第79話 大切なことを思い出した
「そういえば、アトリエ・シュミットの鋼鉄ってどこにいくんだ?」
いきなり、気づいてしまった。
俺が鋼鉄を支給して、ロングソードを作ってもらう。
これは問題ない。
しかし、鋼鉄は約半分しか使っていない。
残りの鋼鉄は叩きなおして、別の剣になっているはずだ。
「その分でロングソードの製造代に充ててもらっているが…」
ということは、余った鋼鉄で作った剣はアトリエ・シュミットが売っているはずなのだが。
もしかしたら、転売扱いになっているのかもしれない。
「うーむ。転売しているとなると親方が俺の店に入れないってことか?」
微妙だ。別に親方が俺の店に来れなくても困ることはない。
しかし、狭間の部屋が転売を禁止しているのに、それをさせてしまっているのはどうなのか。
「困ったな。余った鋼鉄を回収するか。普通に製造代を支払う方がいいかもな」
そのためには、まず親方が俺の店に入れないことを確認しなければな。
ちょうど、親方に売りたいと思っていた道具があるし、来てもらうか。
青髪少年に呼びに行かせると、しばらくしてシュミット親方を店に連れてきた。
「えっ?」
「どうしたんだ? 親方を連れてきたけど」
「なんだ? 何やら買って欲しい道具があると聞いたが?」
どうして、親方が店に入れるんだ?
転売で入れないのではないか?
?だらけになってしまって俺はいろいろと確認したぞ。
「余った鋼鉄はどうなっているんだ?」
「あれはもらった物として剣の材料にしているぞ」
「出来上がった剣はどうしている?」
「武器販売に強い商会に卸しているぞ。この街では高く売れないだろうから、別の街で売ってもらっているから心配するな」
別に競争を起きることを心配しているんじゃないが。
どうみても転売しているよな。
どうして、親方がこの店に入れるんだ?
「重量比率が低いのでしょう。原料比率が低い商品は転売扱いになりません」
おおー、久しぶりの狭間の部屋の管理人だ。
そうか。残った鋼鉄より多くの鉄を使って剣を作っているということか。
「残りの鋼鉄で1本のロングソードを作っているのか?」
「いや、2本だ」
「えっ、2本?」
「そうだ、2本だ。残る鋼鉄は1㎏弱あるからな。鋼鉄のインゴット2つ分あるのだ」
あー、それはずいぶんと比率が低いな。
それならば、出来上がった剣はこの店が売った物として認識されないのだろう。
「その件は分かった。今日来てもらったのはこれだ」
俺はノコギリのような道具を取り出した。
「これはなんだ? ノコギリか?」
「ノコギリはノコギリだが、ただのノコギリではない」
「どう違うのか?」
「これは鋼鉄を切るノコギリだ」
「!」
俺が鋼鉄を納入すると、叩いて剣の形に形成する。
どうせなら、剣の形に切れた方が楽なのではないか。
そう思ったのだ。
「すると、このノコギリは鋼鉄より硬いってことか?」
「そうだ」
調べてみると、現代日本において、鉄と言われているものの多くは鋼鉄だと知った。
鉄だけの金属はまず流通していない。
加工がしやすい鉄は軟鉄と呼ばれているから、それ以外はほぼ鋼鉄だと思って間違いない。
鋼鉄が多いとなると、それを加工できる工具もあるはすだ、と調べてみてみつけたのがこれだ。
「セイバーズ・ソーブレイド」
元々は電動ノコの刃らしい。
刃が回転する丸のこではなく、前後に動く電動ノコ用だ。
10本入りで1600円。
1本160円で買える。
「刃だけで柄はないが、そこはうまく作ってくれ」
「もちろんだ。もし、これで鋼鉄が切れるなら効率がすごくアップするぞ」
「では試してみてくれ」
カタログ性能では、3ミリまでの鋼鉄なら切れるとある。
実際には使ってみていないが、親方に試してもらおう。
「このノコ刃で鋼鉄が切れるのだな」
「ああ」
俺は1本の鋼鉄板を出した。
厚さ2.3ミリの鋼鉄だ。
「試してみるぞ」
「頼む」
慎重に鋼鉄を切り出す親方。
力を入れて切ると、すこし溝ができる。
「おおーーー」
感動しているぞ。
まぁ、この世界で鋼鉄より硬いとなるとミスリルのような魔法金属になる。
とてもふつうの鍛冶屋が手に入れられるものではない。
「どうだ? 使えるか?」
「もちろんだ。まるで普通の鉄のように切れるぞ」
うん、よかった。
親方にこれを使ってもらって、剣がもっと量産してもらいたいものだ。
「これはいくらなのだ?」
「そうだな。10本で金貨1枚だ。ただし、転売は禁止だぞ」
「やすいな。他のアトリエも欲しがるだろうから、ここを紹介するのはいいのか?」
「それは歓迎だ」
よし、いいな。
あのノコギリに使われているのは、バイス鋼という鋼鉄らしい。
そのうち、バイス鋼の鋼板を手に入れて親方に使ってもらうのもいいかもしれないな。
もっとも、青板とどっちが剣の素材としては良いかは不明だがな。
もうひとつ、可能性を感じることがある。
それが鋼鉄比率が低いロングソードの存在だ。
俺が鋼鉄を提供して鉄をプラスして、親方達に剣にしてもらう。
これだと異世界製の商品だと認識するらしい。
転売禁止が外れるようだ。
これを買い取る形で手に入れると、異世界で転売可能な商品になる。
他の商人の手を借りて、この街以外に売ってもらうことができるようになる。
最近、ロングソードの売り上げが落ちてきた。
ベテラン冒険者に行き渡ったのだろう。
ロングソード以外の鋼鉄製武器も製造してもらって販売しているが限界がある。
この街の冒険者の数は有限だ。
衛兵や騎士団等の冒険者以外の武器需要もあるが、そういう連中は金髪者がほとんど。
出所が不明な武器など使いはしない。
どうしても、この街以外の需要がないと剣を売り続けることができなくなっている。
新しい可能性が見えてきたな。




