第44話 魔導書の量産計画
「これが先ほどの紙が500枚です」
「なんと! こんなに薄いのか。500枚もあって」
500枚入りの包みを手渡すと驚いていた。
たしかに羊皮紙となると、これほど薄くはならないな。
「重さはずっしりくるな。しかし、それでも羊皮紙の本と比べると軽すぎる」
「まぁ、そうですね」
コピー用紙と羊皮紙では性格が全然違う。
本来比べるものではないのだろう。
「160ページの本なら、この紙を半分にして裏表で40枚で1冊です」
「そうなるな。表紙を別とすればな」
この世界の本は表紙は皮を使った豪華な物が多いらしい。
ハードカバーの本ってことだな。
「それで、何冊分必要なのでしょうか」
「まずは20冊分だから、400枚だ」
20冊も必要なのか。
どんな本を作ろうとしているのかな。
「何の本を作るんですか?」
「……いわんといけないか?」
「そんなことはないんですが。もしかしたら、他にもお手伝いできるかもしれませんし」
細身男はじぃーっと俺の顔を見つけている。
何かを探ろうとしているのか。
「分かったよ。話すとしよう」
なんと、彼が作ろうとしているのは魔法の本だと言うのだ。
それも基本編ではなく中級レベルの本だ。
「本来、中級魔法の本は1冊で金貨10枚もするのだ」
「それは高いですね」
「ああ。だから、買えるのは貴族か市民でも金持ちな人間に限られる」
「そうでしょうね」
細身男はいかに中級魔法の本が高いかを強調している。
だが、俺はほとんど聞いていなかった。
何と言っても魔法だぜ!
確かにライターを見せた時、小さな火を出す魔法を見せてもらった。
でも、そんなのライターがあれば同じことができる。
それに比べて、中級魔法がどんなことができるのか。
そう考えるだけでワクワクする。
「すると、あなたは魔法使いなんですか?」
「あー、名乗ってなかったな。私はライセンスBの魔法使いのルモンドだ」
「あー、やっぱり!」
ライセンスBってことは、Aの下ってことだろう。
2段階目のライセンス。
それも中級魔法の本を量産しようとしているとなると、上級魔法も使えそうだ。
どんなことができるのか、気になって仕方ない。
「中級魔法に興味があるのか? 魔法が使えるようには見えないが」
「あ、俺は魔法は使ったことがないです。だからあこがれてまして」
「剣士系の烏髪ってことだな」
あー、別に剣士でもないが。
剣は持ったこともないからな。
「中級魔法の本が高い原因のひとつが、魔法ギルドの存在だ」
ルモンドの話によると、この街では魔法のことはほとんど魔法ギルドが仕切っている。
だから、中級魔法の本もすべて魔法ギルドが売買している。
それもギルドに所属しない者には特別高く売るなど、ギルド員かどうかで大きく差がつけられている。
「魔法ギルドは黄金髪の世界と呼ばれていてな、金髪以外はほとんど所属できないのが現状だ」
そういうルモンドも綺麗な黄金髪だが。
「魔法の潜在能力と髪色は関係ないのだが、魔法ギルドが金髪の者以外を拒否しているから、高度な魔法を扱えるのは金髪以外はほとんどいないのだ」
その現状を嘆いているのが、ルモンドをはじめ魔法解放派の人達らしい。
魔法ギルドに所属しているが、反主流なので制限が多いらしい。
「金髪以外の魔法潜在能力を持つ者たちに魔法を教えるためにも、安価な中級魔法の本が必要となるのだ」
「ぜひ、俺にも協力させてください」
すぐには無理だろうが、ゆくゆくはスラムのカラフル髪な奴らから魔法使いが生まれることにもつながりそうだ。
今、ルモンドに本を作る協力をすると、面白いことが起きる気がしてならない。
「それならまずは、紙を400枚売ってもらおう。あと、あの筆記具も欲しい。写しをするときに効率があがりそうだ」
「あの……写しをするなら、それも協力できるかもしれませんよ」
「何!? おヌシ、魔法文字の書き取りができると言うのか?」
あー、中級魔法の本は、魔法の文字が使われているのか。
こっちの文字は数字と簡単な言葉とか書けないな。
だけど、俺には強い味方がいる。
スキャナーとレーサープリンタという魔法道具だ。
読めない文字でも、そのままプリントできてしまう魔法道具だ。
「あの、つかぬ事聞きますが。魔法文字というものは、魔法が込められていたりしますか?」
「もちろん、魔法文字の中には魔法の力が組み込まれている」
「全く同じに写しをするだけで魔法の本になるのでしょうか?」
「それは当然そうなる。もしかして、写しの魔法が使えるというのか?」
「それは無理ですが、写しの魔道具なら用意できますよ」
「なんと!」
400枚の両面コピーなら2時間かからずにコピーはできるな。
スキャナで読み取る時間も入れて、そのくらいだろう。
「しかし、写しの魔道具となると相当高価で珍しい魔道具だ。本当に用意できるのか?」
「ええ。もし、写しまで出来たら、紙代も含めて、倍の値段でどうでしょう」
「そんなに安くていいのか? 魔法文字を読み書きできる者を使って2カ月くらいで仕上げるつもりだったのだが」
「写しなら、1日あればできますよ」
「!」
ルモンドの顔が驚きでいっぱいになった。
中級魔法の本がそんなに早く量産できるとは思っていなかったのだろう。
「本当にそれができるなら、もちろんやってもらいたいが」
「分かりました。すぐに準備にかかりましょう」
スキャナとレーザープリンタを使った印刷など、異世界においては相当チートな物だろう。
もしかしたら、とんでもないことが起きるかもしれない。
しかし、高度な魔法が使えるルモンドに恩を売ることができるなら、良しとしないといけないだろう。




