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グルノールの転生少女 ~ないない尽くしの異世界転生~  作者: ありの みえ
第8章 箱庭の天聖邪

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祖父殿の影響

「お嬢さんの母御は、二人を諌めていたようじゃがな」


「母がですか?」


 エセルバートの情報によると、母と恋に落ちた父がベルトランと対立し、家を飛び出そうとする父を母が何度も止めたらしい。

 短慮を起こすな、よく話し合おう、と。

 それで父も根気強くベルトランを説得しようとしていたそうなのだが、結局は分かり合えず家を出ることになった。


 ……お母さんが名前を変えなかったのって、ベルトラン様がお父さんを見つけ出せるように?


 エセルバートの話を聞いていると、そんな気がしてくる。

 父とベルトランはどうあっても分かり合えなかったようなのだが、母は最後まで家出を止めていたようだ。

 貴族の息子に嫁入りしたいから、という理由で父と恋に落ちたのなら、家出をした父にはなんのうま味もないので止めるのも判るが、母は父について行った。

 ただのサロとなった父とのメイユ村での貧しい暮らしにも、母はいつも笑顔だったのだ。

 父が貴族の息子だから恋をしたわけではないのだと、それだけでも判る。

 母は父とベルトランに仲違いをしてほしくなかっただけなのだろう。

 そして、いつかは分かり合い、和解をしてほしかったのかもしれない。


「お嬢さんという娘もできて、お互いに冷静になるには十分な時が過ぎた。あやつがあと三年早くお嬢さんに辿りついていれば、息子の今際いまわきわに間に合っておれば、家に帰っていたのではないか?」


「……可能性は否定しませんが、実際には両親が死んでから二年以上遅れていますので、レオナルドお兄様に出会わなかったら、わたくしは今頃死んでいたと思います」


 父は旅の商人を頼って孤児院を目指せと言っていたが、メイユ村に旅の商人が寄るのは半年に一度あるかどうかだ。

 まずその半年を、当時八歳だった私が一人で生き抜くのは難しい。

 レオナルドがメイユ村を訪れることがなければ、遅かれ早かれ私はベルトランに出会う前に死んでいたはずだ。


「父と母のこともありますが、ベルトラン様は従兄弟の母親を家から追い出したとも聞いています。そんな薄情な人間を、祖父だなんて思えません」


「ソフィヤのことならば、あやつなりに彼女の将来を考えての結果ではないかな? 未亡人として館に閉じ込められてしまうには惜しい美貌と若さを持っておる」


 成人年齢が日本より低いため平均的な初婚年齢も低いが、結婚適齢期とされる期間は日本に比べて恐ろしく長い。

 日本は若さこそすべてだとばかりに二十代後半にはいった女性を『ババア』と呼んでおとしめるが、この世界では二十代後半は花ならまだ咲いたばかりだ。

 三十台から花盛りとされ、孫がいる年齢のクリストフにその孫よりも幼い息子がいることからも察せられるように四十代でも普通に子どもを産む。

 私より少し年上の子どもがいるぐらいの年齢では、まだまだ女性として現役で嫁にいける雰囲気なのだ。


「ソフィヤ伯母様が再婚相手の見つかりそうな美貌を持っているというのは、一度お会いしたことがございますので、わたくしも同意します。が、やり方に問題があると思うのです」


 本人にその旨を伝え、納得して家を出て行ったというのなら、私があれこれ不快に思うことは余計なお世話かもしれない。

 しかし、ソフィヤの言うことには、とてもではないが納得の上で家を出たという雰囲気ではなかった。

 家から追い出されたことに傷つき、外出をすることも億劫になって引き籠り、ミカエラに外へと引っ張り出されているような暮らしぶりだ。

 従兄弟のことだって、ソフィヤは納得して手放したわけではない。

 グルノールでのベルトランの話を聞かせた時に、少しだけでてきたベルトランの孫のくだりには、ソフィヤも耳をそばだてて聞いていた。

 ソフィヤはベルトランによって引き離されても、自分の子どものことをしっかりと心配する母親だったのだ。

 愛情深いソフィヤが祖母だというのなら、父の実家に帰ることを一考ぐらいはしても良い。


「とにかく、ベルトラン様の独裁癖が直らないことには、話を聞く気にもなりません」


 だからこれ以上余計な真似をしてくれるな、とエセルバートに釘をさす。

 気の良い他所のお爺ちゃんとしてならば付き合えるが、家庭内独裁政治を行うお祖父ちゃんとは付き合えない。

 私にはもうレオナルドという家族がいるのだ。

 ストレスにしかならないと判る血の繋がった祖父と、無理に付き合う必要もない。







 エセルバートの離宮で一度顔を合わせたからか、ベルトランが離宮へと連日訪ねてくることはなくなった。

 それ自体はよかったのだが、祖父殿は私の視界に入らないところで害悪をせっせと撒き散らしてくれていたらしい。


 異変に気が付いたのは、真夜中のことだった。

 物音が聞こえた気がして目を覚ますと、ベッドの足元で寝ているはずの黒犬オスカーがいなかった。

 不自然に思って室内を見渡すと、控えの間へと続く扉の前に座る黒犬を見つける。

 変だなと思いつつも扉を開けてやると、黒犬は控えの間から廊下へと飛び出していった。

 残された控えの間にいたのは、珍しくもアーロンではなくジゼルだ。

 これも不審になり、アーロンはどうしたのかと聞くと部屋に戻って眠るようにと促された。

 これは本格的におかしいぞ、何か起こっているのかとは思ったが、寝付きやすいようにとヴァレーリエに温めたミルクを渡されてしまったので、追求することは諦めてベッドへと戻る。

 深夜だというのに私の周りへと人を配置し、戦力になる者はどこかへと向かった。

 ということは、私は寝室から出ない方が良いのだ。


 不安を感じつつも眠りにつき、翌朝何があったのかは護衛のアーロンが聞かせてくれた。


 ……ホント、碌なことしないね、あのジジイ。


 内心の言葉は汚いが、顔へは出していないので見逃してほしい。

 アーロンから事の次第をすべて聞いた私の素直な感想がこれだ。


 近頃私の周辺に出没しなくなったベルトランは、本気で国王クリストフへと謁見を求めていたらしい。

 主に、私に子どもを産んでほしくないという発言についての真偽を問うために。

 あまりにもしつこく食い下がるため、そこから私がベルトランの孫娘だと周囲に知れ渡ったそうだ。

 それだけなら別に困らないのだが、これまでは離宮を与えられた王族の隠し子ではないのか、と噂されていた私が実は功爵の孫娘と知られたことで、私を成り上がり者の孫娘ということで見下す白騎士が現れ始めた。

 より具体的に言うのなら、続いた代数だけならば功爵より上の華爵家の白騎士が、私を軽んじたのだ。

 功爵の孫娘など警護するにも値しない、と警護をサボるだけならまだしも、忠爵家の三男坊に金を握らされて深夜の離宮へと忍び込む手引きをしたらしい。

 早い話が、夜這いの斡旋だ。


 ……噂どおり役に立たないね、白騎士。


 戦力として役に立たないとは聞いていたが、まさか警護対象の元へと夜這いを斡旋するとは思わなかった。

 考えが足りないにもほどがある。


 結局、離宮に忍び込んだ貴族とくだんの白騎士は捕らえられ、現在沙汰を待っている状態らしい。

 王女フェリシア未成年わたしに対する強姦未遂ということで、貴族の処分は重くなるだろうとアーロンが教えてくれた。

 犯人の自供によれば私が目当てだったそうなのだが、現在離宮にはフェリシアが滞在している。

 離宮に忍び込めば、それだけでフェリシアへの害意を疑われても仕方がない。


 白騎士については親兄弟の爵位剥奪のうえ、本人は私には聞かせられないような刑に処される予定らしい。

 真面目に働けば功績を望めたかもしれないし、あと一代は爵位を守っていられたのだが、警護対象に害をなしたのだから擁護のしようもなかった。

 親兄弟は馬鹿息子のしでかしたことを嘆き、時すでに遅くはあったが勘当を言い渡したそうだ。


 あまり厳しく処罰すれば私が逆恨みされるのではと思ったが、フェリシアが狙われたと印象は操作されているようだ。

 たかが功爵の孫娘ではなく、王女相手の蛮行へ及んだことで裁かれることとなった、と。


 ……私、本当に守られているね。


 護衛を置かれて物理的に守られ、悪意や害意からはフェリシアたち王族が盾となって守ってくれている。

 日本人の転生者は大切にされると聞いていたが、これはもう疑いようもない。


 ……それにしてもあのジジイ。どうしてくれようか。


 当人にそのつもりがなくとも、私へと直接的な害を運んできた。

 これはそろそろ不干渉であれば良い、という態度は改めるべきかもしれない。


 ……攻撃こそ最大の防御って言うしね!

昨日の続きなので、今日は短いです。


結婚適齢期が長いのは、出生率というか、乳幼児の死亡率の高さが理由です。

無事に育ってくれる確率が低いので若いうちに数人産んで打ち止め、ってことができない。

産める間に産めるだけ産んでほしい、みたいな。

ただ実際にいっぱい産んでもらうのは、育てるお金のある人か、逆に貧しすぎて本当に子どもが順調に育ってくれないご家庭ぐらい。

似たような理由で出産経験のある女性は人気の売り手市場。

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