第37話 天使とカラスの意外な関係とは
「おはよう」
「ん? おはよう、ソフィ」
昨日から彼女のことはソフィと呼ぶようになった。
俺の事はヒロキ、な。
ソフィがそうしたいって言うからさ。
俺もより恋人同士ぽいから喜んで了承した。
「ヒロキさん」
「そうじゃない、違うだろ」
「あ。ヒロキ」
そう、お客さんと娼館の娘じゃなくて、恋人同士。
そういう設定にしているから、さんはいらない。
「チュウして」
「もちろんだ」
朝から濃厚なチュウをした。
そしたら、さわさわしてくる。
そんなことしたら……我慢できなくなるだろう!
ってことで、またしてしまった。
恋人同士だから、何度してもいいんだけどな。
「ね。ヒロキってどこで生まれたの?」
「遠い、遠いとこさ」
「ね。本当のこと教えて。恋人同士でしょ」
確かにな。
みたこともない商品を売っていて、食べたこともない料理を知っている。
謎が多すぎるからな。
そうか、恋人なら嘘は言えないな。
「本当のことを言うよ」
「うん」
どう思うんだろう……本当のことを知ったら。
「俺はこの世界の人間ではないんだ」
「どういうこと?」
「別の世界から来ている。異世界人さ」
「もうしかして……勇者ってこと?」
あれ? ある意味通じたみたいだ。
こっちの世界でも異世界人は知られているのか。
「勇者じゃないさ。ただの人さ」
「ううん。きっと勇者よ」
「うーん、勇者か。俺には無理かな。冒険者になって魔物と闘うのも怖くてできないからさ」
「いいの、ヒロキは。魔物とか魔王とか。そういうのと戦うだけが勇者じゃないと思うの」
「どういうこと?」
やっぱり、勇者は魔王を倒すって設定が普通なのね。
物語に出てくるのかもな。
「ヒロキはね。きっと、この世界で大きなことをするために来たの」
「そうなのか?」
「だって。昨日だって、特権階級のシェフをスラムのおばさんが負かせたのよ。そんなのありえないわ」
「たまたまさ」
「ううん。きっとヒロキはこの世界を新しくするの」
「うーん。大変そうだな」
「誰もが幸せに暮らせる世界にしてくれるの。一部の特権階級だけじゃなくて」
確かにな。
日本から来た俺にとって、この世界は差別が大きすぎる。
差別という意識すらない。
金髪の欧米顔をした一部の人間が、好きに生きていて。
それ以外の人達は、その特権階級を支える役目だとしか思っていない。
特権階級の人だけでなく、スラムの人達もそう思っている感じだ。
俺からすると違和感がある。
「ヒロキは勇者じゃなくて天使なのかも」
「おいおい。今度は天使かよ」
「そう。何もかも見ている天の使いの天使。ただいるだけで、みんな仲良くなってしまう」
「俺がそうだって言うのかい」
「そうなの。昨日のシェフを見ていて思ったの」
「何を?」
「スラムおばさんに負けたシェフは最初は悔しそうだった。でも、スラムを出るときは優しい笑顔になっていた」
あー、そうかもな。
新しいスープを手に入れたシェフは確かに優しい笑顔になっていたな。
「特権階級とスラム人は、混ざりあうことができないの。そう決まっていると教会の人は言うわ」
「そんなことを教会が言うのか」
「そう。金色の髪を持つ人は、天に一番近い存在だって。だから人々を導く役割を持っているんだって」
「じゃあ、カラスのように真っ黒な髪の俺は、悪魔の使いじゃないのか?」
「なんで?」
「カラスって、不吉な鳥だろう」
「何、いっているの。カラスは人間に一番近い鳥だわ。天からのメッセンジャーだって教会も言ってるし」
うーん。
いろいろと常識が違うみたいだ。
黒髪は不吉ってイメージはないのはいいな。
髪の色で珍しがられても、嫌われることはないようだ。
「ヒロキが天使だって思ったのも、カラス色の髪だっていうのもあるの。天から遣わされた人ぽいじゃない」
だから、天使じゃないって。
真面目に仕事をするのをやめた堕天使かな。
「うん。まぁ、天使がどうかはまだわからないな」
「そうよ。きっと、いつかはみんな、ヒロキは天使で勇者だっていうはずよ」
「そんな天使候補生の俺は、今日やることがあるんだ」
「何?」
「お風呂を作ることだ!」




