第66話 知らない間に商売の邪魔をしていたらしい
「なんてことをしてくれるんだい」
真っ赤な髪の毛を逆立てながら、真っ赤な顔で文句を言われてしまった。
スラムで服屋を開いているおばさんらしい。
「あー、もしかして。うちの服がそれらの商売の邪魔をしたとか?」
「邪魔なんてものじゃないわよ。ここんとこ全く商売にならないわ。どうしてくれるの!」
困ったぞ。
スラムの人達に良い服を着てもらおうと安価に古着を提供したら、元々服を売っている人に迷惑をかけてしまった。
困ったな。
「そうだ。うちの服屋を手伝ってくれませんか?」
「何言ってるのよ。私に服屋をやめろというの!」
「日給で大銅貨3枚出しますが?」
「やります!」
あれ、あっさりとオッケーが出た。
服屋としてのプライドがあるのかなと思ったけど、仕事の方が重要らしい。
「服の仕分けと補修の手配をして欲しくてな。今はうちの少女たちが中心にやっているが素人だからな」
「まかせなさい。服屋30年の経験を活かしてやってあげるわ」
「それは助かるな」
うん、いい人材を手に入れた気がするぞ。
利益からするとスラム店はそれほど儲かるとはならないが、スラムの人達の多くが買っていってくれている。
感謝の言葉もたくさんもらった。
特に若い女の子も多く買いにきてくれて、かわいい子はスカウトしている。
どんな仕事ができるのかは不明だが、何をするにしてもかわいい子は日本では強いからな。
その上、スラムの女の子は真面目で根気がある。
妹や弟がいる子が多くて、家族のために稼ぎたいという気持ちが強いからな。
「なんなら、他の服屋にも声を掛けるわよ。売れなくなって困っている人も多いから」
うーん。それはどうだろう。
とりあえず、今はそこまで必要ないか。
「業務を拡張するときは頼むな」
だけど、客がいなくなったら困っているだろう。
なんかいい方法はないかな。
「そうだ。店の場所を貸してくれないか」
スラム店を移動式にすることを考えた。
どうせ、俺の店は壁さえあればどこでも開店ができる。
うちの入口を曜日ごとに変えれば、もっと多くの人に利用してもらえるな。
「もちろん、いいわよ」
「ちゃんと場所代は払うぞ。売上の2%でどうだ?」
「たった2%かい」
「今、うちは大銅貨1枚の服が1日300枚売れているぞ。その2%は大銅貨6枚だ」
「えっ、そんなにもらえるの?」
うん、ただ場所を借りるだけでなく、客引きや口コミによる宣伝も担当してもらおう。
売れれば売れるほど、場所代もあがるからな。
「今の売り上げを2倍にしていきたいと思っているんだ」
「やるわね。それは私達みたいな経験豊富な服屋の協力が必要よ」
うん、週に1度でも大銅貨6枚が手に入る。
1日だと大銅貨1枚ほどだが、服屋といってもそんなに売れているとは思えない。
週に1日だけ働いて、1週間分の日当がもらえるなら、きっと喜んでやるのではないか。
この話をあちこちの服屋の店主と話すのは、このおばさんに担当してもらおう。
他にも仕分けその他も担当させる。
青髪少年は市民区の1号店の店長にして、このおばさんをスラムの2号店店長にしよう。
青髪少年に両方を兼任させているが、ちょっと無理があるしな。
そして、これから。
市民区にも古着屋をオープンしようとしている。
と、いっても、1号店をふたつに分けて、雑貨店と古着店にするのだ。
スラム店とは違って、市民ならお金を持っている人達だからしっかりとしたサービスを考えている。
市民たちに好まれるような服にリメイクするのだ。
元々、この街では服のリメイクは安価で出来る。
手間の掛かる仕事なので、賃金が安いスラムの人達がやっている。
指示の通りにリメイクして、1枚当たり銅貨2枚。
随分と安いリメイク代だ。
もっとも、市民が店に払うリメイク代は大銅貨1枚というから、店がずいぶんと抜いているということか。
市民たちは染料を使ったチュニックという服を着ている。
腰の部分を紐で絞った七分袖くらいのトップス。
日本からの古着をうまく使って、チュニックにリメイクして売り出す予定だ。
このあたりの統括も服屋おばさんにやってもらえると助かるな。
チュニックの値段は銀貨1枚から2枚になる予定だ。
市民の店なら、チュニックの古着が銀貨3枚で売られているから、十分競争力があるだろう。
まだまだ計画段階だが、服屋の経験があるおばさんが参入したことで、一気に実現可能性があがったぞ。




