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転移した先が滅びかけ!?〜万能クラフトと解析眼で異世界再生スローライフ~  作者: 夢・風魔
1章

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21/33

21:謎→帰宅→再出発!

「あぁー、ありゃあ都市の防衛装置が動いたんだな」


 アッパーおじさんが目を細め、黒煙が立ち上る箇所をじーっと見つめた。


「見えるのか?」

「いんや。だがな、あの辺りに装置があんのは知ってんのさ。この目で見たからな」


 その時に酷い目に会った――そうぼやく。


「防衛装置ってことは、誰かが攻撃されたってこと? モンスターとか?」

「どうだろうな。煙を出してんのは、その防衛装置の方だぜ。たぶんだがな」


 え、装置の方が煙を?


「それじゃあつまり、何者かが装置を破壊したってこと!?」

「そこまでわしにわかる訳ないだろ。お嬢さんはわかるってのかい?」

「そ、それは……」


 レイアが俺に視線を送る。

 わかるわけない。誰にもわからないんだ。

 確かめる方法はひとつ――。


「壁の近くまで行ってみるしかない」


 だがそれは今からじゃない。

 レイアは都市まで半日の距離だと言った。それってたぶん、あの壁までの距離だろうな。

 行って帰るのにしても、日帰りじゃ無理な距離だよ。


「一度町まで戻ろう」

「そうね。行くにしても、しっかり準備をしなきゃ」

「それがいい。さ、帰るぞ」

「アッ」


 山を下り、町へと戻って来たのは予定通りの昼過ぎだ。

 先に食事を済ませてから、山で見たことをみんなに報告した。

 驚いていたのはニーナだ。


『防衛装置、壊れされていたですの?』

「わからない。アッパーおじさんがたぶんって言っただけだから」

「おいおい。わしの名を出すなって」


 言ったのはあんただろ。


「モンスターが、その防衛装置って壊すことは出来るのかな?」

『うぅん。出来ないことも、ないですの。でも……』

「出来るとしたら、そいつぁモンスターの中でも上位個体だぜ」


 かなり強いモンスターってことか。


「だけど、上位個体、は、私たちのように、知性を持ってるわ」

「あぁ。賢い奴ぁな、無駄な争いは好まねえんだ。それにバカじゃねえ。都市に近づきゃ、攻撃されるのがわかってんだから近づかねえよ」


 よっぽどの理由がなければ、無差別に攻撃してくる場所に行きたくなんかないよな。

 じゃあ、考えられるのは。


「人間、ね」

「レイア。何か根拠があったりするのかい?」


 レイアが頷く。


「都市の地下には迷宮がある。お宝がわんさかと眠っているのよ。そのことは、魔導書を発見した時に証明されてる。そうでなくたって、都市には動かなくなった魔道具がいくらでも転がってるだろうし」

「金……力、か。人間が好きそうなものだよなぁ」


 これまでも、都市を目指した冒険者はたくさんいたらしい。

 その誰もが戻って来てはいない――とも。

 

 それでもレイアが都市を目指したのは、自らの呪いを解くため。お金じゃない。

 邪な連中とは違うが、都市にとってそんなものは関係なく。

 そう考えると、都市の魔導装置が暴走しているって事前にわかってよかった。下手したら今頃レイアは……。

 やめだやめ。たらればの話は止めよう。

 レイアはここにいて、無事なんだから。


「志導、直ぐに、行くの?」

「いや、今日はいかないよ、ユラ。どうしてだい?」

「……ミッション、を」


 ミッション? まぁいいけど。


「どんなミッションにしようか。んー」


 ユラは少し考え、「強くなるミッション」と答えた。

 強くかぁ。トレーニング系だな。


「ユタ。あなたもいらっしゃ、い」

「クアーッ」


 二頭にはいろいろやらせてみた。効果が重複しなければ、ミッションはいくらでも出来る。重複したって、純粋なトレーニングと思えばいい。

 その結果、素早さや持久力、体力、筋力、跳躍力と、純粋な攻撃力なんかが上がった。

 ついでに言語トレーニングもやって、ユタもユラの会話もだいぶんスムーズに。


「志導、明日もお願い。明日は今日の十倍ね」

「じゅ、十倍……頑張るなぁ」


 翌日はユラの希望通り、十倍ミッションに。

 最後の方、ユタはかなりバテていた。それでも全部やり遂げ、ミッション無事クリア。

 ユタ、ユラ共に各能力が向上。


 そして夜。


「え? お前も一緒に来る?」

「アッ」


 ユタが大きく頷く。


「いやダメだろ。直ぐ近くに行くのとは訳が違うんだぞ。帰って来るのに二日か三日かかるかもしれないんだ。子供のお前を連れてはい行けない。ダメだ」

「クッ。クアアァァァァァッ」


 ダンっとその場に倒れ、手足をバタバタ、尻尾をビタンビタンと床に打ち付ける。

 完全に駄々っ子モードだ。


「危険かもしれないから、ダメって言ってるんだ。別に意地悪で言ってるんじゃないぞ」

「ンアアァァァァァァッ」


 ダメだこりゃ。こうなったら、何を言っても聞き入れないだろう。

 ユラ、何か言ってくれよ。


「志導」


 よし、さぁ、言ってやってくれ!


「連れて行ってあげて」

「だよなぁ。やっぱり危険だから……え?」


 ユラ、今なんて?

 

「ユタを連れて行って。この子があなたを守ってくれる。あなたがこの子を強くしてくれる。私は、そう信じてるわ」

「ユラ……」

「いつまでも母親の側で甘えているわけにはいかないのよ。私たちはね、強くなきゃいけないの」


 弱肉強食の世界なのだと、ユラは言う。


 心配していないわけじゃない。いや、ユラは我が子が心配でたまらないはずだ。

 今でもずっと、ユタを優しい目で見つめているし。

 だけど親として、子を突き放さなきゃいけない時もあるんだろう。生かすために。


 俺の親はどうだった?

 いつだって突き放していた。生かすためじゃなく、自分のうっ憤を晴らすために。


 俺の親も、ユラみたいだったらなぁ。

 そうすればぶつかり合うことはあっても、きっと楽しい人生だったに違いない。


「ユタ、一緒に行くか」

「アッ。シドー、イッショ行クーッ!」

「そっか。じゃあ俺の護衛、お任せします」

「クアァーッ。マカセロ、テヤンデェ」


 お。今度は仰け反らず、後ろの倒れなかったな。

 ちょっとだけ成長してるじゃないか。


 と、ユラに話そうとして視線を向けると、どこか……少し寂しそうな瞳で、彼女は息子を見つめていた。

 ユラ……。やっぱり母として、息子の成長は嬉しくもあり、寂しくもあるのかなぁ。


 そして翌朝。


「食料よーっし」

「クァーッシ」

「水、よーっし」

「ミーズ、クァーッシ」


 荷物らしい荷物はひとつもない。全部インベントリの中にある。

 都市を囲む壁まで行くのは、俺とレイア、ユタに、案内役のアッパーおじさんだ。


「じゃあみんな、留守番、頼んだよ」

『志導お兄ちゃん、これ、ニーナが昨日、一生懸命作ったですの』

「ニーナが?」


 ニーナから受け取ったのは、雫のような形をしたガラス玉だ。

 俺だけじゃなく、レイアやユタ、アッパーおじさんにも渡している。


「凄いわ、これ。とっても強い浄化の力を感じる」

「浄化の力?」

「身につけるだけで、周囲の魔素が浄化されるってこと」


 そんな凄いものをニーナが作ったのか!

 あ、でも、神力を消耗したんじゃ。


「この前みたいに日帰りならいいけど、二、三日町を離れるなら対策が必要なの。私が魔法で定期的に浄化しようと思ってたけど。これがあればその必要もないわ」

『レイアお姉ちゃん、大変なの。ニーナ、町から離れられないし、これぐらいしか出来ないですの』

「ニーナ……」


 はにかむように笑うニーナ。その姿はほんのりと、透けて見えた。

 俺たちのために、力をいっぱい使ったんだな。

 優しい土地神様のために、何かしてやれたらいいんだけど。

 

『志導お兄ちゃん、レイアお姉ちゃん、ユタ、アッパーおじさん。みんな気をつけてなの』


 心配そうな表情を浮かべるニーナの頭を撫でてやる。彼女は嬉しそうに、また笑顔を見せてくれた。

 その隣でおじさんの奥様方が――。

 

「あなた。ふらふらするんじゃないわよ」

「年長者なんだからぁ、しっかりしてよぉ」


 と、まったく心配する様子もなく。

 

「かあちゃんたち……わしの心配はせんのかい」

「夫殿の心配なぞ、必要あるだろうか?」

「ないわね」「ないわ」「な~い」「ナッシングね」

 

 ここまでくると、ちょっと同情してしまう。

 でも、これも信頼しあっているからこそなんだろうな。


「志導」

「ユラ。行って来るよ」


 一歩前に出た彼女は、頷き、そして言った。


「この子をお願いね。ちゃんとこの子の事、見てあげて」

「ん? あ、あぁ。わかった。ちゃんと見てるよ」

 

 たぶん、迷子にならないようにってことなんだろう。そう思ってた。

 この時のユラの言葉の意味を知るのは、もう少し先のこと――。


「さぁ、出発だ」


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