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転移した先が滅びかけ!?〜万能クラフトと解析眼で異世界再生スローライフ~  作者: 夢・風魔
1章

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20/33

20:轟音→歯ぎしり?→黒煙。

「志導くん。そんな所で寝てたら、風邪引いちゃうぞ」


 ん……その声は……風見、さん?


「あ……」


 目が覚めて、まず最初に飛び込んできたのは、やたらと高い石の天井。

 あぁ、夢か。いや、夢というか、学生時代の記憶だな。

 実際、昼休みに学校の屋上でうたた寝をしているとき、彼女に言われたセリフだ。


 風見さん。どんな世界に転生したんだろうなぁ。

 ふと視線を遠くに向けると、焚き火が消えていることに気づく。


「アッパーおじさんも疲れて眠ったんだな」


 焚き火の側で、膝を曲げ、首を真っ直ぐ伸ばした姿勢でおじさんが眠っている。

 まだ種火が残ってるし、今なら薪をくべてやれば燃えだすだろう。


 そっと静かにハンモックから下りたその時だ。


 ドゴォォォォォォン……という音が、かなり遠くから聞こえた。


「んなっ。なんでぃなんでぃ!?」

「い、今の音、何?」

「ククク」


 音はそれほど大きくはなかったけど、レイアとアッパーおじさん、それにユラも目を覚ます。

 パラパラと天井から砂が落ち、足裏からもわずかな振動が伝わる。

 音の次に、振動?


 な、なんだ、これ。何が起きてる?

 直ぐに振動は収まったが、不安は拭いきれない。


「あらぁ、どうしたのぉ、みんなぁ」

「おい、かあちゃんたち。呑気に寝てる場合じゃねえって。今すげぇー音がしただろ?」


 遅れて目を覚ました奥様方は、まだ少し寝ぼけているようだ。


「あなたの歯ぎしりじゃないの?」

「うむ。夫殿の歯ぎしりは……ウザい」

「ちげーよ!」


 ユタもさすがに目を覚ましたようで、少し不安そうにユラに寄り添う。


「ちょっと俺、外見てくるよ」

「ま、待って。私も行くわっ」


 レイアは剣を手にし、俺の隣へと並んだ。

 そんな彼女を見て、どこかホッとしている自分がいる。ひとりじゃない。それだけて安心出来た。


「雷かしら?」

「それは……どうかな」


 見上げた空には月がはっきりと見える。昼間も天気が良かったけど、この時間もそうだ。

 雲一つないわけじゃない。遠くには薄い雲が広がっているのが見える。

 その雲の隙間からも、月の光が地面に向かって伸びているのがわかるほどの薄さだ。


「雷が落ちるような、そんな雲には見えないな」

「そ、そうね。だったら何かしら?」

「ニーナ。何かわからないか――っと、回路を遮断したんだった」


 そう言うと、教会の中から光が飛んで来て、すぅっとニーナが現れる。


『です、の。何の音か、ニーナにはわからないです。でも』

「でも?」


 ニーナは北の山を振り返り、小さな指をでその先を指した。


『音は山の向こうから、ですの』

「山の向こうって、魔法王朝の都市じゃないの!?」


 驚いたレイアが、改めて山を見上げる。

 街頭なんてない。見えるのは黒いシルエットだけ。


「気になるが、夜じゃお前ぇら人間の目には、なんも見えねえだろ」

「そう、だな……」


 アッパーおじさんの言う通りだ。


「わしぁ夜目が効くが、それでも見に行くなら明日の朝にすんぜ」

「そうだな。明るくなって、それから少し山を登ってみよう。都市の方まで見えるといいんだが」

「それなら安心しな。わしが見晴らしのいい場所まで連れて行ってやらぁ」


 レイアと二人頷き合い、不安が残るが今夜はこのまま眠ることにした。

 明日、山に登る。何事もなければいいな。





 

 寝付けないまま朝を迎えた。


 収穫し尽くした野菜をインベントイから取り出し、レイアが朝食を作る。


「私、今日は人の姿のままでいるわ。エリクサーの残りも、まだ余裕があるから」

「そうだね。猫の姿のままだと、いざという時危険だろうし」


 山を登れば、当然モンスターとも遭遇するだろう。それ以外の何かがあるかもしれない。

 俺が戦えていたら……。

 攻撃スキル――ないものはないんだ。自分に出来ることをしよう。


「クアァッ」

「ん? もしかしてユタも来るのか?」


 ユタは尻尾を振って、うんうんと頷く。


「いいんじゃねーか。山をちょいっと上る程度だ。昼過ぎには戻ってこれらぁ」

「ユラ、いいか?」


 ユラはじっとユタを見つめ、それから頷いた。

 昼過ぎには戻ってくれると言ってるし、あの山はそんなに標高も高くない。せいぜい五百メートルぐらいじゃないかな。

 アッパーおじさんも一緒だ。大丈夫だろう。


「じゃあユタ。一緒に行こう」

「ンクアァーッ」


 嬉しいのか、教会の中を走り回りだす。

 が、ユラに尻尾を掴まれ、ビターンッと顔面から床に突っ伏した。

 い、痛そう……。

 けどユタはそう感じていないのか、プルプルと顔を振っただけで立ち上がる。それからユラを見て、首をすくめた。反省のポーズだ。


「飯食ったらすぐ行くぜ」


 水、雑貨屋の魔石を持っていく。

 おやつのリンゴもよし。

 アッパーおじさんの一言で、俺たちは山へと向かった。


 山は途中まで、草木の生える緩やかな斜面が続いた。

 魔導装置のモンスター撃退音の範囲外だから、当然、モンスターも出てくる。

 だが不運だったのはモンスターの方。


 レイアは強かった。

 そしてユタも。

 最も驚いたのはアッパーおじさんだ。


「ったく、雑魚のくせにしつけー奴らだぜ。ほれっ」


 そう言って右前脚を踏み鳴らすと、ズガァーンっとどこからどもなく雷が落ちる。

 昨日の雷はおじさん? と思わず考えたが、だったら本人があんなに驚く訳がない。


「アッパーおじさんは、雷属性の魔法が得意なのね」

「あぁ、そうさ。わしぁ雷と、あと火属性も得意だぜ」

「二つの属性!? 凄いじゃない、おじさん」


 ん? どういうこと?


「志導にゃ伝わってねえらしいな。ま、嬢ちゃんが博識なんだがよ」

「あ、ごめんね志導くん。アルパディカってね、生まれた時に得意属性が決まるの」

「おう、そうさ。わしらアルパディカは、個体ごとに得意魔法の属性が異なんのさ」


 あぁ、それでか。

 風の魔法を使う奥さんは、それ以外を使っていない。畑を耕してくれた奥さんも、土以外の魔法を使わない。それぞれ得意魔法が決まっていたのか。


「お、そろそろだぜ。北の大地が見える場所」


 山の頂に到着はしていない。だが、俺たちが進む先だけ山が削れたようになっている。

 そこへ立つと、山の北側が一部だけ見えた。

 遠く、かなり遠く、巨大な壁のようなものがある。それが視界の端から端まで続き、その向こうには森に山、そして地平線までが見えた。


「中央の都市はさすがにこっからじゃ見えねえが……音の原因は、どうやらアレらしいぜ」

「え、アレ? あっ」


 やや西より、あの巨大な壁から薄っすらと黒煙が上がっているのが見えた。

 壁が燃えたのか? でもあの大きさ、さすがに木製じゃないだろう。

 じゃあ……なんで煙が!?

 いったい何が起きてるっていうんだ!?

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