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学園のアイドル「じゃない方」の女の子と友達になった俺は、彼女の見た目が偽装であることを知っている  作者: 滝藤秀一


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☆寄り道

 樋口君に一言声をかけて、私は廊下へと出る。

 舞を含めた明るい女の子のグループは遠目からみてもいつも楽しそうだった。

 世間では、彼女たちのことを陽キャなんて呼ぶらしい。


 私ごときがほんとにおこがましい。おこがましいことだけど、



 その中に入ってみたいと前から思っていた。



 でもコミュ障で暗い私がそうなるのは夢にも等しい現実。

 誰にもその心の内を吐き出すことなんてない。

 そう思っていた。なのに……。


 序盤は参加すらできずに迷惑をかけてしまったけど、夏妃さんのおかげでそこそこ活躍できたマダミスのイベント終わり、なんだかそこにいるのはいつもの自分じゃない気がした。

 それまでもマダミスは自分じゃない誰かを演じる。

 体験出来てると感じたことは何度もあった。

 でもオフラインのイベントはいつも以上にそれを感じられたのかもしれない。


 緊張しない方法が分かったというのも大きい。

 普段は被り物を被るわけにはいかないけど、緊張してきてしまったら、周りの人を林檎だと思うように意識し、それは出来るようになった。

 だからだろう。

 高校デビューしたかったって、本心を心の内をつい二人に曝け出してしまったのは……。


 傍にいたのが二人じゃなければ、身をわきまえなよってきっと笑い話になっていたはずだ。


 でも、樋口君と夏妃さんはこんな私を応援してくれている。


 今日だって夏妃さんが、樋口君が傍にいると思ってどこか安心していた。

 樋口君のことだ。本当にいざとなったら助けてくれるだろう。

 その安心はここからの寄り道の時間はもうない。


 教室にいる樋口君との距離が遠ざかるだけで、気を抜くと不安に飲みこまれそうだ。


 彼の大丈夫と楽しんできてという言葉が今も耳に残っている。


『うまくやれました』

『大丈夫でした』

『楽しかったです』


 そんな報告を2人にちゃんとしたい。


「んっ、どうかした唯っち」

「い、いえ、寄り道が楽しみだなあって思って」


 意識的にスイッチを切り替える。

 理想の子になりきって、それが本来の自分だってなるように行動するだけだ。



 ☆☆☆



 目的地は駅前近くのショッピングモール。

 平日でも大勢の人が利用していて、この時間は私たちみたいな学生も多い。

 映画館や大きな書店も併設し、人によっては1日中時間をつぶせるだろう。


「唯っちもたまに来るの?」

「は、はい。よく本屋さんに……」


 最近は舞とも出かけていないし、買いたい本があるときだけ書店のみを目的にやってくる。

 どんなテナントが入っているのかはこういう時のために知ってはいるものの、1人でお店に入ったりはしてきていない。

 フードコートなどというものも存在は把握しているが利用する機会は皆無だし。

 というか、ドーナッツ1つ注文するのも恥ずかしくて行きたくても行けていないのが現状。


 ス〇バは1階と2階にある。

 2階の方は最近オープンしたばかりのはず。

 私からしてみれば、そのカフェはおしゃれで、出来る人が集う異空間。


 こんな機会がなければ一生行く機会ちゃんすなんてないかもしれない。


 どっちに行くのかな? 舞は新しい方に行きそう。

 だけどいつも利用しているのが1階の方のお店ということも……。

 そんな風に考え自動ドアを抜けたら、みんなは何かに気が付いたようにぞろぞろと違う方向に向かっていく。


(あれ、ス〇バは逆方向なんじゃ……)


「うはっ、今日ネイルシール体験やってるじゃん」

「女の子たるものここは体験してみないと、ネイルって大人な感じするよね」

「全く……ちょっとみんな、今日はお姉ちゃんもいるのよ」

「ちょっとだけだから。唯っちもやってみたいよね……?」

「ね、ネイル……や、やります」


 咄嗟に言ってしまったもののやったことはない。

 舞が読んでいる雑誌で特集記事を見たことがあるだけだ。

 その時はする機会はないと思っていたけど、興味がないわけではなかった。

 皆さっそく各々ネイルをつけ始め、楽しそうだ。

 私もと思い、体験し始めたもののなぜかうまくつけられない。


(あれ……こうかな……んんっ!?)


 爪の形もちゃんと整えたし、爪の油分も落としたのに。


 周りの人たちを見てもそんな人は私だけで焦ってきてしまう。

 こんなはずじゃ。これじゃあ二人にいい報告なんてできない。


「お姉ちゃん、お姉ちゃんってば!」

「ま、舞……」

「お姉ちゃん落ち着いて」

「う、うん……」

「ほら、爪の表面がまだちょっと濡れちゃっているから、うまくつかないんだよ」

「そ、そっか……」

「焦っちゃだめだよ。ちょっと緊張もしちゃって来てるでしょ。みんなクラスメイトなんだし、お姉ちゃんなら大丈夫だって。ほら、今度は上手くついてるじゃん」

「おお、ゆいっちのそれいいじゃん」

「は、はい!」

「あとは爪やすりで丁寧に削って完成」


 上手く出来ないところを、舞に助けてもらったおかげでなんとかなった。


 ちょっと気になったネイルシールを購入して売り場を後にする。

 今度お休みの時に出かける機会があればつけてみよう。

 そんな前向きな気持ちになっていた。


 上手くやれたとはとても言えないけど、失敗ってわけでもないよね。

 あとはス〇バの新作を楽しくおしゃべりしながら飲んで帰るだけ。

 そう思って油断していた。


「うわっ、見てみて水着コーナー出来てる」

「もう夏近いもんね」

「今年は新しい水着買いたいなあ。お姉ちゃんも一緒に見てみよ」

「……う、うん……」


 言葉とは裏腹に動揺を隠しきれない。

 どうやらまだス〇バにはいきつかないみたいだ。

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― 新着の感想 ―
フォローもあってか、唯さんが自分で思っている以上に上手くやれてる感はありますね。
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