52:ボス属性→再会の予感。
「クソッ、クソッ、クソッ! どいつもこいつも役立たずめ! なんで俺には奴みてぇに、強ぇ手下がいねえんだっ」
本アジトへと引き返す道中、鈴木は荒れに荒れまくっていた。
こんな時、下手に近づけば八つ当たりされることを部下たちは知っていた。時には重症では済まないことも。
それでも鈴木の元を離れられないのは、彼らが真っ当な人間ではないから。
鈴木に出会う前、既に罪を犯し、お尋ね者となった連中がほとんどだった。
そして――鈴木と出会ってから、何故か彼に従いたいという感情を抱いたからでもある。
それこそ鈴木に贈られた『ボス属性』だった。
「ちっ。このスキルにはモンスターを従えさせる効果はねぇのかよ。クソが!」
スキルの効果は、持ち主と同じ属性を持つ人間に対し、無条件でカリスマ性を発揮すること。
そして、従える部下が増えれば増えるほど、持ち主を強くするというもの。
(百や二百じゃ足りねえのか……クソ。もっとも。もっと人を集めねぇと、渡錬は殺れねぇ)
手っ取り早く従う者を増やすのなら、奴隷がいい。
だが奴隷を買うにしても、金がない。
部下が増えれば、それに合わせて出費も増える。
「もっと金が要る」
「え? じ、じゃあ、ゼザーレ聖国か聖法国シュットランに行きますか?」
部下の一人がそう尋ねた。
盗賊と言えば、街道を行き来する者を襲って金品を奪うのが定番。
しかし、この滅びかけた世界では空気が汚染され、土地神がいる里から出るものなどほとんどいない。
たまに他所の里へ物々交換するため荷車が通ることはあるが、積み荷はほとんど食料だ。衣類なんかもある。
盗んだところで、自分たちで消費するようなものばかり。
だが、大神の加護で守られたゼザーレ聖国と聖法国シュットランは別だ。
国内は魔素が浄化され、空気も澄んでいた。
そこでは庶民が暮らし、貴族が暮らし、王が暮らす。
だからこそ、街道はそれなりに賑わっていた。
良い荷物を奪えれば、金にはなるのだ。
「そうだな……前に行ったのはどっちだったか?」
「前は……ゼザーレだったか? なぁ?」
「う、うっす。ゼザーレでしたぜ、兄貴」
「どうします? こっからだとゼザーレの方が近いですが、立て続けだと衛兵に覚えられてるかもしれませんし」
鈴木は少し考えたあとシュットランへ行くと部下へ告げた。
だがその時だ。
彼らの前方に、こんな汚染地帯で見ることなど決してないような、豪華な馬車が止まっていた。
「あ? なんだありゃ。頭のおかしい貴族様でもいらっしゃったのか?」
ニヤりと笑いながら、鈴木は短剣を抜き、馬車へと近づく。
すると馬車の扉が開き、中から燕尾服を着た五十代ぐらいの男が出てきた。
「おい、てめぇ。死にたくなけりゃ、その馬車と中のもん全部置いて失せろ」
「お迎えにあがりました。鈴木尚人さま」
男はそう言って、恭しく頭を下げた。
「は? なんで俺の名前を……てめぇ、誰だ!」
頭を上げた男に向かって、鈴木がどかどかと歩いていく。その手には短剣を握ったままだ。
だが、男は臆することなく、顔色も変えず鈴木を見据えた。
「なんとか言いやがれ!」
鈴木は苛立ちを隠そうともせず、男の首筋に短剣を突き付けた。
そこで男の口がわずかに動く。
「委員長がお待ちです」
男の口から聞かされたのは、その一言だった。
一瞬、何のことだか理解できなかった鈴木だが、その言葉の意味を思い出す。
長い間聞くことのなかった言葉だ。それ故、言葉の意味を忘れてしまっていたのだろう。
ニタリと口元が歪む。
「そうか、委員長がねぇ。おい、案内しろ」
「そのためにわたくしめはここまで来たのです。部下の方々は申し訳ありませんが、あちらの荷車へお乗りください。罪人を捕らえた、という体でお願いいたします」
「わかった、好きにしな。おい、お前ら。捕まれ」
部下たちは一様に不安な表情を浮かべるが、鈴木の「大丈夫だ」という一言で、すっかり安心して荷車へと乗り込んだ。
実際に安心したのではなく、スキルによる強制力が働いただけ。
「なかなかよいスキルをお持ちでいらっしゃいますね、鈴木さま」
「だろ? で、委員長は元気なのかよ。他の奴らはどうした?」
「我が主の健康については、まったく問題はございません。他の方、がどの程度いらっしゃるのかわかりませんが、お一人だけ」
ひとり。はて、誰だ? と鈴木は首を傾げる。
まぁ誰でもいい。利用できる奴ならだれでも利用する。
前世ではクラスの委員長だった男を、鈴井はよく知っていた。
クラスの委員長であり、生徒会長だったクラスメイトだ。
表向きには、鈴木は委員長と対立していることになっていた。
生徒会委員長と不良グループのリーダーが、実は協力関係であったなんて誰も思わないだろう。
鈴木が暴れる。
委員長が注意をする。
起こった鈴木が委員長を殴ろうとするが、怯えることなく立ち向かう委員長。
そんな光景を見れば、周りの生徒は委員長に尊敬の念を抱くだろう。生徒会会長になるための、票集めもできるというもの。
そして鈴木は、委員長から報酬を受け取っていた。高校生が手にするには、なかなかの金額。
そのことを思い出し、鈴木は無意識のうちに顔をにやつかせた。
「委員長、今度は俺に何を頼もうってんだ。あぁん?」
滅びかけたこの世界でも、委員長は相変わらずあくどいことをやってるな――そんなことを考えながら、鈴木は馬車の窓から外の景色を眺めた。




