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転移した先が滅びかけ!?〜万能クラフトと解析眼で異世界再生スローライフ~  作者: 夢・風魔
2章

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31/33

31:砂糖→畑の拡張→アッパーカット。

「こ、これはなんだ?」

「ナンダ? ククククク」


 鬱蒼と茂った草――はもちろん野菜で、でもなんでこんな成長したんだ?

 蒔いた種はニンジン、タマネギ、トウモロコシ、それからジャガイモは種イモごと植えてある。

 だけど明らかに四種類どころか、十種類以上あるんじゃないか?


「解析眼――えっと、サトウ草? 砂糖の原材料? え、サトウキビってこと?」

「え? サトウ草があったの!? うわぁ、嬉しい」

「ん? レイア? どこだ?」


 声はすれども姿が見えない。


「きゃっ。志導くん、下、下にいるからっ」

「わっ。そんなところに」


 もさもさと伸びた野菜の根元に、猫のレイアがいた。

 何かの蔓に絡まっているのを、ユタが丁寧にその蔓を切ってやっている。


「うっかり踏んずけるといけないし、俺の肩に乗っててよ」


 と言って抱き上げ、肩に乗せた。


「う、うん。ありがとう、志導くん」

「で、これで砂糖が作れるであってる?」

「あ、そうっ。砂糖よ。作り方は簡単なの。絞り汁を少量の水を一緒に焦げないよう煮込んで、水分を沸騰させたら、お砂糖が残るの」

「ほほぉ。んじゃ、調味料ゲットか。他には――」


 500mlのペットボトルほどの太さがあるサトウ草。それに絡みついているのはキュウリだ。

 サトウ草をかき分けると足元にキャベツやカボチャが実り、行く手を遮るようにしてトマトとナス、ピーマンも見つけた。おっと、枝豆発見。これでビールでもあればなぁ。


「それにしても、なんでこんなことに……蒔いた覚えのない野菜もあるし」

「あー、そりゃあなぁ、わしらの足裏にくっついた土が原因だろうな」

「おわっ!? ア、アッパーおじさん。驚かすなよ」


 ほんっと、音もなくひょっこり出てくるんだもんなぁ。

 けどまぁ、納得だ。

 アーサ畑を歩き回ってたし、あそこの土に埋まっていた野菜の種がくっついて来たんだろう。

 収穫時期をとっくに終え、種を実らせ、土の上にその種を落とす。

 俺たちが気付かなかっただけで、あのアーサ畑にはたくさんの野菜が実っていたのかもしれない。

 

 それはまぁ、いいんだけど……。


「嬉しい誤算ではあるけど、さすがにこれは整理しなきゃな」

「そ、そうね。あと畑、広げた方がいいんじゃないかしら」

「だな。でもそうなると、ここじゃ土地が足りないなぁ」


 それぞれ二、三株ずつなら植えられるけど、それじゃあ足りない。


「いっそアーサ畑を耕すか?」

「ん~、それは止めた方がいいと思う。アーサの種がもういっぱい落ちてるだろうし」


 来年もアーサだらけになるのか……。それに、アーサも必要な植物だもんなぁ。


「ニーナ。どこかいいところはないか?」

『ん~……町の人たちの畑は、外周にあるですの』


 そう言ってニーナが石を持って土に絵を描き始めた。

 円を描き、真ん中に――『魔導装置ですの』といって小石を置く。そして円の中にもうひとつ、それより少し小さな円を描いた。


『建物があるのがこの丸の中ですの』

「外側の円は?」

『魔導装置の浄化とか、モンスター除けのキーンっていう効果がある範囲ですの。畑は建物と効果範囲の外側の間にあったです』

「ここからちょっと遠いな。まぁ歩いて十五分ぐらいだけど」


 それぐらいならいいか。






「悪いね、奥さん」

「いいのよ。その代わり、ニンジンの量を増やしてね」

「了解了解」


 畑。否、元畑の現原っぱを、またもや奥さんの手を借りて耕して貰っている。


「ん~……いつまでも『奥さん』って呼ぶのも不便だなぁ。名前とかないんですか?」

「ないわよ。名前をつけるなんてのは、人間や妖精族がやることよ」


 妖精族!?

 エ、エルフとかドワーフも存在するのだろうか。

 まぁいたとして、この世界じゃ出会うのも奇跡みたいなものだろうなぁ。


「そういえば、坊やに名前をつけたんですって?」

「坊や?」

「ユタのことよ。私たちね、ユラが卵を産み落とした後、彼女の体力が回復するまで面倒を見てあげてたのよ。だからユタのことも、孵化した時から知ってるわ」


 へぇ、そういう関係だったのか。


「私たちにも名前つけてくれたって、いいのよ」

「え? でも名前を付けるって、従属の意味だとか聞いたけど」

「にゃ。そういえばユタとユラって、ニーナが名前を?」

「クアッ。シドーダゼ。テヤンデェ」

「え?」


 信じられない――という顔でレイアが俺を見る。

 いやまぁ、知らずに成り行きで名付けただけだし。従属とか、そんなつもり全くないから。

 実際、ユタもユラも俺に従っている様子は全くない。


「ほぉほぉ。名前か。いいぜ、つけてくれ」

「おわっ。ア、アッパーおじさん。頼むから音もなく背後から首を伸ばさないでくれよ」

「なんでぇ。肝ったまの小せぇ男だなぁ。それで、名前はどうすんだ?」

「どうって。アッパーおじさんはもう名前あるじゃないか」

「んあ?」


 いや、アッパーって名前なんだろ?

 するとニーナがもじもじしながら『名前、違うですの』と。

 どういうこと?


『ア、アルパディカのおじさんだから、アッパーおじさん……です』


 名前じゃなく、省略しただけだった。しかもニーナがそう呼んでただけっていう。


「ほれほれ。名前だ、名前」

「いやでも……」

「わしとお前の仲じゃねえか。ほれ、ほれ」

「う……じゃあ……」


 今更アッパーを変えるのもなぁ。

 まずは奥様方の名前を決めよう。覚えやすい名前が良い。

 風属性の奥さんがアキ。

 土属性の奥さんがルナ。

 水属性の奥さんがパーラ。

 氷属性の奥さんがディア。

 火属性の奥さんがカーラ。


 みんな揃えるとアルパディカだ。うん。たぶん覚えやすい。

 そして問題はアッパーおじさんっと。

 アッパーは残すとして……名前と苗字、みたいにしてみるか?


 アッパー……アッパー……。


「ア、アッパー・カット……とか」

「アッパー・カット? どういう意味でぇ、そりゃあ」

「ぷふっ」


 レイアが笑った。意味を知っているからこそ、笑ったんだろう。


「あー……鋭く切る。っていう意味。強そうだろ?」

「ほぉ。アッパー・カットかぁ」

「でも呼ぶ時はこれまで通り、アッパーおじさんって呼ぶよ。その方がおじさんも、呼ばれ慣れてるだろうしいいだろ?」

 

 空を見上げながら、おじさんの口元が緩む。気に入ってくれたようだ。


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