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第六十九話「悪に立ち向かい」

 私は血相を変え、シャークスの元へと駈け出すが、彼の背後から剣を振り下ろす兵士の止めに間に合わない!

 

「シャークス!!」

 

 せめてもと最後の叫び声を上げた!

 

 ―――!?

 

 微かにシャークスの顔が後ろへと流れた瞬間、彼は自分の躯を後ろへと回転させ、同時に足を上げて後方にいる相手を蹴り上げ、宙へと吹っ飛ばした!!

 

 ―――ひょぇ!見事な蹴り技!後ろにも目があるの!?

 

 一瞬の出来事に、私はポッカーンとする。

 

 ―――ドサッ、ズサササッ―――――!!

 

 シャークスからクリティカルヒットを受けた兵士は痛々しい物音を立て、無様にのたれ落ちた。その様子に、シャークスが前方で相手をしていた兵士達は呆気に捉われており、その隙を狙ってシャークスは次々に剣を突いて行く!

 

 剣を大きく振るい被り、一人の兵士の懐へと入り込み、剣を掬い上げる。続いて次の兵士に向かって、全身を横に旋回し、捻じ込んだ躯は相手の脇腹を目掛けて剣を突き刺した。

 

 そして突進してきた残りラストの兵士には、その場から跳躍をして、宙で躯を翻し、相手の後頭部へと剣を入れる。兵士達はそれぞれ苦痛の声を漏らし、バタバタと倒れて行った!

 

 ―――す、凄すぎる!なんちゅー身の熟しなの!

 

 自分を相手していた兵士と決着をつけたシャークスは休むも置かず、ザクロやクローバーさん達の応戦へと向かった。見ている限り、私の手はいらないようだ!ほのかに勝利への余裕が見えてきた時だった。この場か離れようとする大司教とパナシェさんの姿を目にする!

 

 ―――まさか逃げる気!?

 

 私は無意識に彼等の元へと走り出した。逃してたまるか!今までの事や私達にしてきた悪事を民衆の前で暴露させるまでは!

 

「待ちなさいよ!」

 

 私は大司教とパナシェさんの背後に向かって叫ぶ。そしてすぐに彼等前へと立ちはだかる。

 

「のこのこ逃げるなんて、そんな事、絶対に許させないから!」

 

 ここでコイツ等を逃したら、私も大罪だ!私は絶対に逃さんとばかりに、両手を大きく広げて、2人を威圧する。そんな私を見てパナシェさんは鼻で笑い、

 

「騎士の端くれが生意気な!貴様如きの叶わぬ夢に、高尚な我々へと向かうとは、この身のほど知らずが!そこをどけ!」

 

 罵声を上げた。聖職者ならぬ荒々しい姿に、私は一瞬怯んだけれど、それでも言う事を聞いてたまるか!アンタ達の身分からしたら、私はチンケな存在かもしれないけど、個人の夢まで蔑まれえる覚えはないわ!

 

「どけと言われて誰がどきますか!民衆の前できちんと悪事を懺悔するまで、私は這いつくばってまでも、どく気はないんだから!」

 

 パナシェさんの言葉に、私は即否定を投げつけた。それに一層、恐ろしい面差しを深めるパナシェさんは…、

 

「!?」

 

 礼服の中から長剣を取り出した!あんなん中に隠し持っていたっての!?

 

「ならば貴様の命を奪うまでだ!」

 

 殺気立てたパナシェさんは私へと剣を突き出す!殺意を抱いたその表情は本気でろうとしているのがわかる。激しく脈打つ心臓に躯は戦慄し、汗が滲み出る。

 

 ―――今、コイツ等を止められるのは私しかいないんだ!

 

 覚悟を決め、私は近くに落ちていた大剣を手にする。初めて持つ剣は今の私には分不相応に重みがあった。だけど、これで身を守らなきゃ!私はギュッと取っ手を握りしめ、パナシェさんと剣を向け合う。

 

「剣を交える前に、一つ伝えておいてやろう。私を聖職者が故、戦いを知らぬと思っているのであれば、愚かな考えだ。なにせ私は聖職者の前は騎士であったからな」

 

 ―――な、なんですって!?

 

 聖職者だろうが騎士だろうが悪い事には無縁の職業じゃない!どちらに対しても泥を塗る最悪な人間だ!いや悪魔だ!確かに、パナシェさんの構えにはまるっきし隙がない。でもまさかの元騎士だったとは!私の緊張は最高潮に上がり、動悸と震えが高まる。

 

 そして、ついにパナシェさんは私へと向かって疾走する。私は取っ手に力を込め、彼の出を待った!私の前まで来た彼は剣を容赦なく振り下ろす!

 

 ―――シャキーン!!

 

 私もやられまいと大剣を交わすと、鋭利な音が響いた。初めての剣の交わりに、動揺が隠せない。でも押されまいと渾身の力を込める。

 

「くっ!」

 

 パナシェさんからの力が強まるが、私は踏ん張りの声を上げ、必死で跳ね返そうとする。そんな私の抵抗に、パナシェさんが一度剣を離した。

 

 一瞬の安堵感を抱いたけれど、次の瞬間には再び剣が振り落される。それも全身へと目もくれぬ速さで突く乱撃だ!次々に角度を変えて突き付けられる剣に、無我夢中で交わす。

 

 ―――シャキンシャキンシャキンシャキンシャキーン!!

 

「これは思ったより、騎士の素質があるかもしれぬな」

 

 剣が交わる中、パナシェさんから話しかけられる。さっきの言葉褒めているの?

 

「しかし、残念だ。その夢も叶わぬ内に、この世から去るのだから」

 

 断定的な言い方をしてきやがった。まだ私は死ぬと決まったわけじゃないっての!私はカッとなった勢いで力が籠り、パナシェさんの剣を払い退ける。彼から剣が離れたわけではなかったけれど、ある程度の距離が出来たのだ。

 

 これ以上、剣を交えても、私の体力が消耗してられるのは時間の問題だ。今の腕力ではパナシェさんに剣を当てる事は出来ない。私は一瞬で閃いた考えを実行する事に決めた!

 

 そして後ずさりをし、パナシェさんとの距離を空けた後、私はすぐに彼に向かって驀進する。彼との距離が半分まで来たところで、思いっきし地を蹴って前へと宙返りをする!力が劣るのであれば、勢いの力で攻めるしかない!

 

 回転し終えた私はパナシェさんに向かって、剣を上から振り下ろした!彼は目を大きく見張って私を見上げていたが、刹那、顔の前へと剣を盾にする。次の瞬間!

 

 ―――ギギッ!!

 

 剣の交差する音がして、そのままパナシェさんは後ろへと押され倒れ込んだ!剣と共にかかった圧力は私の体重ごとお見舞いしたのだ!そうそう持ち堪えられる筈がない。が、私も共倒れとなってしまった!

 

 ―――ドッダ――――――ン!!

 

 運が良い(?)事に、パナシェさんが私の下敷きになってくれた為、私の衝撃は最小限で収まった。多少の痛みを堪え、私は彼から躯を離して立ち上がる。

 

 パナシェさんは打ち所が悪かったのか、はたまた衝撃が強打すぎたのか仰向けに倒れたまま動かなかった。我ながらよく頑張った!宙返りはシャークスを模範にしてやってみたのだ。もう自画自賛!しかし、喜ぶのも束の間…。

 

「娘、お遊びはそこまでだ」

 

 ―――え?

 

 嫌な予感が横切る。反射的に声を耳にした前方へと目を向けると…?エキストラ王の背後から、王の首元へと剣を突き付ける大司教の姿があったのだった…。


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