23:強く→コイントス→SF?
「私、強くなりたいの。絶対にあなたを守りたいからっ」
真剣な眼差しで、レイアが俺を見つめる。
「だから、私にもミッションをやらせて」
「ミ、ミッション?」
「うん……さっきね、川に潜んでいた変異ゴブリンに、気づけなかったの」
俺も気づいてなかったけど。
いや、彼女は剣士だ。ただの一般人である俺とは違う。だから気づけなかったことが悔しいんだろう。
「ユタは気づいてた。あの子、凄く成長してるの。地下画も強くなってるし、動きも早くなってる。それってあなたのミッションのおかげだと思うの」
「俺からだとよくわからないけど、実力者であるレイアがそう言うんだからそうなんだろうな」
それでミッションをやりたいってことか。
「ミッションかぁ。人間にも効果があるのかな」
「な、ないの?」
種族的な差異については、スキル説明にはなかったけど。
わからないなら、実際にたって確かめればいいこと。
「試しに簡単なものをやってみよう。そうだなぁ」
簡単で、且つ能力値が上がりそうな内容のトレーニング……。
「そうだ。動体視力を鍛えるってのはどうかな?」
「動体視力を? どうやるのっ」
興味を持ってくれたようだ。レイアが前屈みになって俺の方へとやってくる。
「クッ」
「ちょっと、ユタはダメッ。これは私のミッションなんだから」
「ブッブーッ」
はは。まぁユタと一緒にやっても、それぞれが能力アップするんだけどね。
不貞腐れたユタが、アッパーおじさんのお腹にダイブしてしまった。
まぁ今日はいいか。道中でもユタには散々、トレーニングさせてたし。
「ちょっと待ってね、レイア。今準備するから」
準備といっても、インベントリに入ってる木材でコインの形をしたものをクラフトするだけ。片面に×と印をつけておく。
「なるほど。コイントスね」
「そ。でもこれだと運要素もあるから、連続で――五回「十回」お、おぅ。じゃあ十回成功したらミッションクリアってことで」
「わかったわ」
ミッションが決まると、視界の隅にそれが表示される。まるっきりゲームのUIだ。
さっそくコイントスを開始――が、俺が失敗。
「ご、ごめん」
「ふふ、少し練習する?」
「そ、そうだね。俺にもトレーニングが必要そうだ」
「あなたも自分でミッションをすればいいんじゃない? そうしたら上手くなるんじゃないかしら」
「いやそれがさ……」
スキル所持者には一切恩恵なし。
説明にそうあったことを話すと、レイアは凄く驚いた。
「どんな支援魔法でも、普通は術者に対して効果のあるものなのに。他人への付与が可能になるのは、その後よ。他人にしか効果を発揮できないスキルなんて……珍しい」
「ははは。なんだろうね、このスキルって。本人に効果ないってことは、俺は強くなれないってことだし」
守られるだけなんてなぁ。
「だから私たちが強くなるのよ。あなたの指示の下で」
「俺の指示……」
「あなたのスキルって言った方がいいかしら。私たちだって強くなくちゃ、この世界では生きていけない。あなたのスキルの恩恵で、私たちはより生きやすくなる」
俺のスキルでみんなが……。
「共存関係。そう考えましょう。実際そうなんだもん」
「共存……俺はみんなに守ってもらう代わりに、みんなを強くする。共存か。うん、いいね」
日本で暮らしていた時には、考えもしなかったことだ。
共存、誰かと一緒に歩む人生――そんなこと、俺の頭には一度も浮かばなかった。
いや、幼い頃には夢見ていたこともあったかもしれない。
でもその夢は、叶う事なんてないと思うようになってから考えるのを辞めた。
両親が、少なくとも父がいた頃は、ひとりの時の方が気が楽だったかなさ。
はは。せっかく異世界に転移して、第二の人生をリスタートさせようっていうんだ。
違う生き方をしたっていいじゃないか。
あぁ。誰かに頼ろう。
その分、誰かのために出来ることで全力でやればいい。
「よし、レイア。コイントスをしよう」
「えぇ。やってちょうだい」
ピンっと指先で弾いた木製のコイン。力を押さえ、高く上がり過ぎないように気を使って――キャッチ。
「×印があった方が表。ない方が裏だ。さぁ、どっち?」
「表よ。今のは見えたもの」
お、おおぉぉ! 正解だ!
この調子で二投目、三投目と的中させたが、七投目で不正解。
だが次のターンでは十連続正解をし、ミッションはクリア。
「まぁ、ミッションを決めた時に、人間相手にも効果があるってわかったんだけどね」
「え、そうだったの?」
「うん。ミッション内容を決めると、それが視界の隅に浮かぶんだ」
まるでゲームだよな。この異世界人であるレイアに言ってもわからないだろうけど。
「ふぅーん。まるでゲ……」
「え? ごめんレイア、聞き取れなかった。もう一回頼むよ」
まるで。そこまでは聞き取れたけど、その先がわからない。何て言ったんだ?
「な、なんだったかしら。ごめんなさい、忘れちゃった」
てへっと、舌をぺろりと出して苦笑いを浮かべるレイア。
おいおい。若い子が直前に言ったことを忘れるなんて、情けないぞ。
まぁ、俺もよくあるけど。
「でもこれで、ミッションの効果が私にもあるってわかったわ。ね、志導くん。もっと他のミッションもお願い」
「え、今から?」
「そうよ。今日という日は有限なんだから」
はは……体力の方はさすがに若いだけあって、まだまだ残っているようだ。
ふぅ。これも共存のためだ。付き合ってあげようじゃないか。
途中でユタも加わり、この日は遅くまでミッションを続けた。
最後は俺が眠気に襲われギブアップ。
「ご、ごめんなさいっ。私たちのペースにばかり付き合わせてっ」
「クゥ、クウゥゥ」
「だ、大丈夫。ただ眠いだけ、だから」
そうしてぐっすりと眠った次の日。
壁まで数百メートルの距離にまで近づくと、その異様な光景を目の当たりにした。
「あぁあ、奴ら起動してやがるぜ」
アッパーおじさんが「奴ら」と呼ぶモノ。
ここからでも聞こえる。ガシャンガシャンと音を立て、壁の前を歩く巨大な物体。
かなり不格好ではあるけど、あれは……ロボット?
おい。剣と魔法の異世界ファンタジーは、いつからSFロボットファンタジーになったんだ!?




