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グルノールの転生少女 ~ないない尽くしの異世界転生~  作者: ありの みえ
第8章 箱庭の天聖邪

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指南書作りとお茶会の趣向

 ……指南書って、実際には何が必要なんだろうね?


 前世でも編み物や手芸の本を読んだことはあるが、自分で作るとなると話は別だ。

 なにげなく読んでいた物の、どのあたりに気が遣われていたのかは、本を作った編集者や、その原稿を書いた編み物の先生でもなければわかるまい。

 そして私は、前世の記憶を引っ張り出してきても、おそらくは本作りに対して素人である。

 何が重要で、どこからどこまで書けば指南書として通用するのか、見当も付かなかった。


 ……えっと、薬の処方箋レシピと似たようなものだよね? まずは材料。これはさすがに判る。


 必要と思われるものを塗板こくばんへと書き出す。

 材料は絶対に必要だったし、図案がなければまず間違いなくこれからボビンレースを始めようという人間にボビンレースは無理だ。

 絶対に必要といえば、ボビンレースの名前にもなっている糸巻ボビンの準備も必要になる。

 糸を押さえるためのピンやレースを織っていくための針山まくらも必要だ。


 ……改めて考えてみると、必要なものも多いなぁ。


 思いつく限りで最低限必要なものを塗板へと書き出し、その数の多さに溜息が漏れる。

 庶民が手仕事にして市場へと広がってくれないものかと思っていたのだが、道具を揃えるだけでも一苦労だろう。


 ……あの毎号買っていくと材料が少しずつ集まる本みたいに、道具とセットで売ってみる?


 こんなことを考えて、頒布方法についてはとりあえず棚へあげて置くことにした。

 まずはオレリアのボビンレースを残したい、広めたい。

 オレリアのリボンを結んで街を歩いても、おかしな商人に目を付けられないぐらいボビンレースに広まってほしいのだ。

 完成してもいない指南書の頒布方法を考えるより、解りやすい指南書作りが先だろう。


 ……カリーサに相談したいな。


 オレリアの言葉を思いだし、聞いたとおりに文字へと起こしてみたのだが、読み返してみると意味が解らない。

 オレリアの言葉のままに書くと専門用語が混ざってくるからだと思うのだが、こんなところも言葉を整えなければならないのだろう。


 ……図解も絶対必要だよね。


 言葉だけの説明では解り難いし、どのみち図案を載せる予定だ。

 そこに図解が追加されても大差はないだろう。


 ……そもそも、本を作るってどうやって?


 ニルスに本を作ってはどうかと言われ、それは良いアイディアだと飛びつきはしたが、本を作るといっても簡単にはいかない。

 少なくとも前世のようにパソコンで原稿を作って印刷所へ持ち込む、という方法ではないはずだ。


 ……前にメンヒシュミ教会の地下で見た印刷は、どうやってたっけ……?


 初めて行ったメンヒシュミ教会では、レオナルドも一緒ということで一般へは公開されていない地下の印刷工房を見せてもらえた。

 活字といって先端に文字のついた小さな金属片を集めて版を作り、それを大きな印刷機に取り付けて印刷していたのを覚えている。

 導師アンナが簡単に説明してくれたが、聞きかじりの簡単な知識だけで本を作る原稿は作れない。


 ……ニルスにも相談したい。


 考えれば考えるだけ足りないものが浮き彫りになり、早くも投げ出したくなってきた。

 しかし、こんなに早く投げ出していては、オレリアに笑われてしまうだろう。


 ……できそうなことから、少しずつやっていくしかないね。


 印刷用の原稿の作り方については、ニルスに聞いた方がいい。

 彼がいるのはグルノールの街だ。

 さすがに王都まで呼びつけるわけにはいかないので、印刷については私がグルノールの街に戻ってからでいいだろう。

 そう一度区切りをつけた。


 ……私にできることは、オレリアさんに教わったことの書き出し作業だね。


 言葉を簡潔に直す作業や、図解の絵、はたしてそれらが初心者に通じるのか、はおいおい修正していくことにする。

 すべてを最初から完璧に仕上げる必要はないし、そんなことが自分にできるとも思わなかった。

 指南書としてはカリーサに相談し、本として印刷する際にはニルスへ相談をする。

 とにかく、私は私にできることを少しずつ進めていくだけだ。







 ボビンレースの指南書作りの合間を縫うように、バシリアを離宮へと招待する手はずを整える。

 これは私への淑女教育の課題の一つとして、ヘルミーネは監督するだけということになった。

 バシリアを離宮へと招待して良いかというナディーンへの確認も、お茶会のための侍女との相談も、今回は私が主導ということになっている。


 ……フェリシア様がお茶会の準備をしてるのを何回か見たけど、自分でやってみると楽しいけど難しいね。


 これまではナディーンがすべてを手配してくれていたり、呼ばれる側ばかりだったので、一から茶会を準備するのは新鮮だった。

 招待客の好みに合わせたり、季節に合わせたりと気にかける項目は多いのだが、今回の場合はバシリア一人を呼ぶだけなので、その点は気が楽でもある。

 何人もの年代も性別も違うお客様を持て成しているフェリシアは、改めて考えるとさすがとしか言えなかった。


「お庭の花が良い感じなので……お庭でお茶会をしようかと思うのですが?」


「今の季節はまだ風も寒くありませんし、良い考えだと思います。東屋あずまやから見えるコスモスが咲き始めましたので、お茶会には見頃になっていますよ」


 思いついたことを口から出す。

 つい相談相手を求めてヘルミーネの方へと顔を向けてしまうのだが、そのたびに両手で頬を包まれて、ヴァレーリエへと向き直された。

 ついヘルミーネを頼ってしまうのだが、ヘルミーネは家庭教師兼女中メイドとして離宮に付いてきてくれている。

 家庭教師と侍女とでは家庭教師の方が立場は上だが、侍女と女中では侍女の方が立場は上だ。

 お茶会の勉強に加え、早く侍女を使うようになりなさい、と使用人の序列を叩き込まれているのだと思う。


「お客様はバシリア様なのですから、おもてなしには流行のお菓子が喜ばれるでしょうか?」


「バシリア様は流行に敏感なお嬢様ですから、少々難しい方だと思われます」


「そうですよね。流行のお店でお菓子を用意しても、バシリア様ご自身がすでに試されたあと、という可能性もございますし……」


 なんとなくバシリアなら『お友だちのお茶会へ招待された』というだけで喜び、茶会に並べられたお菓子が見たことのあるものでも気にしなさそうだとは思うのだが。

 このお茶会は私への課題でもある。

 なんでも喜びそうだからといって、最初から手を抜いていてはヘルミーネからお説教をいただくことになるだろう。


「……いっそ型どおりのお茶会はやめて、二人で楽しめることをしてみましょうか?」


「二人で楽しめる、ですか?」


「バシリア様はリバーシやセークといった盤上遊戯ボードゲームもお好きですから、なにかをするということも楽しめると思うのです」


 普通のお茶会は真新しいお菓子や流行のお菓子を並べつつ、情報交換や噂話をして過ごすものなのだが、私たちは子どもで、お茶会の目的は情報交換などでは当然なく、ただのおもてなしだ。

 無理に型どおりのお茶会をする必要はないと思う。


「ティナさん、どのような考えなのか、すべてお話ください」


 参加型のお茶会をしよう! と言い出したところ、すかさずヘルミーネが口を挟んできた。

 黙ってはいられないと思ったのかもしれない。

 私という子どもをまだ完全には把握していないヴァレーリエと淑女見習いの私に、思いつきで自由なお茶会を準備させるのは不味い、と思ったのだろう。

 私としては、手放しで見守られるより不安が減って助かるぐらいだ。







 ヘルミーネに確認をとりつつ、侍女を使って料理人を巻き込む。

 なにやら面白そうなことをしているな、とフェリシアが顔を出してきたが、友人を巻き込んだお茶会の勉強である、と言って飛び入り参加は辞退していただいた。

 淑女見習こどもい同士の気軽な練習を兼ねたお茶会に、王女おとなさまに参加されてしまえば、失敗の許されない緊張の場となってしまうだろう。

 まだフェリシアに慣れている私は良いが、バシリアにいきなり王女さまと対面させるのは気の毒だ。


 ……お茶会への参加は遠慮してくれたよ。お茶会へは、ね。


 深紅の馬車からバシリアが降りてくると、出迎えるフェリシアの顔を見てバシリアが固まった。

 これは美しすぎるフェリシアに我を失ってしまったのか、王女の出迎えに驚いたのか、どちらだろう。

 どちらにしても驚愕に見開かれたバシリアの目と口は、なかなか閉じられなかった。

 しばしフェリシアに見惚れて固まり、なんとかバシリアが正気に戻れたのは家庭教師のエリアナに肩を押さえられた時だ。

 さすがと言うか、なんと言うのか、エリアナはフェリシアを前にしても動じることはなかった。


「クリスティーナのお友だちは可愛らしい子ね」


 紅を引いているわけでもないのに赤い唇で微笑み、フェリシアはバシリアの白い頬を撫で、髪に結ばれたレースのリボンに気が付く。

 ゆったりとした仕草で私の髪へと視線を移してきたので、今日のリボンがお揃いであると気が付いたのだろう。


「女の子のお友だち同士でお揃いのリボンだなんて、仲がよくて羨ましいわ」


 お揃い、という言葉で呪縛が解けたのか、バシリアの視線が私へと向く。

 髪に結んだ揃いのリボンに気が付くと、バシリアの頬が否定のしようもないほどに赤く染まった。


 邪魔はしないから、ゆっくりしていってくれ、とフェリシアは下がっていく。

 本当に、私の客人の顔を見たかっただけのようだ。

 お茶会の趣向については、乱入しないことを条件にすでに聞かせてある。

 あとはバシリアが帰ったあとに実際の反応を報告するだけだ。


「庭師が綺麗に整えてくれていますので、今日のお茶会は庭の東屋に用意しました」


 こちらです、とバシリアの手を取って回廊を抜ける。

 女の子が女の子のエスコートというのも奇妙な話だが、気にしない。

 今日はそんな気分なのだ。


「これは……どういった趣向ですの?」


 東屋に用意されたテーブルの上を見て、バシリアは目を丸くする。

 お茶会という名目で離宮へ招待したのだが、テーブルの上に並べられたものはどう見てもお茶会の仕度ではなかった。


「バシリア様は王都で流行のお菓子にも詳しいでしょう? ですから、お店で売っているお菓子を用意しても新鮮味はないかと考えまして……」


 お茶会に出すということで、今日は綺麗に磨き上げた料理人とその補助をしている台所女中キッチンメイド二人を紹介する。

 趣向とはいえお嬢様が自ら作業をするかは判らなかったので、台所女中を用意した。


「せっかくですので、二人でケーキを作りませんか? そう思っていろいろと用意させました」


わたくしが、作るんですの……?」


「ケーキを作ろうと言っても、挟むものを選んだり、飾ったりするだけですので、わたくしたちでも大丈夫ですよ」


 趣向を説明しつつ、テーブルの上に並べたものを説明する。

 素人がいきなりケーキなど作れるはずがないので、スポンジ部分は事前に味と形を何種類か用意してもらってあった。

 生地の間に挟むクリームやジャムも数種類用意し、飾りには星や鳥の形のクッキー、果物、ナッツ類、花の形をした砂糖菓子、特注した小さなサイズのノラカム、この世界ではジュエリービーンズと呼ばれている前世でのゼリービーンズといったお菓子を用意してある。


「遊び方をご説明いたしますね」


 そう言って、子どもが食べるにはやや大きめの丸いスポンジケーキを指差す。

 味は甘さ控えめのチョコレートだ。


「土台はこのチョコレートの物を。間に挟むクリームは……甘酸っぱいベリーのジャムにしましょう」


 思い付きを口にすると、料理人が動きだす。

 私の選んだスポンジケーキを手にとり、プサルベリーと呼ばれる木苺のジャムを間に塗り始めた。


「これはフェリシア様に送りましょう。大人の女性宛なので、ジャムに合うお酒を少し土台に含ませてみてはどうでしょう?」


「それでしたら、プサル酒かプサル・ブランデーがよろしいかと存じます」


「では、それはお任せします」


 お酒の名前も味も判らないので、選択自体はプロの料理人に任せる。

 すべてを私が思いつきで組み合わせるよりは、味の統一感が出てくれるだろう。


「表面はクリームではなくチョコレートでコーティングして、そうですね……クッキーとナッツで目を作って、ミミズクの顔を描いてください」


羽角うかくはどう致しましょう?」


「表面をチョコレートでコーティングする前にナッツを土台に刺してはどうでしょうか」


「わかりました」


 料理人がケーキの表面へとチョコレートを流し、平らにならす様子をバシリアが目を輝かせて見守っている。

 お菓子作りというよりは、できているお菓子を組み立てて飾り立てるだけの遊びなのだが、バシリアの琴線には触れたようだ。

 仕上げの作業が台所女中へと渡されて、ミミズクの顔が出来上がる頃にはバシリアの頬は期待で薔薇色に染まっていた。


 ……うん、やっぱり子どもは物作りの工程とか、見るの好きだよね。あと、お菓子の家とか。


 前世であらかじめ材料の揃ったキットを買ってのことではあったが、友人とお菓子の家を作ったことがある。

 お菓子自体はよくあるお菓子で、慣れた味でしかなかったのだが、お菓子の家を作ったという満足感と、作っている時間の高揚感から、慣れた味のお菓子が何倍にも美味しく感じたことを思いだし、今回のお茶会へと持ってきてみた。

 流行のお菓子ではバシリアには叶わないが、これならば流行もなにもないのでバシリアにも楽しめるだろう、と。


 完成したミミズクのチョコレートケーキはヴァレーリエにフェリシアの元へと届けてもらい、私とバシリアは改めて自分たちのケーキを作ることにする。

 早速スポンジケーキと睨めっこを始めたバシリアは、土台の選択からして頭を悩ませていた。


「バシリア様はチョコレート色とピンク色、どちらがお好きですか?」


「ピンク色ですわ!」


「では、わたくしは四角のピンク色にします」


「ティナ様はピンク色がお好きですの?」


「いえ、わたくしのケーキは、出来上がりましたらバシリア様に差し上げようかと思いまして」


「では、私の作ったものはティナ様に差し上げますわ!」


 お互いにお互いへ贈ると決めて、好みを聞きながらケーキを組み立てて行く。

 料理人はその場で思いついた組み合わせでクリームを作る役で、台所女中はそれぞれにケーキを組み立てる役だ。

 貴族のお嬢様が自分で作業なんてするのかな、と台所女中を用意したのだが、表面の飾りつけ時にはバシリアは自分から袖を押さえてケーキを飾っていた。


 淑女のお茶会としてはありえないおもてなしかもしれないが、バシリアはこの趣向をいたく気にいってくれたようだった。

可愛い少女がきゃっきゃうふふと戯れているさまは愛い。

さて皆さんお待ちかね、そろそろあれの出番です。


誤字脱字はまた後日。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんかティナの頭の中で話が完結してる所が多いように感じる もっと他のサブキャラとの会話も多くていいと思う。これじゃキャラが立たないし読者の記憶にも残らない 説明文ばかりで読んでて疲れる…
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