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学園のアイドル「じゃない方」の女の子と友達になった俺は、彼女の見た目が偽装であることを知っている  作者: 滝藤秀一


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解けない謎

 菊地と別れ、そのまま家に帰ると明かりもつけずにソファへ座り込む。

 時折額をたたきながら、最近の違和感の正体を今一度思い出していた。


 佐久良舞。


 唯さんの妹の行動は思い返すとおかしなことばかりだ。

 舞さんは人気者ゆえの経験則もあり、対策もあるはず。

 現に以前の嫌がらせの件では出し抜かれている。


 それなのに――


 今回の体たらくはなんだ。

 唯さんを、お姉ちゃんを心配していたから思考が滞っていたにしても、腑に落ちない点が多すぎる。


 男子生徒に告白された時も、付き合う相手の条件提示よりももっと上の対策ができたはず。

 黒板の悪口では、クラスメイトの犯行の線は薄いとわかるはずなのに、他クラスや先輩たちの存在を気にかけてもいる素振りはなかった。

 無言電話の時は、身近にいて、電話線を抜いておけばとりあえずは大丈夫なのにそれすらしていない。


 それにみんな罠にかかっていたのに、彼女だけは分断されずにあの場に一緒にいた。

 何かあると気づいていたのか、もともとの描いたシナリオ通りだったのかはわからない。


 まさか最初の嫌がらせを見事に解決して見せたのは油断を誘うためか。

 味方であると錯覚させて、その後から裏では……。


「い、いや、あくまでそれらは想像、推測に過ぎないことだ。でも……」


 他人に唯さんと思わせ、裏で動ける人物が佐久良舞さん以外にいるだろうか?

 一卵性の双子だ。ちょっと知ってるくらいじゃ見分けがつかないほどに演じることは彼女にとってみれば造作もないだろう。


 どんな理由があるのかなんてわからない。

 わからないけど、黒板の悪口。

 あれは男子生徒を誘惑して、その子に好意を持っていた女の子の感情を逆なでして、我慢ならなかった彼女らを動かした結果。

 そもそも唯さんは挨拶以外の行動をしていないのに、言い寄ってきていた男子生徒の反応もおかしかった。


 裏で動いていたのなら、全部つながるんだ。


 だからってどうする。


 唯さんにもしかしたら妹がなんて、そんなこと言えるわけがないじゃないか。

 そんなことをしたら、俺たちみたいに……。


 胸が一段と苦しくなり、険しい表情でそれでも何かいい案はないか考えていると、玄関のドアが開いた気がした。

 妹の由加が帰って来たらしい。


 部屋を真っ暗にしていたため、俺がいるとは思わなかったのだろうな。

 明かりがつき、俯いた顔を上げれば心底驚いた由加と目が合う。


 いるならいるといえよという勢いで踵を返し、階段を大きな音を立てて上って行った。

 妹のむっとした顔を思い出しながら、やっぱりこの謎は俺が解いてはダメだと心に刻んだ。



 ☆☆☆



 翌日、梅雨を思い出したように空はどんよりとした雲がかかっていた。

 まるで俺の心を表しているようだ。


 久しぶりの1人きりでの登校。


 いつ以来だろうか。

 最近は唯さんたちと待ち合わせてがほとんどでそれが当たり前になっていた。

 だからか、こっちが普段通り、元通りなのにやけにさみしく感じる。


 内心は唯さんがもとに戻っていないことを期待していた。

 それならばまだ光がある。

 なんとかできるかもしれないって希望も生まれるだろう。


 だがしかし、教室に入りその姿を視界にとらえると、思わず鞄を強く握りしめる。

 無情にも唯さんは本当に元に戻っていた。


 三つ編み、分厚い眼鏡、昨日までとは違い、その表情すらどこか薄暗くなってしまっているように感じる。


「おはよう」

「お、おはようございます」


 隣の席に座り、挨拶すれば最初に戻ってしまったように口ごもった挨拶が返ってくる。

 それは元の自分をまるで演じているかのようだ。

 周りを見回せば、昨日までは傍にいた陽キャさんたちも今日は遠目から唯さんを見つめていた。

 一連の騒動のあとということもあるのだろう。

 みんな察しが良さそうな子たちだし、唯さんの気持ちを汲んでるのかもしれない。


 でも――


(な、なんだよこれ……)


 これじゃあ本当に元通りじゃないか。

 思わず唇を噛みしめてしまうが、もう俺にはどうすることも……。


「樋口君、いや敬大君、おはよう」

「っ! お、おはよう……あ、明るいなお前」


 ふさぎ込んだように下を向いていると、菊地が登校してきた。


「そうかな……昨日は相談に乗ってくれてありがとう。おかげでだいぶ吹っ切れたよ」

「そ、そりゃあ何よりだけど。ちゃんと覚悟はしておけよ。同年代の子はお前を応援してくれるだろうけど、相手は先輩たちだ。全部うまくいくとは限らない」

「わかってるけど、でも、何があっても君だけは絶対に味方してくれると思うから」


 それは俺にではなく隣の唯さんに向けて言っているようにも思えた。


「あんまり俺を買いかぶると、馬鹿を見るかもしれないぞ」

「そのときはそのときさ。君なら友人や知り合いがピンチに陥ったときに、絶対に味方してくれる、はずだよ。意見をくれた君を僕は裏切れない。まだ短期間の付き合いだけどさ、それでも君がどういう人なのかはわかってるつもりだからね。信用するには十分」

「……」

「小さいころから姉にね、自分のことよりも他の誰かを優先する人がいたら、絶対に友達になりなさい。あなたもそういう子でいなさいって教えられたんだ」

「そりゃあほんとにいいお姉さんだな」


 顔を伏せている唯さんを見ながら、俺は菊地のお姉さんのことを称賛した。

 唯さんはといえば、がたっと席を立つとそそくさと廊下に出ていく。


「ごめん……言い過ぎたかな。僕なりに何とかしようとしたんだけど……」

「いや、大丈夫だと思う……ありがとう」


 俺もこのままにはしておきたくはない。

 それでも、体が縛り付けられたように踏み込んでの行動は躊躇いがどうしてもある。

 本当にどうすればいいのかがわからない。

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― 新着の感想 ―
何をどうしたところで一度変わったものは元には戻らない。唯さんは変わろうとして駄目だったというを傷を抱えているのだから。それならせめて良い方向に変えるしかない。
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