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第85話 市民区はなにやら大騒ぎだ

「なんか、騒がしくないか?」


俺はジョゼと青髪少年をつれて市民区のそこそこ良い食堂に来ている。

いつもは、メイドさんが作ってくれた食事を食べているのだが、たまには街に出る必要があるかなと、店長を任せるふたりを連れてやってきた。


この食堂は、豚料理が人気の店で、市民のデートにも使われるおしゃれな店。

と言っても、市民区にある店だから、そんなに装飾品とかが多いわけじゃない。

青ベースの色が中心のシンプルで感じが良い食堂だ。


「そうだね。盗賊が出たみたい」

「盗賊って! 大変なことになるわね」

「そうなのか?」


盗賊というとあれだよな。

街道を馬車で進んでいると現れる敵キャラ。


「南に向かう街道で馬車が襲われたみたいだよ」

「そういうのは多いのか?」

「最近はあまり聞かなかったね。3年前はちょっと離れたところで戦争があったから時々あったけどね」


盗賊というのは、あまり儲かる仕事ではないらしく、平和なときはあまり発生しない。

戦争や飢饉があると、敗残兵や田畑を捨てた村人が盗賊になって暴れるらしい。


「じゃあ、なぜ今、盗賊なんだろう。他の地から流れてきたとか?」

「わからないわ。だけど、人数が多いみたい。襲われた馬車には護衛の剣士が3人もついていたって」

「ええー。護衛の人がいるのにやられちゃったの? ヤバくない?」


普通、襲われる馬車は護衛がついていない馬車が狙われる。

盗賊にしたら、護衛と戦うより戦わないで済む馬車の方が簡単に襲える。


もちろん、何か目的があって特定の馬車を狙ったのなら別だけど、どうもそうじゃないらしい。


「いろんな馬車が襲われているみたいだね。昨日だけでも別々の3台が襲われたって」


今、街では盗賊討伐のチームが組まれているらしい。

騎士団チームと魔法士団チームが第1線として組まれて、冒険者チームが第2線として組まれる。


「冒険者のチームは、騎士団や魔法士団より戦力が弱いのか?」

「そりゃ、そうよ。しっかりとした教育を受けていて、ちゃんと鍛錬もやっている方が強いわ」


そうなのか。

小説とかだと、冒険者のチームも強そうに書かれているけど、現実は違うのか。


「騎士団と魔法士団が通るわよ~」


店の入口で客引きをしていた女が高い声でそんなことを言う。

どうも、そのあたりは女性に人気があるらしい。


「どれどれ。見学しようか」

「「うん」」


3人で店を出てみていると、馬に乗った銀の鎧をつけた騎士がやってくる。全部で12人。

その後ろにやはり馬に乗った黒いローブの魔法士が6人が続く。


「これだけか?」

「ううん、ほら。後ろから冒険者達が来るわ」


たしかに冒険者達だ。

馬には乗っておらず、歩いてくる。


手にしている武器や鎧のたぐいはバラバラだ。

中には黒ローブを着たのがいるから魔法使いもいるってことだな。


「全部で30人ほどか」

「そうだね。ほら、うちのお客さんもいるよ」


確かに店で見たことがある人達がいる。

うちの鋼鉄剣を持った剣士もずいぶんいるな。

半分くらいはそうかもしれない。


「これに参加するってことは、ライセンスがずいぶん上がったってことね」

「そうだわ。うちの装備や魔法の本が役立っている証拠ね」

「そうなのか?」


どうも、実感はないな。

だいたい冒険者は人数は多いけど、強そうには見えない。

やっぱり、統一された武装で一糸乱れね行進をしている騎士団や魔法士団のほうが強そうだ。


「冒険者達はいるのか? 所詮雑兵だろ」

「そんなことないよ」


あれ、俺たちの横で見ていた男に、青髪少年が喰ってかかったぞ。

そりゃ、うちのお客さんの冒険者達にがんばってもらいたいけどさ。


「おー、坊主。冒険者が戦功を立てるっていうのか?」

「あれだけいるんだから、きっと戦功を立てる冒険者もいるさ」

「甘いね。ちゃんと訓練受けていないやつらは、大したことできないって」


おっと、言い争いになってしまったぞ。

ここはひとつ、あれかな。


「それでは、ひとつ。賭けと行きましょう」

「おー、そう来たか。俺はもちろん、騎士団だ。もし、冒険者がひとりでも戦功序列の10位以内にでも入ったら、俺の負けだ」


うーん、それって、ずいぶんとこっちが有利な条件じゃないのかな。

ひとりくらい入るかもしれないじゃないか。


「何言ってるんだよ。10位なんて余裕だよ。そうだな、7位以内に冒険者が入るでどうだ?」


おいおい、青髪少年よ。

せっかく有利な条件を提示してくれているのに、なぜ、難しくする?


「よし。のった! 俺は銀貨1枚掛けるぞ。お前はいくら出せるんだ」

「銀貨1枚なら、僕だって出せるよ」


まぁ、こいつは店でなかなか稼いでいるからな。

そのくらいは出せるだろう。


「なんだ? 騎士団と冒険者の賭けだって? 俺も入れろ!」

「いいよー。だけど、冒険者にはまだ銀貨1枚だよ」

「俺は騎士団だ。銀貨1枚」

「俺もまぜろ」


なんだか、ずいぶんと掛け金が集まってきたぞ。

どうやって、取り仕切るんだ、こんなの。


「はいはい。騎士団ですね。これをどうぞ」


いつの間にか、賭けを取り仕切る男が出てきた。

たくさんの人が参加する賭けになると、こういう男が出てくるらしい。


だけど、冒険者に賭ける人がいなくて、賭けが成立しないらしい。


「それならば、俺は冒険者に金貨1枚、いくぞ」

「おー、それなら銀貨2枚だ。騎士団に」


結局俺の金貨を入れると、1:3になって賭けが成立したようだ。


俺は冒険者を表す赤い印が入った棒をもらった。

上の方に入っている黒い×印が金貨1枚のサインらしい。


この結果は夕方には分かるらしい。

ちょっと楽しみになってきたぞ。


☆  ☆  ☆


「帰ってきたぞー」


門番が大声で街の中で待っている群衆に伝えてくる。

盗賊討伐体が帰ってきたのだ。


「ほら、坊主。結果が分かるぞ」

「ああ。きっと冒険者がやってくれたさ」

「ははは。面白い冗談だ」


本気で笑っていたおっさんが門から入ってきた連中を見たら、表情が変わった。


「ほう。最初のチームは冒険者か」

「ああ。なんだ。冒険者達は戦いに参加しなかったんだな。だから先に帰ってきたんだろう」


ひとりで納得しているな。

そうのなか?

だけど、こういう場合は普通、騎士団が先に入って「盗賊を討伐したぞ」ってやるんじゃないのか。


「盗賊を討伐したぞ!」


おおっ、気勢を上げたのは冒険者の中のリーダーぽい男だった。

ええー、それって冒険者が討伐したってこと?


「あれは副ギルマスだね」

「おおー、そうだ。現役なのか!」


元々、副ギルマスは冒険者たたき上げだって言ってたな。

こういうときには、自ら冒険者を率いて参加するものなのか。


「おーい。騎士団と魔法士団はどうした?」


群衆からヤジが飛ぶと副ギルマスが答える。


「騎士団と魔法士団は損害を受けたから後から来るぞ」

「要は騎士団たちが盗賊団に損害を受けつつも大きな損害を与えたということか?」

「いや。騎士団が先行して突っ込んだら、反撃を受けてボロボロになっただけさ」


どうも、予想より盗賊団が強かったようだ。

しかし、その盗賊団を冒険者達が討伐したようだ。


「おっ、帰ってきたぞ」


馬の上に乗ってはいるが、ほとんどがケガ人のようだ。

中には馬にくくりつけられていると思しき人もいる…あれって遺体ってことか?


「本当にボロボロだな」

「大丈夫なのか? 騎士団壊滅ってレベルだな」


賭けの結果は出たな。

俺たちの勝ちだ。


「これを金に換えてくれ」

「あ、はい。金貨1枚の掛け金なので、金貨4枚になります」

「すごいわ。なんかおごって」


ちゃっかりしているな、ジョゼは。

自分では掛けないで、おごってもらおうって。


「僕も銀貨4枚」

「もちろんだ。ほらよ」


そんな俺たちを最初の騎士団に賭けた男が呆然と見ていた。

もしかしたら、これは街の何かが変わるきっかけになるかもしれないな。


それまで、街を守るのは騎士団と魔法士団だと思われていた。

冒険者達は単に、騎士団がでるまでもない魔物を退治したりするだけ。


そんな評価だった。


しかし、今回の結果はそれが全然違うということが明らかになった。

もしかしたら、報奨金もでるかもしれないから、店はまた売り上げがあがるかもな。


冒険者、つえーーって、なったみたい。


やったねっ、思ったなら。


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