27:寒い→ミッション→うたた寝。
「クックックックック」
ん……んん。何の音だ?
「クアアアァァァァァァッ」
「うわあああぁぁぁぁ寒い寒い寒い寒いっ!」
アルパディカ毛布の温もりに包まれていたはずが一転。
早朝の冷気が一瞬にして俺を支配する。
あまりの寒さにすっかり目が覚めた。その原因を作ったのは――。
「ユタ……その毛布を返しなさい」
「クアッ! シドー、オキル。テヤンデェ」
「起きるって、お前なぁ……外を見ろっ。まだ薄暗いだろっ」
この教会で唯一ガラスが無事な窓から見えるのは、ようやく東の空が白み始めた景色だ。
「んん……どうしたの志導くん。こんな朝早くから」
「あぁ、ごめんレイア。ユタの奴が――」
「ミッション! シドーミッション、ヤル!」
ミッションってお前……こんな朝早くから……。
おじさんはまだまだ寝ていたいんですけど、ねぇ、聞いてる?
「アッアッ」
「待て待て待て待て。その爪はなんだ。おい、その爪っ」
ジャキンと爪を構え、今にも俺のハンモックを「切るぞ」と脅している。
「ミーッショーン」
こいつ……人を脅すことを覚えやがった。
「え? ミッションやるの? わ、私もやるっ」
「でもレイア……あ」
そろそろ猫に変身するんじゃ――と言い終える前に、彼女の体が光り出して、そのまま猫の姿になってしまった。
「ふ、ふみゃ~っ。私もミッション、やりたかったのにぃ」
「ミッション! ミッション!」
「わかった。わかったからっ。レイアはさ、猫の姿でも効果あったりしないかな?」
毛布と、それから自分の服からもぞもぞと出てきたレイアは、こてんっと首を傾げて「どうかな」と。
エリクサーはまだ生えてるし、クラフトすればすぐポーションは作れるけど……。
ミッションのために人の姿に戻るってのもなぁ。
「猫の姿でやってみようか」
「ん……そうしてみる」
「ミッッショーン!!」
小一時間ほど二人にはいろんなミッションをやって、それから朝食に。
「お前ぇら、朝から元気だなぁ」
「眠いけどね……」
「若いもんに付き合わされんのも、辛ぇな」
アッパーおじさんが同情するような視線を向ける。
はぁ……俺もせめてあと五歳若ければなぁ。
「志導くん。あのね、もしかすると猫の姿でも効果あるかもしれないわ」
「え? 本当かい?」
蒸かしたジャガイモをレイア用に小さく取り分けてやり、それを彼女に差し出しながら「何か変化合った?」と尋ねた。
「うん。体が凄く軽いの。人の姿の時にミッションをクリアした時と同じ感覚だから」
「へぇ。じゃあ日中も猫の姿のままミッションが出来そうだね」
そう言うと、レイアは嬉しそうに笑った。
が、食後もミッションをと言われる前に先手を打っておく。
「ご飯を食べたら、ゴーレムの頭を修理しに行こうと思うんだ」
「あっ……そ、そうね。修理が先よね」
やっぱり食後もミッションをって、言おうとしてたな。隣でユタも肉を口からポロっと落としてるし、こいつもか。
「他にもさ、ほら」
と、天井を指さして見上げる。二人も同じように天井を見た。
天井から細い光の筋が何本も降り注ぐ。
つまり、穴が開いている。
「これからもっと冷え込むんだろ? あれさ、早めに治しといたほうがいいと思うんだ」
「そ、そうね。どおりで毛布から出たら、寒いわけだわ」
「ククククク」
ゴーレムと屋根の修理。こっちが優先だ。
『志導お兄ちゃん』
「お、ニーナ。おはよう」
「おはようニーナ」
「アッ」
光の玉がすぅっと現れ、ニーナの姿に形を変える。
ニーナも修理後のゴーレムが気になるようだ。
さっさと食事を終わらせ、ゴーレムの頭を持って例のゴミ捨て場へと向かった。
「な、なにこれ……え? 全部ミスリルなの!?」
「そう」
『ですの』
山積みになったミスリルを見て、レイアがペタンと座り込む。
ま、そうなるよね。
「さぁて、修理しますか」
解析眼と万能クラフトで魔導ゴーレムの頭を修理!
あちこち欠けた部分があったようで、みるみるうちに再生されていく。
「完了だ。さぁ、次は――ん?」
解析して動くのかどうか調べようと思ったけど、その前に結果が出た。
【解析結果:壊れた魔導ゴーレム。胴のパーツがなければ起動しない】
……だったらなんで修理素材とか出したんだよ!
胴がないと意味ないって……持ち帰った意味すらないじゃないか。
ガクっと項垂れると、ニーナが心配そうに俺の袖を掴んだ。
『志導、お兄ちゃん?』
「胴体がないと……動かないって……」
『はいです。魔導ゴーレムさんは、体にエネルギーを蓄える核があるです。それがないと動かないですの』
え、ニーナは知っていた?
『魔導ゴーレムさん。アリューケの町にもいたですが、瓦礫の下敷きになって……。掘り起こせばきっと治せるですの』
「この町にもゴーレムがいたのか!? じゃ、それを解析すればよかったんじゃ……」
なんか全身の力が抜けた……。
だけどニーナは首を振る。
『ゴーレムさんの記憶は頭の中にあるです。そのゴーレムさんは、都市が暴走した原因や、解決策を知っているかもしれないですの』
「あ、そうか。都市の防衛システムと直接リンクしてたのはこいつなんだよな」
ゴーレムごとに、パソコンのメモリみたいなものがあるってことだ。ずっと昔にこの町で壊れたゴーレムだと、都市のシステムが暴走してからの記録なんてあるはずがない。
持ち帰ったのは、無駄じゃなかったんだな。
よかったぁ。
ということは、次は瓦礫の撤去か。
いや、その前に教会の屋根を修理しよう。
「ユタ、レイア。ミッションだ」
「にゃ」
「クアーッ」
さすがに猫の姿じゃ出来ない作業なので、エリクサーをクラフトしてポーションへ。
三人で瓦礫を集め、それを煉瓦へとクラフトする。
大量に煉瓦を用意し、教会の屋根へ上って万能クラフトで修理!
「よし。新品同様とはいかないだろうけど、これで隙間はすべて埋まったはずだ」
教会の構造を解析眼を使って調べてある。それに適した屋根として、クラフトした。
これで天井から冷気は下りてくることはないはず。雨漏りの心配もしなくてすむだろう。
「はぁ、今日もいい天気だなぁ」
遠くの空は曇ってるけど、町の上空はよく晴れている。
なんかこう……朝も早くに叩き起こされ、いい具合に肉体労働のして……風も気持ちいいし、おひさまも出てるし。
ねむ……。
「――くん」
ん、誰だ? 今、凄く眠いんだ。
「志導くん」
あぁ、この声は――。
目を開くとそこには、銀色の髪と澄んだ青空の色をした瞳の持ち主――レイアがいた。
「志導くん。そんな所で寝てたら、風邪引いちゃうぞ」
「え……」
その言葉は先日夢で見た、学生時代の記憶と同じ……。
「風見……さん?」
思わず漏れたその名前に、言った俺自身が驚いた。
それ以上に驚いたのは、彼女の方かもしれない。
彼女は目を丸くし、それから瞳を潤ませ右手で口を押えた。
それが全ての答えだということを、寝ぼけた俺の頭でも理解することが出来る。
俺の瞳に映るのは、レイアなのか、それとも……。




