第73話 鋼鉄を探して
「やっぱり剣の素材として最高なのは玉鋼だな」
日本刀の素材であり、世界一の刃物の素材。
なんて思うけど、玉鋼なんて手に入れる方法がない。
あきらめて、普通の鋼鉄は手に入るのか調べてみたら、ちゃんと通販で売っている。
中にはサイズを指定できるオーダーカットのところもある。
厚さを選んで巾と長さを入れると重さと値段がでる。
2.3mm厚で巾50ミリ長さが1000ミリで2.2㎏2000円弱。
うん、大した値段じゃないな。
ただ、玉鋼ではなく普通鋼という物らしい。
うーん、なんか弱そうだな。
もっと強そうな鋼鉄はないのだろうか。
剣の作り方とかを調べていたら、出てきたぞ。
青紙、白紙という鋼。
刃物を作るための鋼だって解説がある。
それは一般販売しているのだろうか。
探してみたら、あったぞ。
ネット通販で。
送料込みで4500円程度。
なんだ、安いじゃないか。
だけど、問題がある。
サイズが相当小さい。
厚さが2mmで巾が30mmで長さが250mm。
これじゃ、ロングソードを作るには全然短い。
もっと長い物はないのか、調べたけどない。
4枚つなげれば、ロングソードが作れるかもしれないけど、つないだ部分が弱いだろうからダメだな。
残念ながら日本においては、包丁やナイフくらいしか作ることが認められていないから、1mサイズの青紙はない。
どうすればいいのかは分からないが、鋼としての質をプロに見てもらうのが先決だということで。
青紙1枚と白紙1枚、そして1mサイズの普通鋼も買ってみたぞ。
ちなみに白紙は玉鋼に一番近い鋼だって書いてあった。
それに切れ味と耐久性が付加したのが青紙らしい。
もしかして、青紙はとんでもなくすごい鋼なのかもしれないぞ。
☆ ☆ ☆
「ほう。これは……」
アトリエ・シュミットを訪れたら、なんとドワーフがいた!
150㎝くらいの背ながらがっちりした体形。
腕なんか筋肉がすごくて太いぞ。
もちろん、髭は生えていて、もじゃもじゃだ。
最初、アトリエに入ったら「何者だ」と怒られた。
すかさず、鋼板を出したら急にフレンドリーになった。
1mの鋼板はシュミット親方の気に入ったらしいぞ。
「しかし、まぁ。不思議なドロップ品だな」
ドロップ品ではないんだが。
まぁ、この街では鋼板というのはダンジョンドロップ品というのが常識らしい。
「これなら、廻りをカットして叩き込めばしっかりとしたロングソードができそうだ」
それはいいことを聞いたぞ。
もしかしたら、手間代を安く上げることができるかもしれない。
「しかし、このままだと全体が鋼になるな。もったいないと言えばもったいないな」
「えっ」
「普通はな。鋼を叩いて伸ばすのが普通なのだ。ロングソードは両刃だから刃の部分は厚くするが真ん中の部分は薄くしてだな」
なんと、鋼だけで造る訳ではなく、剣の中心軸には薄い鉄の板を両面から貼り付けてまとめて伸ばしていくらしい。
「だから、これだけの鋼があれば4本のロングソードが作れるぞ」
「えっと。鋼だけのロングソードではダメなのか?」
「もちろん、できるが。鋼だけのロングソードとなると贅沢な物になるな」
まぁ、この鋼は1500円だから、30倍にしても銀貨4枚半。
アトリエに払う打ち出し代が金貨4枚だというから、素材代より加工代がかかる計算だ。
「もし、この鋼で1本のロングソードを造るとなるとどうなる?」
「あー、これ自体だと重すぎるな。周りをカットするから、その残りでも1本作れるぞ」
「それなら、それは親方にプレゼントしよう。それだと加工代はいくらになる?」
「おおー、残りがもらえるのか。それなら加工代は無料でいいぞ」
えっ、無料?
そんなおいしい話があるのか。
「この鋼から作るなら工期が6割くらいで造れるからな。もう一本は工期に手間がかかるが素材代がただなら、ずいぶんとうちのアトリエは利益をあげられるしな」
「それはよかった。まずは、その鋼で一本作って欲しい」
よし、鉄鋼製のロングソードは1500円の鋼板1枚で造れるってことだな。
本気で安くするなら、金貨1枚でも売れるってこと。
さすがにそれだと安すぎるから、相場の半分の金貨10枚で売ることを考えよう。
「それで、もうひとつ相談なのだが」
「なんだ?」
「この鋼でロングソードを作ることはできるのか?」
俺は青紙と白紙の鋼板を親方にみせた。
「なんだ、この鋼は。みたことがないぞ」
そうだろうなー。
この世界は全く存在していない鋼だ。
「少し少ないな。それぞれ1本造るってことだよな」
「ああ。無理ならいいのだが」
「いや。先ほどのあまった鋼を使えば可能だ。この鋼を刃の一番前のとこに使ってだな。その後ろにさきほどの鋼を使う。芯の部分は鉄にする」
「ほう。3重構造ということか」
「まぁな。ただし、この鋼の性能が普通の鋼よりいいことが条件だ」
「それは保証するぞ」
「しかし、ずいぶんと堅そうな鋼だな。すこし調べてみていいか?」
「もちろんだ」
シュミット親方は青紙と白紙をどう評価するのか。
それがすごく楽しみだ。
「おいおい、なんだ、この鋼は!」
「何かまずいことが?」
「加工道具の刃が入らないじゃないか」
「それはまずいのか?」
「うちの加工道具は特別でな。鋼を何度も焼き入れした最高硬度の道具を使っている。それよりも硬い鋼では加工がとてもしづらいということだ」
あー、堅すぎるのか。
現代技術の粋を集めた刃物用の鋼だからな。
加工がしづらいというのは困ったもんだ。
「特にこっちが硬いな。工具では傷すらつかないぞ」
青紙の方だ。
これは加工できないかもしれないな。
「では、あきらめよう」
「ちょ、ちょっと待て。できないとは言ってないだろ」
「できるのか?」
「やってみないと分からない。しかし、これほど硬い鋼を使ったらどれだけの剣ができるのか、鍛冶屋魂を揺さぶる材料だな」
まぁ、いいだろう。
上級のロングソードができるかもしれないのだ。
楽しみだ。
「では、3本のロングソードの製造の依頼をしよう。いくらかかるのか?」
「分からない。1本は言った通り、無料でいい。あと二本はやってみないことにはな」
「それならば、普通のロングソードの加工代2本分を前金として出そう」
「ちょっと待ってくれ。できるかどうかわからないのだ」
「ああ。しかし、加工するのに手間が掛かるだろう」
「それはそうだが。失敗することもあるってことだ。その場合、この鋼がボロボロになることもあるのだぞ」
そういうことか。失敗したときの責任か。
たしか、異世界において前金というのはキャンセルするときに返ってこない金だ。
逆に失敗したときは、倍返しってルールがあるらしい。
「失敗したときは、気にしないでいいぞ。もちろん、成功してほしいが」
「もちろん、失敗するつもりなどない!」
「なら、チャレンジしてくれ。うまくいったらちゃんと正規料金を払うからな」
「ああ。2本で最大で金貨10枚でどうだ? それ以上の手間が掛かってもこちら持ちでやる」
「おー、それはずいぶんと良い条件だ」
その条件で俺はアトリエ・シュミットと契約を結んだ。
青紙、白紙は先にコメントに登場してびっくりした。
詳しい人多いんですねーー。




