第68話 大物が大金もってやってきた
「この店か。魔導計算機を売っているというのは?」
「えっと。それはまだ、入荷していないんですが」
店員用に買っただけだぞ。
電卓は。
「なに。金貨20枚で売っていると聞いたぞ」
あー、青髪少年だな。
高いんだから無くすなよ、とは言ったが店で売るとは言ってないぞ。
「あー、実は特別な品なので、そんなに入荷しないんです」
「本当かな。丁稚みたいな少年が持っていたぞ。この店のな」
あー、やっぱり。
あいつ、見せびらかしているんじゃないか。
「金貨20枚とは言わない。金貨50枚までなら出すぞ、どうだ?」
「あー」
困った。電卓なら予備の物がふたつくらいある。
売ってしまってもいいんだが、あまりにオーバーテクノロジーの品だからな。
「金貨50枚でも無理か」
「えっと。どうして、そこまでしてあれが必要なんですか?」
「それはワシの息子のためなんだ」
この人はとある商会の会頭らしい。
そこそこ、大きなところの。
だけど、彼の息子が計算が下手で大変らしい。
そろばんを使っても、計算ミスが多いみたいだ。
「このままじゃ、手代にする訳にはいかなくてな。幼馴染と一緒に丁稚をしているんだが、幼馴染の方が先に手代になってしまうそうでな」
親としては、息子を出世させたい。
しかし、商人の基本の計算が下手だと、手代にはなれないのが決まりらしい。
「計算以外は大抵のことができる。気も廻るし頭もいい」
「それはいいですね」
「だから、計算がダメなのが残念でならないのだ」
「それで魔導計算機、なんですね」
「そうだ。売ってくれるか?」
「いいでしょう」
結局、予備のひとつを金貨20枚でお買い上げ。
50枚にしなかったことをちょっと恩着せがましく言ってみた。
「何かワシにできることがあったら言ってくれ」
「今はないですが。困ったことがあったら相談させてください」
うん。また一人。力がある人と関係を結ぶことができた。
それも、100円の物が金貨20枚。
銅貨を100円だとすると、2万倍にもなったぞ。
「ありがとうございました」
俺は頭をしっかりと下げて送り出した。




