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第五十三話「姿を現した人物とは…」

 人の気配を感じる。まぁ、出入口の扉は壊れているから、「相手」は警戒しながら入って来るだろう。相手から見ると、私は背を向けた状態で縄を縛られ(たような見せかけ)、横たわっているように映るだろう。それはあくまでも「フェイク」だ。……そう、相手をとっ捕まえる為の。

 

「何処に…いる?」

 

 背後から弱々しい声が聞こえた。思ったより気弱な人物なのだろうか?演技といえど、この状況に緊張は高まり、心臓がバクバクとしていたが、今の声を耳にして、少しばかり緊張感が緩んだ。もっと恐ろしい相手を想像していたもんだから。なんせ、私をかっさらうよう命令したヤツかもしれないんだもの。

 

「いるんだろう?例の物を持ってきた」

 

 相手は思い切ったように、部屋の奥へと足を進めて来た。そこに……?

 

「ここだ」

 

 別の声が入る。その声の主は……。

 

「うぁぁああ!!」


 突然悲鳴上がり、そしてドスンッと、鈍い音が響いた! 私は急いで立ち上がって振り向くと、見事シャークスに取り押さえられている一人の男が目に入った!

 

 素朴で気弱そうな人だ。まさかこの男がウィリアムズとチャールズをそそのかした人物じゃないよね?外見からではお金と人さらいの交換を持ち出すような人には見えなかった。

 

「なんだ、貴様は!放せ!」

 

 男は必死でもがいていた。シャークスは相手をうつ伏せにした後、男の両手を後ろへと回し、動きを封じる。

 

「放して欲しければ、こちらの問いに素直に答えてもらおうか。ここにはなにしに来た?」

「なんの話だ!」

 

 シャークスの質問にキッと男は睨み上げ、抵抗する姿勢を見せた。

 

「早く答えろ」

 

 至って冷静に問うシャークスの厳かな姿に、男は焦り始める。

 

「わ、わかったよ!ここに女のコが倒れているから、様子を見に行くよう言われたんだ!」

「様子を見に行くように言ったヤツは誰だ?」

「知らねーヤツだ!ただの通りすがりの野郎だよ!」

 

 男は観念したように答えた。

 

「いっててててぇ!」

 

 悲痛の叫び声を上げた。どうやらシャークスが押さえつけている男の腕に、圧力をかけたようだ。

 

「助けに来た者に“例の物を持ってきた”はないだろ?なにを渡そうとしていたんだ?」

「そ、そんな事言った覚えはねーし、それになにも渡そうとしちゃいねーよ」

「そうか…」

 

 男の答えにシャークスはいきなり相手の躯を翻し、自分と向き合わせにさせる。

 

「ひぃいいい!!」

 

 さらに男は雄叫びを上げた。何故ならシャークスが男の顔間近に、鋭利な長剣を突き付けたからだ。

 

「もう一度だけチャンスを与えよう。ここには誰の命令でなにをしに来た?」

「っ…」

 

 男は苦渋の表情をしていた。でも一向に口を開こうとしない。自分を命令した相手を庇っているのだろうか?

 

「仕方ない。口を開かぬとなれば、ここでせいを終えてもらおう」

「え?」

 

 そう言葉を落としたシャークスは、まるで人としての色味を失った死神のように恐ろしかった。そして、そのまま長剣を男へ向かって振り落とし?

 

「ちょっ!シャー……」

 

 咄嗟に私は止めにかかろうとした。

 

「うわぁぁああ!!」

 

 男は狂ったように叫び声を上げ……ると、懐から「なにか」を落とした。それはシャークスが剣の先で、器用に男の懐の中から落とした「小袋」だったのだ。

 

「?」

 

 私が不思議そうに小袋を見つめていると、

 

「スターリー、中を開けてみて」

「え?」

 

 いきなりシャークスから促されて、キョトンとしてしまう。

 

「落ちたそれだよ」

「あぁ」

 

 彼の言う意味を理解した私は素直に小袋を拾い上げた。

 

「人の物を勝手にやめろ!…ひぃぃぃ!!」

 

 男が罵声を上げたけど、シャークスから剣を突き付けられ、大人しくなる。その間にも私は小袋の紐を開けて、中身を取り出してみると…?


「あ!」

 

 思わず声を上げる。

 

「お金だ。凄い金額」

 

 束ねられた厚みのあるお札に驚愕する。普段一般人が持ち歩く金額にしてはとても多すぎる。

 

「人の物だ!勝手に触るな!」

「取引の金というわけか」

 

 明らかに動揺している男に対して、シャークスは冷静に言葉を返す。

 

「なんの話だ!これはオレの金だ!」

「300フォーランか。取引の金額と同額だ。言っておくが貴様は取引をし損ねている。金を渡す筈の相手は既にこちらで拘束しており、娘はこの通り自由の身だ。貴様に指示した人間は、この状況を免じるだろうか」

「へ?」

 

 シャークスの脅しに近い凄絶な気迫と重々しい内容に、男は目をパチクリとさせ、なんとも言えぬ間抜けな顔を見せていた。

 

「もしかしたら、ローゼンカバリア女神の天罰が……」

「ひぃいいい!!そ、それだけはご勘弁を!」

 

 男は躯を丸めて伏せ、頭上に手を合わせて懇願する。男が過剰に恐れているのはなんだ?それにまた「女神の天罰」、やたら今回の事件に名が出てくるな!

 

「ローゼンカバリア女神は人間に天罰など与えはしない。しかし、そんな発言をした愚弄者に真の天罰が下るだろう」

「な、なんだその言い方は!あの方は!」

 

 シャークスの言葉に、男は身を乗り出して抗議をする。「あの方」って?

 

「愚弄者の片棒を担いだ貴様も死ぬまで天罰が与え続けられるだろう」

「ひぃいいい!!」


 言葉だけでも十分恐ろしいのに、さらにシャークスは男に剣を叩きつけていた。そして彼は最後の審判を下した。

 

「ただし、貴様が愚弄者の手を拭えば、すなわち愚弄者の悪行を明かすのであれば、ローゼンカバリア女神は差し許すだろう。このまま己の失態を持ち帰り、愚弄者からの制裁を味わうか、もしくはオレ達に救いの手を乞うのか、好きは方を選ぶがいい…」


「フォーラン」とは、スターリー達世界のお金の単位です!万券と一緒だと思って下さい!

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