第70話 副ギルマスは話が分かる男だった
「ということで、魔法の偽本と本物本の違いを実感してもらうために、これを1週間貸し出すということです」
「!」
なんということだ。
冒険者から一番リクエストが多かった、回復魔法の本。
それが目の前にあり、1週間借りられるという。
そんなに借りる必要はないのだが、副ギルマスはそのくらい必要だと思ったのだろう。
「もし、回復魔法の偽本が出回るとしたら、いつ頃でしょうね」
「あー、ただの予測でしかないが、俺は明日には出回ると思うぞ」
「本当か!」
彼が冒険者ギルドで回復魔法の偽本の噂話をしてくれれば、一気に10冊はいきそうだな。
リクエストをくれた冒険者だけでも3人はいるしな。
「だから、副ギルマスには偽回復魔法の本の注意をメンバーに伝えないといけないと思いますぞ」
「同感だ。そっさく、伝えるとよう」
「あ、待ってください」
ちょっと困ったことがある。
いままでは魔法の本を持ち込むのがルモンドだったから、いつもの通りで話は済むが今回の件は違う。
利益の配分はどうしたらいいのか?
「偽本が売れると利益が発生します。その件はどうなりますか?」
「えっ、どういうことだ」
「建前の話はもうおしまいでいいですか。本音のビジネスの話です」
「ああ」
偽本が売れた場合、その際利益から半分は元になる魔法の本を持ちこんだ人の権利になると教えた。
「それは私ということか?」
「そうです。もしくは副ギルマスですが」
おっと、悩んでいる。
副ギルマスがどうこたえるのか、想定できないらしい。
「その話は明日、答えをいただけませんか?」
「分かった。聞いてみよう」
なかなか正直そうな男だな。
だまっていれば、自分の物になるのだがな。
副ギルマスにお伺いを立てるようだ。
☆ ☆ ☆
「これで出版作業の女の子は残業決定だな」
1冊、魔法の本を打ち出すには30分はかかる。
10冊となると最低5時間、実際には7時間ほどかかる。
今からだと夜までかかるな。
そんなことを考えていたら、青髪少年が帰ってきた。
客引きをしているのだが、今日は連れてこれなかったようだ。
「ダメだったか?」
「いえいえ。ちゃんとお客さんみつけたよ」
「おー、すごいな」
「だけど、用事があるから後で来ると言ってたよ」
予約みたいな物だな。
どんな姿のお客か、名前と外見を教えておいてもらう。
「よし、わかった。その男が来たらお前の売り上げにしておくよ」
「了解したよ。じゃあまた、お客探しに行くか」
「ああ、そうしてくれ」
出かける前にちらりと商談机をみたら、びっくりしている。
あ、回復魔法の本だな。
「それ、回復魔法?」
「そうだ。よくわかったよ」
「だっても書いてあるし」
あれ? こいつは文字読めないと言っていなかったか?
だいたい普通の文字は読めても、この本は聖魔法の文字で書いてある。
聖属性を持たないと読むことはできないと冒険者の男は言ってたな。
「お前、聖魔法に適性あるのかもしれないな」
そう、タイトルと言えども読めたということは、聖属性を持つとしか思えない。
この本で学べば、回復魔法が使えるようになるかもな。
「明日、これの廉価版が棚に並ぶぞ。お前も回復魔法を勉強してみるか?」
「いいのか! やってみたい」
店員特典として、店の中で読むことは許可した。
他の魔法の本のタイトルが読めないと言っていたから特に本を読むように勧めていない。
逆に興味あるなら、店で読むのは全然オッケーだ。
必要なら、部屋に持っていくことも可能だ。
青髪少年の意外な才能を見つけて、嬉しくなった。




