29:5000ポイント→芽生え→旅団。
「志導くんっ、大丈夫!?」
そう言ってレイアが――飛び降りたぁぁ!?
ちょっ。
だが、俺の心配を他所に彼女はシュタっと見事な着地を決める。
お、おぉぉ。これぞファンタジー住人の身体能力だ。
ん? 身体能力……何か忘れているような。
「足、大丈夫そう?」
「あ、うん。ごめん、心配かけて」
「ううん。でも……もしかして志導くん、身体能力強化のスキルを取った?」
スキル……お、おぉ、そうだ!
「そう、それだ! 攻撃スキルひとつ取るより、総合的に見てこっちの方がいいかなと思ってさ」
「うん。その判断、正解だと思う。実は私も身体能力強化、取ったんだよね」
「え? 風見さんも!? でも」
スキルは早い者勝ちだって言ってたのに。
「あ、私が持ってる身体能力強化は、必要ポイント500のヤツ。志導くんは5000、だよね?」
「え、500のスキルもあった?」
「うん。50もあったの。取ろうとしたら消えちゃったけど。たぶん効果大中小とかじゃないかな」
必要ポイントでそういう違いもあるのか。いやまぁ納得ではあるけど。
そうか。レイアの運動神経の良さって、スキル効果でもあるのか。
じゃあ俺も彼女みたいになれる?
「5000ポイントなんて、取れる人いないだろうとは思ったんだけど。でも志導くん、最後のあの時、子供連れの人を助けようとしてたもんね。生前の行いで貰えるポイント違うって言ってたし、それで転移も選べたんでしょ?」
「あ、えっと……そうなんだ」
あの時助けた子供が、大人になって医者になった。それもポイントに大きく影響している。
そう話すと、レイアは自分の事のように喜んだ。
「やっぱり志導くんら「ハラヘッタアァァァーッ」きゃっ。ユ、ユタッ」
「こらユタッ」
「ハラーッ。ハラーッ」
まったく。こいつの食い意地にも困ったもんだぜ――と言おうとして、俺の腹の虫が鳴った。
お、俺もユタと同じレベルだったのか。
「ぷふっ。あははははは。いろいろ話したいことがいっぱいだけど、まずはご飯にしましょうか」
「はは、そうだね。腹が減っては戦は出来ぬっていうし」
何と戦をするのかはこの際おいといて。
屋根の修理をし終えた教会へと入る時、ふと、アルパディカの奥さんが耕してくれた畑に視線がいった。
茶色一色だった土から、緑色の――。
「芽が出てる!?」
「え?」
もう芽が出たのか!
畑の傍に寄って見ても、やっぱり芽だ。何の芽かはわからないけど芽だ。
「うそっ。もう芽吹いてる!?」
「な? やっぱり芽だよな。これ、野菜だろうか。まさか雑草じゃないよな」
「これニンジンよ。あっ、あっちはタマネギ! その奥のは何かしら?」
あちこちで小さな芽が出ている。こんなに早く芽が出るとは思わなかった。
「何百年と人が住んでいなかった町でも、野菜はちゃんと育つんだな」
「そうね。空気も土も浄化されてるから、きっと生でも食べられるわ」
これまで収穫した野菜は、レイアが魔法で浄化してくれていた。
でも、これからはその必要もないと彼女は言う。
「これで食料問題も解決だ。長期戦にも備えられる」
「長期戦?」
「あぁ。これで何十日、何百日掛っても、魔法王朝の都市へ入る方法を探せるってことさ」
「あ……」
彼女は大きな瞳を丸くし、それから頬を染め、俯き加減で小さく「ありがとう」と。
お礼なんて言わなくてもいいのに。前世で俺がどれだけ君に助けられたことか。
それに、同郷なんだ。せっかく再会出来たんだし、お互い助け合わなきゃあ。
「アーッ」
「わかった。わかったってばユタ」
「ふふ。あの子もまだまだ子供ねぇ」
「アァーッ」
レイアの言葉が聞こえたのか、地団駄を激しくさせて抗議する。
ユタに急かされ教会へと入る時、もう一度だけ畑を見た。
これから寒くなるし、冷害対策を考えないとな。
ここからだ。まずはここから、俺の異世界ライフを始める。
滅びかけのこの世界で、自分が快適に過ごせる環境作りから。それと並行して、レイアの呪いを解くための迷宮都市入りの方法を探そう。
あの魔導ゴーレムの頭にヒントがあればいいんだけど。
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その頃、町を一望する山の斜面で、単眼鏡を覗く男の姿があった。
「はっ。おいおい、まさかこんな所で奴の姿を拝めるなんてなぁ」
男の口元が歪に歪む。
「ククク。渡錬ぃ、久しぶりじゃねえか。十七年ぶりか? けどまぁ、お前は変ってねぇな。もしかして転生じゃなく、転移してきたのか?」
男は単眼鏡を畳むと、踵を返した。
「ポンコツゴーレムのせいで壁を越えられなかったが、エラーで勝手に自滅したヤツのおかげで渡錬が様子を見に来たんだな。ポンコツはポンコツなりに役に立ったってわけだ」
古代魔法王朝に地下にはお宝が眠っている。中には最強クラスの魔導書や装備もあるという。
それを盗もうと壁までやって来たが、男とその一行は魔導ゴーレムの攻撃に阻まれ、命からがら逃走。
なんとか方法はないものかと、ゴーレムが反応しない安全な位置から様子を窺っていたのだが――。
「この前、北の麓で見た灯りは、奴が起こした焚き火の灯りだろう。よぉく見えたぜぇ、渡錬ぃ」
ニタリ、と笑うと、男は再びアリューケの町を見た。
「渡錬、待ってろよ。俺様が昔みたいに、お前をオモチャにしてやるぜ。はぁ、楽しいなぁおい。大宮と越後もいりゃ、もっと楽しかったんだろうがなぁ」
今は奴らで我慢するしかない――男はブツブツと呟きながら、斜面で休息する部下の元へと戻った。
「おいてめぇら、何寝てやがるんだ! もたもたしてねぇで、アジトに戻るぞっ」
そこにいたのは十数人の男たち。ほとんど全員が手足に包帯を巻いた怪我人だ。
「も、戻るんですか、デュークのお頭」
「ありがてぇ、ありがてぇ」
「もたもたすんな! 怪我を治したら、他の連中も連れて渡錬狩りをするぞ」
「とねり、狩り?」
男たちは視線を交わし合い、首を傾げる。とねりという名のモンスターはいただろうか、と。
「いいからとっとと歩け! 鈴木旅団のアジトに戻るんだよ!」
デュークと呼ばれた若い男は、狂気じみた笑みを浮かべる。
(渡錬ぃ。今度こそてめぇを、ギャフンと言わせてやるぞ。泣いて謝っても、もう絶対ぇ許さねぇ。この鈴木尚人様をコケにしてくれたお礼、たっぷりしてやるからなっ)
デュークは踵を返し、再び北へと向かう山道を進む。
男たちが慌ててそれに従い、同じく山道を進みだした。
志導が顔を合わせたくない――そう言った人物が、まさにここにいる。
志導たちがその存在に気づくことはない。
だが――。
更に高い崖から鈴木ら一行を見下ろす、影があった――。
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第一部完
第一部はこれで終了。
ブクマ・★は年中無休でうぇるかむです。よろしくお願いします。
次話から第二部ですが、書き溜めを増やすために二週間ほどお休みいたします。
次の更新は26日金曜日のお昼12:00です。
**もしかすると少し早めの更新再開になるかも・・しれません。
以前は夜に更新していましたが、お昼の方がいいのかな?と思って12時してみますが
PVが伸び悩むようならまた変更する可能性も・・・




