30:日常→信仰→ジャングル。
新章です!
「ふぅ……こんなもんかな」
「モンカーッ」
レイア=風見さんであることを知ってから三日。
特に俺たちの関係がどうこうということはなく、ここでの日常が続いている。
毎日ユタとレイア、時々アルパディカたちにミッションを出してやり、俺もそれに付き合う。
身体能力強化スキル。
持っているだけじゃ何も変わらない。ちゃんと鍛えなきゃ、その効果は得られない――とレイアは言った。
だから走り込みや反復横跳びといった、トレーニングを一緒にやることに。
二十七歳の体には堪える……と思っていたが。意外とそうでもなかった。
むしろ体を動かすと清々しくさえ思えるほど。
で、鍛えることと同時に、生活環境の改善も行っている。
今日、ようやく教会の修繕が終わった。
「お疲れさまにゃ、志導くん」
「レイア。家具の位置はこんなもんでいい?」
「うん。ごめんね、手伝わなくて」
「いいさ。エリクサーポーションだって無限じゃないんだ、無駄遣いしない方が良い」
礼拝堂の床石の隙間から生えていたエリクサー草は、もうない。
レイアが持ってた空き瓶を解析して、そっくり同じ物を万能クラフトで作成。予備も含めて二本分のエリクサーポーションを作った。そこで葉っぱは終了。
「そう、ね……。でもまさか、百年に一度しか咲かないなんて思わなかったわ。どうりで手に入らないわけよね」
「その種が元々この教会の下にあったってのも、驚きだよ」
葉を頂いた後、エリクサー草は一輪だけ花を咲かせ、あっという間に種を残して消えた。
その種は、土地神像の隣に改めて植え直してある。
百年後、誰かが必要としたときにまた咲くだろう。
『種は、防衛の町に一つずつ、あるですの』
すぅっと光が飛んで来て、土地神ニーナの姿に変わる。
「ニーナ。防衛の町って、古代魔法王朝の周辺を囲んだ五つの町?」
『ですの』
古代魔法王朝は、都市を中心にぐる~っと巨大な壁で囲っている。
更に外部からの攻撃を防ぐ目的で、壁の外側に五つの町を建設。その町に、結界用の魔導装置があった。
この装置には王朝を守る結界を張る以外にも、空気や土壌の汚染を浄化する作用もある。
俺が解析眼で修理したのは、浄化機能だけだ。
まぁ他の町が壊滅しているし、アリューケの町だけでは防御結界は張れないってことだけどさ。
「どうしても必要になったら他の町に取りに行けばいいのか」
「でも咲いてるかどうかわからないんじゃない? 百年に一度だし」
『たぶん、アレからずっと咲いてないですの。魔王に……壊されてから』
ここだけじゃない。他の町も魔王の攻撃を受け、瓦礫の山と化しているだろう。
「ニーナはこの町から離れられないって言ってたけど、他の町にも土地神様はいるのかな?」
その問いに、ニーナは一瞬言葉を詰まらせた。その表情は悲痛そのもの。
あぁ、こりゃ聞いちゃマズかったな。
「ごめん、ニーナ」
他の町の土地神はもう、いない……。ニーナが最後だったんだろう。
土地神は人からの信仰を得られなかったら、力を失っていくって言ってた。
魔王によって数百年前に滅ぼされた町なんだ。土地神様がどうなったかなんて、少し考えればわかることだろ。はぁ、何やってんだ俺。
『ニーナは……ニーナは幸運だったですの。アッパーおじさんが、話し相手になってくれてたですから。それに五年前からユラも来てくれたですし』
「そっか。って、ユラって割と最近、ここの住民になたのか」
『はいです。その時はまだ、ユタもいなかったですの』
「ク?」
自分の名前が出て、ユタはよくわからないといった様子で首を傾げている。
少しでも汚染度の低い場所で、子育てをしたかったのかな。アッパーおじさんもそんな事言ってたし。
「話しかけるだけでも、神力を維持出来るのか?」
『維持、とまではいかないですの。でもニーナが消えてしまうまでの時間が、ちょっぴり伸びたです』
だからお兄ちゃんに出会えた――ニーナはそう言って笑う。
消えてしまうという言葉を、当たり前のように口にするこの子を……俺は守ってやりたい。消えずに済むように。
「よし、祈ろう。土地神様ニーナ様。えぇっと……」
何て言って祈ればいいんだ?
前世っていうのかな、まぁ一応死んだし。その前世では特に宗教とかには入ってなかった。
無神論者って奴だ。
祈りなんてよくわからない。
『うふふ。志導お兄ちゃん、お祈りの言葉はいらないですの』
「え? でも祈った方が神力が増したりしない?」
「私が生まれ育った集落でも、土地神様にはお祈りしていたわ。一日の糧をありがとうございます、みたいに。何かあれば感謝を伝えてたの」
「そっか。じゃあ、ニーナ様。雨風を凌げる教会に住まわせてくださり、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
俺とレイアがわざとらしく手を合わせると、ニーナは堪らず笑い出した。
『ふふふふふふ。でもニーナは普通にお喋りする方が好きなの』
「いつもみたいに?」
ニーナはこくんっと頷く。
『その方が、ニーナの心をぽかぽかにしてくれるです。力ももりもり増えるです!』
と、細い腕でぐっとマッチョポーズを決める。もちろん、筋肉のきの字すらない細腕だ。
「そっか。じゃあいっぱいお喋りしないとな」
「お喋りでも土地神様の力が増すなんて、知らなかった。集落の土地神様は、滅多にお姿を現してくれなかったし」
『ふ、普通はそう、なのです。ニーナはその……ずっとひとりで寂しかったから……』
そりゃ何百年とこの町でひとりぼっちだったんだ。そこへ人が来たとなれば、嬉しくて出てくるよなぁ。
こんなおっさんでごめんな、ニーナ。
「あ、そうだ。昨日は畑の水やり、してくれたんだって? ありがとう、ニーナ」
『はう。ど、どういたしましてなの』
頭を撫でると喜ぶ。ニーナは小動物みたいでかわいいなぁ。
その瞳が丸くなって、突然俺を見上げた。
『わ、忘れてたですの! 畑が、ちょっとその……』
「ん? 畑がどうしたんだ?」
『お、お水撒くとき、楽しくってつい……力を入れ過ぎたですの!』
力を……入れる?
ん?
ニーナに手を引かれ、教会の裏手へと出た。
ん?
「いつから菜園は、ジャングルになりましたか?」
三日前に芽がでたばかりのはずの畑が、もっさりもさもさと葉が生い茂っていた。
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