいんだけどね」
「そうなの?」
「ああ、ディーネとシルフィは鱗粉なんて効いてないだろ?」
「そうですね……」
「そうだね~体に鱗粉がずっとついてきてて気持ち悪いぐらいかなぁ」
「で、俺は【状態異常耐性】のスキルを持っているからあの蝶から出ている鱗粉を直接一気に吸わなければ大丈夫ってわけだ」
まあ、【状態異常耐性】のレベルがある程度上がってきてるってこともあるんだろうけど。
そんな俺の言葉を聞いてディーネは納得したように頷く。
「なるほど……。だからカエデさんはこのダンジョンを嫌がっていたんですね」
「……よくわかったな。隠してたつもりだったんだけど……。顔に出てたかな?」
「ええ。それはもういつもよりも顔が強張ってましたから」
「そうそう、ダンジョンに入る時にすっごい頬がひきつってたよ」
「まじか……。そんなにわかりやすかったか……」
俺は思わず自分の頬を両手で押さえる。
……そんな俺の様子を見て、シルフィはクスクスと笑う。
「まあでも、カエデが大丈夫なら良かったよ。じゃあ、あたしはいつも通り探索を始めるね」
「お、おお。よろしく。ちょっと鱗粉が舞ってるし、虎山のダンジョンみたいに結構広くて大変かもしれないけど、無理はしないでくれよ」
「うん! 了解!」
シルフィは元気よく俺に返事をすると、ふわりと内ポケットから飛び出して浮かび上がり、俺の近くを飛び回る。
「……ディーネ、シルフィのことよろしくな」
「ええ。それはもちろん」
「……よし。それじゃあ俺はシルフィが調べてる内にあのパウダーバタフライを倒してきちゃうか」
「わかりました。大丈夫だとは思いますが気を付けてくださいね?」
「ああ。わかってるよ。じゃあ行ってくる」
俺はディーネにそう答えると、すぐにシルフィ達のカバーが出来るような距離を保ちながら攻撃準備を始める。
一応シルフィ達も簡単に倒せるぐらいの力はあるだろうし大丈夫だろうけど、まあ、これは一応だ。
……数は五匹。
それぞれの距離はバラバラで、一発で同時には倒せない。
てことは……。
「こっちだよなぁ。【複数捕捉】」
【複数捕捉】を使って視界に入っている、五匹のパウダーバタフライに狙いをつける。
「【魔法矢・全弾発射】」
そして、パウダーバタフライ一匹につき、MPを300使う計算で合計MPを1500使って透明な矢を作り出す。
そして、その透明な矢を龍樹の弓につがえて……射つ。
「シッ!」
俺が放った矢は分裂していき、五本の筋となってパウダーバタフライに飛んでいく。
「パウっ!?」「パウっ!?」「パウッ!?」「パウゥゥゥッ!!」
そして、その内の一本が一匹目の蝶の頭を貫くと、残りの四匹は驚いたように鳴き声を上げ、その四匹もすぐに矢が直撃したことで破裂して空中から落ちていった。
『レベルが8上がりました』
『レベルが8上がりました』
『レベルが8上がりました』
『レベルが8上がりました』
『レベルが8上がりました』
「ふぅ……。これなら大丈夫そうだな」
レベルアップのアナウンスは聞こえてきたし、パウダーバタフライはこれでよしと。
さてと……シルフィ達は……。
「って何事!?」
俺は思わずそう叫ぶ。
俺の目に映った光景は、なぜか近づいてきているパウダーバタフライを片っ端からシルフィとディーネが魔法で倒している所だった。
しかもご丁寧に俺の方には被害が来ないようにしてると言うおまけ付きだ。
「いや、ええ……。じゃあとりあえず俺も【複数捕捉】【魔法矢・全弾発射】」
なんでそんなことになっているかわからないけど、さっきと同じ手順でパウダーバタフライを倒すために矢を放つ。
とりあえず残っているパウダーバタフライの数は7体。
MPは2100を使って透明な矢を作り出す。
透明な矢はまず、シルフィ達に一番近かったパウダーバタフライの頭に直撃して、体を破裂させる。
そして、そのまま続けてシルフィ達から近い順にパウダーバタフライに次々と命中してパウダーバタフライは破裂いく。
『レベルが8上がりました』
『レベルが8上がりました』
『レベルが8上がりました』
『レベルが8上がりました』
『レベルが8上がりました』
『レベルが8上がりました』
『レベルが8上がりました』
「ふぅ……。とりあえずこんなもんか……」
レベルアップのアナウンスも聞こえたし、これで一旦大丈夫かな?
……大丈夫だよな?
何度も失礼しますが
【書籍化・8月30日1巻発売予定】
です!
web版よりも遥かに読みやすくなっております!
ぜひお手に取っていただきたいです(ごますりすり~)




