第86話 ギルマスはご機嫌だった
「伯爵様に褒められたぞ」
ご機嫌な声で話しているのは、冒険者ギルドのギルマスだ。
話を聞いているのは、同じく冒険者ギルドの副ギルマス。
「それはよろしゅうございました」
「そなたも盗賊討伐に参加したそうだな。伯爵様が冒険者チーム指揮の巧みさを褒めていたぞ」
「もちろん、それもありますが。日頃の冒険者ギルドのサポートのおかげです。ギルドの責任者、ギルマスの手柄ですよ」
「ほう。そなたはそう思うのか?」
「正直言いまして、騎士団や魔法士団がふがいなさすぎたので、我々の戦功が引き立ったのもありますが」
だいたい、戦力は我々の方が間違いなく多いはずなのに、騎士団だけで突っ込むというのは意味がわからん。
相手が逃げたからといって、追撃して落とし穴で罠に嵌るとは。
まともに戦っていたら、騎士団だけでも制圧できたと思うが。
「まぁ、その件は伯爵様もなげいていた。あまりの駄目さ加減にな」
「そうでしょう。その点、我が冒険者ギルドはギルマスのお考えが素晴らしいのでしっかりとした戦いをしました」
「そういえば、我々の魔法士もなかなかな物だったらしいな」
「正式には魔法使いです。魔法ギルドのライセンスはないので魔法士とは認められていませんので」
魔法ギルドのライセンスをもらうためには市民であることが条件だ。
ほとんど市民権を持たない冒険者達は魔法ギルドライセンスを得ることがないので魔法士にはなれない。
「それが面白いな。魔法士より我々の魔法使いの方が実戦で役立つというんだからな」
「まぁ、最近は冒険者の中にも強力な魔法が使える者が増えましたしね。いつも魔物と戦っている連中のほうが、魔法士というだけでえばっている奴らより強いのは自明です」
「もちろんそうだ。その上、剣士たちも装備が揃っていないように見えて、強力な武器を持っていたと聞いたぞ」
「その通りです。見た目よりも実用性で選ぶ連中です。カッコいいだけの騎士団とは違います」
実際、盗賊たちも鋼鉄系の武器を装備していたそうだ。
装備では騎士団と同レベルだったが、冒険者の剣士は盗賊達の剣を折った者が何人もいたらしい。
「冒険者達には私からも褒美を出そう」
「それは嬉しい知らせです。きっと、皆喜ぶでしょう」
これは驚いた。
ケチで有名なこいつが、自腹で褒美を出すとはな。
きっと、領主の伯爵様から褒められたのが気持ち良かったのだろう。
同じギルドマスターだとしても、冒険者ギルドは市民がほとんどいないという理由で、一段格下と思われている。
それが今回は最高の戦功者として扱われたのだ。
騎士団長や魔法ギルマスが悔しがっているのが想像できるな。
ただ、今回の戦功は俺たち冒険者だけの物じゃないな。
あの偽ショップの貢献もすごくあると考えられる。
魔法の本や鋼鉄剣があったからこそ、盗賊たちに装備や魔法で引けを取らなかった。
それだけじゃない。
魔物討伐の成功率があがったことにより、冒険者達の収入が改善され士気も高くなっていた。
元々は協力しあう気持ちがほとんどなかった冒険者達も、騎士団に対抗できるかもと考えたら積極的に協力しあう流れになった。
かえって、連携の訓練を受けているはずの騎士団が戦功に目がくらんで連携を無視した行動をした。
そういえば、連携の仕方を書いた戦略本が偽ショップで売っていたそうだ。
パーティリーダーの必携の本と言われていたからな。
そのあたりも影響がありそうだ。
ここに至っては、この偽ショップの存在を隠し続けていくことはできないな。
伯爵様から、現場リーダーとしての報告を求められているから、この件は報告せずにはいられないな。
魔法ギルドや騎士団の装備を担当している商業ギルドの名声が落ちたときでもあるし。
偽ショップが正当な評価を受けるようにしてやりたいな。




