第63話 俺はラーメン店に友人を招待した
「こんなものかな」
オーク太郎ラーメン店を作ってみた。
キッチン部とフロアーと。
テーブル、椅子等は異世界大工製だ。
金貨はずいぶんあるから、余裕で作ってもらえた。
オーダーメイドだから、サイズがぴったりだ。
異世界人と元世界人の両方が入れるようにした。
それと並行して、オーク太郎ラーメンが日本人に受け入れられるか、チェックすることにした。
「いつもお世話になっているから、今日は俺がおごるぜ」
「なんだか気持ち悪いな」
古着転売を諦めた古い友人を連れて、扉をくぐった。
そこには、テーブルがひとつだけある。
「なんだ、ここは?」
「ラーメン店だって。うまい店だぞ」
「そんな訳あるか。こんな狭い店ある訳ないだろう」
まぁー、そうだよな。
準備している店の方に連れていってもよかったけど、まだ途中だからな。
「まぁ、そういうなって。そこ座ってさ」
「なんだかなー」
「いらっしゃいませ」
うん、やっぱりかわいいな。
俺の素人童貞を捨てた相手、今はこれから開店するラーメン店の店長になる予定の女の子が挨拶した。
ラーメンを作るのは、隣の厨房でおばちゃん指導の元でやっている。
できあがったのを持ってくるのが彼女の役割だ。
「おい、ずいぶんかわいいな」
「そうだろう」
「だけど、中学生じゃないのか」
「えっと、15歳と言っていたから高校生かな」
「どういう関係だ?」
「あー。バイトかな」
元世界だと15歳だと制限ありまくりだから、ごまかすしかないな。
まぁ、こいつなら大丈夫だと思うが。
「とにかく、うまいラーメンだからよ」
「ほんとうか?」
しばらく待って、彼女がラーメンを持ってくる。
まるで山のようにそびえる特盛ラーメンを。
「すごいビジュアルだな」
「いや、ビジュアルより味だ」
「そうだな。まずはスープを」
こいつ、ラーメンだけはうるさいからな。
太郎系ラーメン店といえども、こいつにかかったら半分以上批判の的になる。
レンゲで肉と野菜をかき分けてスープをすくって一口。
「うまいっ」
「だろう」
やっぱり、オーク豚骨とオーク肉の出汁はすごいよな。
そのうえ、ニンニクとオーク背脂たっぷりいれてある。
「こんな濃厚なスープは初めてだ。だけど、すっきりしているな」
「その通り」
オーク肉のプロにも監修してもらっている、特製スープだ。
「次はやはり、このチャーシューだな」
「おう」
チャーシューは別名豚。
本当は豚ではなくてオークだが、豚ということにしてある。
「これもいいな。やわらかいな」
「ああ。3時間煮込んだものだ」
口に含むとくずれるくらいだ。
おっと、あれをやるか。
「これは、こうしないとな」
野菜と麺を入れ替える回転だ。
これがいかにスムーズにできるかで、太郎系ラーメンにどれだけ通っているか分かると言うものだ。
麺が伸びるのを防ぐためには、この技を使わない手はない。
「これでじっくり味わうとするか」
麺を一度、野菜と豚の間に沈めて、すする。
「うまいぞ。うまいぞ」
こうなると、止まらないな。
一気に喰いまくる。
「ふぁー、うまかった」
「そうだろう」
「この店、アンテナ店じゃないのか?」
「分かるか?」
俺も聞いたことがある。
新しい店を出すとき、一卓しかないところで有名人に味見させる。
そこで評価されたら、開店をする。
もし、批判されたら、やり直しになる。
店長になる予定の人にとっては、すごく緊張すると言う話だ。
「この店は成功するぞ」
「本当か?」
「もしかして。お前がやるのか?」
「ああ。オーナーは俺だ」
「すごいな。独立だな」
微妙だな。
もう勤め人はやっていないから、独立なのか。
「いつの間にそんな準備していたのか」
「最近だな。この店の準備は」
「すごいな」
俺よりこの友人の方がずっと起業の勉強をしてきたからな。
独立の大変さはよく知っているのだろう。
「店を借りるのにも、仕入れするのにも、人を雇うのにも。金がいるな」
「あー、まぁ、そうだな」
店は狭間の部屋に作るから、無料だな。
せいぜいテーブルとかの費用だけだ。
仕入れは主に異世界だから、金貨があればいい。
人もスラムの少女たちを使うから1日大銅貨1枚。
百均の商品が大銅貨5枚に化けることを考えると、ほとんど金がかかっているとは言えないな。
「だが。太郎ラーメン全店を制覇した私でも、その味は未経験だった。圧倒的な味だ」
「そこまでか」
「ああ。私にとって、ベスト太郎ラーメンだった」
もちろん、友人としてひいき目はあるだろう。
しかし、まずいラーメンには容赦がない奴でもある。
本当にうまいと判断したのだろう。
「正式に開店になったら、招待するよ」
「仲間内に宣伝してやるよ。10人くらいは動くはずだ」
そういえば、太郎ラーメンの会に入っているって言っていたな。
うん。
開店のときのお客さんは、なんとかなりそうだ。




