第二十四話 決勝戦 その②
「【飛爪斬】!」
アリアが連続で爪を振るう。
爪の先から発生した斬撃が、音を響かせてリングの表面を削りながら進撃する。
その勢いのままクララに牙をむくが、クララは紙一重のところで躱していく。
ナイフで爪を受け流し、間をすり抜け、隙を見つけてはナイフを投げる。
「これならどうだ!」
アリアが爪でナイフを弾いてから、爪を真横に振るった。
爪から発生した五本の斬撃が、大きく横に広がりながらクララに迫る。
「躱しづらい攻撃ですねッ!」
クララは軽快に跳んでその攻撃を躱した。
「上に来たらこっちのもんだよ」
空中で身動きが取れないクララ。
そこを【飛爪斬】で狙い撃ちにしようとしたアリアだったが。
それよりも先にクララがスキルを発動させる。
「真似させてもらいますよ!」
クララが空中でナイフを振るう。
その切っ先から斬撃が飛び出した。
「もう【斬撃波】使えるようになったんだね。クララすごい!」
アリアは驚きながらも難なく斬撃を躱す。
だが、【飛爪斬】をキャンセルすることはできた。
それだけで充分だ。
「せいッ!」
空中で体の重心を動かし、真下を向いたクララ。
落下の勢いも合わせて闘技台を殴りつける。
闘技台が砕け、瓦礫の塊と化した闘技台の残骸が宙に舞う。
「それ!」
手ごろな瓦礫の塊を掴んだクララが、それをアリアの顔めがけて投擲した。
当然この程度でダメージを与えることなどできない。
が、これでいいのだ。
クララの目的はアリアの視界を奪うこと。
迫りくる瓦礫の塊でアリアの視界が封じられた今こそ、クララの本領が発揮される時だ。
「【完全隠密】!」
瓦礫の塊を切り裂いたアリア。
石つぶてと化した瓦礫が埃を上げながらパラパラと落ちる。
だが、アリアの視界にクララの姿は映らない。
スピードに優れ、アリアのことを知り尽くしているクララであれば、アリアの目線を掻い潜って高速移動することも可能だ。
加えて【完全隠密】によって気配を消しているため、アリアがクララを捉える手段は限られてくる。
「……」
アリアが目を閉じ、耳を澄ませた。
(どこだ?)
わずかに聞こえるクララが闘技台を蹴る音。
それを頼りにクララの居場所を特定しようとする。
(そこか!)
アリアの優れた聴覚が、ヒュッという音を聞き取った。
即座に反転しながら爪を振り、後ろから迫っていたナイフを叩き落とす。
さらに反転しながら爪を振るった。
(やっぱりそう来ると思った!)
アリアの視界に、ナイフを投げてからすぐに反対方向に回り込んで攻めてきたクララの姿が映った。
――ザシュッと。
アリアの爪がクララを切り裂いた瞬間、ボフンッという音と共に煙を残してクララの姿が消えた。
「……ッ!」
アリアはすぐに気づいた。
今しがた切り裂いたクララは、彼女のスキル【デコイ】によって作られた実体のない分身だということに。
だが、幸いにも回転は続いている。
その勢いを利用してもう一度反転し、最速で周囲を切り裂く!
(間に合え!)
背後から迫ったクララが、右の拳を突き出す。
だが、アリアの爪が届くほうがほんの少しだけ早かった。
「いけー!」
アリアの爪がクララの体に触れる。
今度こそ爪がクララの体を捉え――またデコイだった。
崩れ落ちる分身が煙とともに消えた瞬間、アリアの腹部に凄まじい衝撃が襲いかかった。
クララの拳がアリアの腹部にめり込んでいる。
アリアがそれを認識するよりも先に、クララがアリアを殴り飛ばした。
「がぁっ……」
アリアがバウンドしながら闘技台の上を転がっていく。
数回バウンドしたところで、アリアは爪を闘技台に突き刺して無理やりブレーキをかけた。
ギィィィィッ! と、爪がこすれて不協和音が鳴り響く。
闘技台に長い十本のラインが引かれたところで、ようやくアリアは止まった。
「痛たた……。とっさによしおの衝撃を逃がすやつ真似したけど、ほとんど逃がせなかった」
『あの状況から、受けるダメージを一割減らせたのだから充分だ。この調子で鍛錬するがいい。すぐに十割減らせるようになるさ』
アスモデウスが一瞬出てきて引っ込んだところで、クララがしてやったりという感じで話しかけてきた。
「裏の裏のそのまた裏をかいてみました」
「やっぱりクララ強い。駆け引きが上手だもん」
「アリアのことなら手に取るようにわかりますよ。十数年の付き合いなんですから」
クララにとって、アリアの思考回路を読むことなど造作もない。
故に、もともと駆け引きが得意なクララであれば、アリアがどのような攻撃を仕掛けてくるのか、攻撃された時にどのように対処するのかが手に取るように分かった。
素のフィジカルではアリアに軍配が上がるが、相性という点ではクララのほうが圧倒的に上だった。
そんなクララだが。
「アリア、提案があるんですけど」
「何?」
「ここからは単純な殴り合いで勝負を決めません?」
クララが得意とする戦い方は、豊富なスキルによる手数で翻弄して、隙を作って強力な一撃を叩き込むというもの。
正面から正々堂々ぶつかるという戦い方は、アリアの土俵に合わせるようなものだ。
「いいの?」
アリアの疑問はもっともだ。
クララは圧倒的なアドバンテージを捨てようとしているのだから。
「近接戦の技術を高めるのにはピッタリだと思いますよ?」
「確かに! クララ天才!」
「それに……正面から正々堂々とぶつかって、そのうえで私はアリアに勝ちたいんですよ」
クララが不敵な笑みを浮かべる。
「クララの想いは分かった! だから受けて立つ!」
アリアが元気に笑い返してから、爪を解除した。
「【龍装】爪なしモード!」
爪を解除しただけなので、【龍装】自体は発動したままだ。
【龍装】によるフィジカル上昇効果は継続している。
「手加減しませんよ!」
「もちろんアリアもだよ!」
二人が同時に駆け出す。
踏み込みの強さだけで、闘技台にいくつもの亀裂が走った。
「「ハッ!」」
肉薄した二人が同時に拳を突き出した。
反対の手でお互いのパンチを止めた二人。
それを皮切りに、拳や足の応酬が始まる。
お互いの攻撃を受け止め、躱し、受け流しながら、研ぎ澄まされた一撃を叩き込むタイミングを探っていく。
見惚れてしまうほどの互角の応酬が繰り広げられるが。
((ここだ!))
二人が拳を突き出す。
クララの拳がアリアの頬に触れる。
ほんのわずかに遅れてアリアの拳もクララの頬にヒット!
「ぐ……!」
「がぁ……!」
殴られた衝撃でお互いに吹き飛ばされる。
ブレーキをかける足が闘技台と擦れて、長い線を引く。
「楽しくなってきた!」
「私もですよ!」
二人が心の底から楽しそうに笑い合う。
刹那、二人の姿が闘技台の上から消えた。
正確にはすさまじいスピードで動いているのだが、観客たちには消えたように見えているのだろう。
縦横無尽に動き回る二人が、闘技台のいたるところで激突する。
攻撃の炸裂音だけが響く。
『いったい何が起こっているというのでしょうか!? 何も見えません! 二人が速すぎるッ!』
闘技台のいたるところで連続で発生する、拳と拳がぶつかる音と振動。
『うむ。二人ともいい動きだ。今この瞬間に、ぶつかり合うたびにメキメキと強くなっている。我輩の予想以上だ!』
愉快そうに声を上げたアスモデウス。
事実、二人はアスモデウスですら予想できないほどの早さで強くなっていた。
「はッ!」
「ぐっ……! 反撃ッ!」
「がはっ……! なんのッ!」
「う……!」
何度攻撃を喰らおうとも、決して闘志が尽きることのない二人。
それどころか、その闘志はますます業火のように燃え上がっていく。
さらなる激闘が繰り広げられる。
二人の戦いは永遠に続くかと思われたが、さすがに限界が来たようで。
「次で終わりにしましょう!」
「いいよ!」
大きく息を吐いてから、二人は構えをとる。
その拳に魔力を注ぎ込んでいく。
アリアの中にいるアスモデウスはそれを見て一瞬だけ驚いたが、すぐに開きかけた口を閉じて笑みを浮かべた。
今は邪魔するべきではない。二人の“答え”を知るのが先だと。
誉めるのはあとでいいと。
「うまくいくかはわからなかったけど――できた!」
「私もできましたよ!」
渦巻く魔力を拳にまとった二人。
勝負を決めるべく、同時に一歩を踏み出す。
そして、駆け出す!
「アリアのほうがクララよりも強い!」
「今回ばかりは勝ちは譲りませんよ!」
二人が距離を詰めるべく駆ける。
ここで決着がつくということを察してか、ハイテンションで実況していた司会や騒いでいた観客たちが静かに息をのむ。
お互いが攻撃の間合いに入った瞬間、二人は同時に拳を突き出した。
「「スパイラルブレイク!!」」
拳と拳がぶつかり合う。
この試合が始まって一番特大の衝撃音が響き渡る!
大気が震え、衝撃波が二人の体を突き抜けるッ!
(勝つのはアリアだ!)
(勝つのは私です!)
勝ちは絶対に譲らないという強い意志を込もった二人の拳。
力は拮抗しているように見えたが、ほんのわずかにクララのほうが技術で勝った。
クララの拳で螺旋を描く魔力が、アリアの魔力を食い破って彼女の体を突き抜けた。
【万能眼】でアリアの魔力の綻びを見つけ、そこをつけたのがクララの勝因だった。
『……け、決着です! 第四十三回武闘大会は、クラリーナ選手の優勝ですッ!』
司会の声が会場中に響き渡る。
少し間を開けてから、観客たちが過去最高の雄たけびを上げた。
「アリア。手、出してください」
リングの上に倒れているアリアに近づいたクララが、差し出されたアリアの手を掴んだ。
そのまま引っ張り上げ、アリアを起こす。
「強かったですよ、アリアは」
「ん、クララも。次こそは私が勝つから」
短く言葉を交わした二人は、お互いの顔を見てすがすがしい笑顔で笑った。
『二人とも見事であった。魔力をまとって肉体を強化する技術は、魔力操作系の頂点だ。我輩の編み出した魔拳は、魔力でパワー・スピード・防御力を強化する武術というわけだ。我輩ですら、Sランク冒険者になったころにやっと習得したのだ。それをたったの一戦で身に着けてしまうとはな。汝らは強い。それを誇って精進するがよいぞ』
「二人ともよく頑張ったわね。すごく白熱した戦いだったわよ!」
そんな二人に、アスモデウスとリリスが労いと賞賛の言葉をかけた。
「お姉様、近くにいたんだ」
「ちょっとビックリしちゃいましたよ」
「ごめんごめん。驚かせちゃったわね」
リリスが頑張った二人の頭を優しくなでる。
二人が嬉しそうに目を細めた瞬間――。
『敵襲だ』
アスモデウスがそう言い放った。
それと同時に、空が暗くなる。
さっきまで晴天だった空が、一瞬で暗雲に襲われたのだ。
上を見上げた三人の視界に、空に浮かぶ一人の男の姿が映った。
その男が魔法を発動する。
『上級悪魔魔法――すべての生に死を』
熱い戦いだった、ヤバそうなのが出てきたから続きが気になる、早く更新しろ! と思ってくださった方は、ブクマと評価をよろしくお願いします!
作者のモチベーションになります!





