第68話 なせが回復魔法の本も入手できてしまった
「偽本の店を視察してきました」
「はぁ? どういうことか」
私は副ギルマスに「話がある」と伝えて時間をとってもらった。
「偽本がどんな物か確認のためです」
「そうだな。危険というのはしっかりと確認しておくのは重要だ」
副ギルマスは私がどんな話をしようとしているのか分からないようだ。
まぁ、行くなと言った店だからな。
仮に隠れて行ったとしたら、それを告げる理由がない。
「すると、あの店の店主がこんなことをいいまして」
「どんなことか?」
「副ギルマスによろしく、と」
「ぶっ」
あ、副ギルマス、噴き出してしまった。
周りに誰もいないからいいけど、ギルマスが見たら変な顔をするぞ。
「お前もずいぶんと役者だな」
「そんなことはありません。今、問題になっている偽本の店主が副ギルマスに伝言です」
「まぁ、そうだな。お役目ご苦労だった」
全く、福ギルマスがあの店と連絡を取っていないのは確実だな。
伝言を伝えるのも、意味があることだろう。
「ちょっと待ってくれ」
「なんでしょう」
何やら、副ギルマスが考え出した。
この人、頭いいからな。
副ギルマスは5年前まで冒険者をしていたはずだ。
剣士でありながら、聖魔法を使える珍しいタイプだった。
聖魔法は通常教会で学んだ者だけが使えるようになる。
副ギルマスはスラム出身だから、聖職者にはなれない。
独学で学んで聖魔法を使えるようになったのだ。
聖魔法は傷を治したり、霊を退治したりする魔法だ。
冒険者パーティには、ひとりは欲しいと言われている。
聖魔法の使い手でありながら、凄腕の剣士。
そのうえ、作戦を考えるリーダーでもある。
冒険者だった頃の副ギルマスはAランクまで行ったと自慢している。
「おー、あったあった」
「そ、それは?」
古い茶色革の表紙の本だ。
タイトルは……読めない。
「聖魔法の本だ」
「なんと!」
聖魔法だけは、他の魔法と違って別の文字を使っている。
魔法の本も一般の文字とは違う。
普通の魔法や聖魔法が使える潜在能力がある者だけが読めると言われている。
「これが読めないか?」
「全然です」
「残念ながら、お前に聖魔法は使えないな」
聖の属性が自分にあるとは思っていないから、ショックではない。
しかし、冒険者の中にはいるんだろうな、聖魔法の潜在能力がある者が。
「いいか。これが本物の魔法の本だ」
「はい」
「あの店の奴は、本物を見たことがないから偽本を売れるのだろう」
「えっ?」
「本物の本をじっくりと見たら、違いが嫌でもわかるはずだ」
「そ、そうですか?」
「そこでお前に頼みがある」
「なんでしょう」
「この本をあの店の奴に見せてやれ」
「えっと」
「そうだな。1週間もあれば自分のとこの魔法の本との違いが分かるだろう」
「えっと……はっ」
なるほど!
副ギルマスはもっと聖魔法が使える冒険者が増えて欲しいのだな。
面白い、乗った!
「しかと預かりました。偽本販売をあきらめさせようという副ギルマスの深い考え、あっぱれです」
「まぁ、そうだろう。これで偽本がなくなり冒険者ギルドは安泰というものだ」
本当に安泰だな。
しばらくしたら、きっと回復魔法の使い手が増えてくるに違いない。
また、依頼成功率もランクアップする冒険者パーティも増えるだろう。
まさに冒険者ギルドは安泰だ。




