第71話 オーク太郎ラーメン店がプレオープンした
「いよいよだな」
「はいっ。がんばります」
店員になる女の子達のトレーニングは終わった。
一番難しいスープやタレ、自家製麺は食堂おばちゃんをはじめとするバックヤードチームが担当する。
男の子が中心だ。
11歳から17歳の厳選された美少女チームは、店舗で調理を担当する。
麺茹で係、野菜係、チャーシュー係、脂・にんにく係、会計係、接客係。
ボリューム満点でガツンと来るオーク素材から生み出されたオーク太郎ラーメン。
正式オーブンの前に、友人が集めてくれた太郎ラーメンフリーク達10人。
その中には、デカ盛り系のブロガーやユーチューバーが混ざっている。
「このお店のコンセプトは美少女が作るデカ盛り太郎系ラーメンです」
俺は太郎ラーメンフリーク達に説明する。
コテコテのガッツリラーメンと美少女という異色コラボにちょっと戸惑う男達。
店がある場所は、古着屋の倉庫だ。
古着をコンテナ輸入している男に交渉して、倉庫の壁を借りてお店を開くことにした。
友人と古着輸入の男には、俺の秘密を話してある。
不思議な空間で、ラーメン店を開店するということ。
「しかし、ここでいいのか?」
「ああ。まずは郊外でいい。駐車できる場所もあるしな」
街道沿いにある古着倉庫スペースを借りて、オーク太郎ラーメン店は開店する。
今日はまだ、プレオープンだが。
10人の男がぞろぞろと歩いている。
写真を撮ったり、動画撮影をしたりする男もいる。
「いよいよ、隠れ家ラーメン店に潜入します。どんなラーメンなのか、楽しみです」
妙に明るいユーチューバーを除いて、ほとんどは寡黙なオタク連中だ。
会話もせずに、店の扉をくぐる。
「「「「「おーーー」」」」」
いきなり現れる働く美少女達。
うまいラーメンを期待して来た連中だが、見たこともないカラフルな髪をした美少女達が送り出す独特な雰囲気に驚いている。
「いらっしゃいませ。当店のお勧めは、チャーシュー太郎ラーメン特盛です」
「じゃあ、それで」
特盛が食べられないような太郎ラーメン初心者はいない。
男は黙って特盛だろう。
「脂とニンニク、野菜はどうしますか?」
「すべてマシマシで」
「麺はどうします?」
「かためで」
注文を受けている緑髪で緑瞳の16歳くらいの美少女が厨房に大きな声で言う。
「脂ニンニク野菜マシマシ麺カタメ特チャーシューひとつ!」
まるで呪文のようだ。
これも特訓したひとつで、太郎ラーメン店らしさを生み出すポイントだ。
その後も次々とオーダーを受けていく。
店の構造は、カウンター席が12あり入ってコの字型にならんでいる。
その向こうは厨房になっていて、美少女達がラーメンを作っている。
「特盛チャーシュー麺、おまたせっ」
美少女でありながら、ラーメン職人的に元気に言う。
あまりのギャップに男達はあっとうされている。
そして出てきた豚マウンテンがそびえたつ太郎ラーメン。
太郎ラーメン店の中でもデカ盛りが自慢な店と同等レベルのデカさだ。
「なんということでしょう。美少女たちが生み出す太郎ラーメンは豚で覆われた山です! それも山頂からニンニクと背脂がこれでもかってほど注がれています」
ユーチューバーが解説している通りのルックスだ。
「うまい!」
太郎ラーメンをこよなく愛する男達の味覚をガツンとハンマーでぶち破るような濃厚な味。
どんなブランド豚であっても、これほどの味がだせるはずがない。
異世界の魔物オークだからことの味だ。
もっとも、この件は極秘扱いで客たちは知らない事実だが。
「がふがふ」
順次、ラーメンが男達の前に置かれていく。
それぞれのこだわりスタイルで食べていく男達。
「なんだ、この豚は!」
「スープもすごいぞ」
間違いなく太郎ラーメン好きには耐えられない味の組み立て。
すべては計算されつくされている。
「大量の野菜もうまくて箸が止まらないぞ」
よし、喰いついた!
これで太郎ラーメン好き達の間で口コミを起こせるはずだ。
場所が郊外なので、黙っていたら客はこない。
でかい看板を設けるつもりはない。
知っている人は知っている。
そんな謎多き店にする予定だ。
「うまかった!」
「ありがとうです」
ラーメンを褒められてにっこりと笑う美少女。
これは営業スマイルじゃない。
元々、喰うに困っていたスラムの女の子。
特別なスキルがある訳でもなく、髪の色で差別されていた子。
そんな彼女たちがラーメンを作るスキルを手に入れた。
最高の食材と最高のレシピで最高のラーメンを作る。
自分達の仕事に誇りを持っている。
自分達の作るラーメンに誇りを感じてする。
そのラーメンを小太りな男達が「うまい」と言う。
小太りの男は日本ではキモイと言われるが、異世界ではうまい物をたくさん食べられる男だ。
稼ぎがあって、頼れる男なのだ。
本気で嬉しくなって、笑顔になり自然とお礼の言葉が出る。
その笑顔と言葉には、特別な破壊力がある。
太郎ラーメンフリーク達の心を串刺しにする。
税込み1650円のラーメン。
絶対高いとは言わせない自信があるぞ。
「最高の太郎ラーメンと美少女の笑顔。まさにこの店は、太郎系ラーメン店美少女だ!」
所在地不明、完全予約制のお店がこうしてオープンした。




