第74話 偽ロングソードが完成したぞー
「副ギルマス。あの店から偽ロングソードを借りてきました」
「今回は少々時間がかかったな」
「1週間ですからね。さすがに簡単にはできなかったようですね」
問題の偽物ショップ。
どうやったのかは分からないが、ロングソードまで偽物を用意したようだ。
「まぁ、形だけは元のと似ているな」
「ええ。いかにも、アトリエ・シュミット製のロングソードです」
「おいおい、アトリエのことは言ってはダメだろう。アトリエの連中が怒るぞ」
「たけど、みてください。アトリエの銘が入っているんです」
「なんだと!」
アトリエ銘というのは、魔法で刻まれたものだ。
いくらコピー品だといっても、アトリエ以外で造られ物に銘を刻むことはできない。
「おい。買い取りの者を呼んでこい」
「分かりました」
ちゃんと鑑定スキルを持つ者なら、この銘が本物かどうか、判断できるはずだ。
「連れてきました」
「おう、いきなりですまないが。この銘が本物か鑑定してくれ」
買い取り員は、銘に向けて指で印を作る。
銘は赤い光で輝きだした。
「この銘は本物ですな。間違いなくアトリエ製です」
「なんと。どういうことだろう」
「このロングソード。普通の物ではないですね」
「そうだな。コピー品だからな」
「それはないですね。銘が本物ですから。普通の物ではないというのは、剣身すべてが鋼鉄製だってことです」
「なんだって?」
普通の鋼インゴットのドロップ品は400gくらいだ。
剣身全体を鋼で造ろうとすると、鋼インゴット3個は必要になる。
「ありえないな。どうして、あのアトリエが全部鋼の剣を造るんだ?」
「えっと。それだけ大量の鋼を入手したということではありませんか?」
仮にそうだとしても。
剣身全部を鋼にする理由が分からない。
大量に鋼を入手したなら、3本造ればいいだけだろう。
「だが、そうなると残念ながらこの剣はダメだな」
「どうしてですか?」
「これだけ鋼を使った剣では金貨50枚は下らないだろう」
「それが…」
「どうした?」
「金貨10枚だと言うんです」
「なんだと!」
ありえない。
あの店の店主は何を考えているのだ?
「これはしっかりと注意しないといけないな」
「と言いますと?」
「剣身全部が鋼というふざけた偽剣だということを冒険者メンバーに伝えないと。銘が本物だろうと偽ロングソードだ。金貨10枚だとしても買ってはいけないぞ」
「そうですね。もっともまだ試作品で1本しかないみたいですよ」
「しかたがない。これは私が買うことにするか」
「あ、ずるいですよ、副ギルマス。それなら私が」
うーむ、どうみてもこれを欲しがる奴らは20人はいるぞ。
ギルドに登録しているメンバーだけでもな。
「よし、あの店の店主に言っておけ。偽ロングソード1本くらい作っても大したことはないなって。まぁ10本もあったら大変なことになるがなと」
「そうですね。そのくらいあったら……」
「メンバーに注意するのは、10本出てくるまでは保留だ」
「分かりました。伝えますね」
うーむ。
なんだか分からないが、あの店がとんでもないところだってだけはよくわかるぞ。




