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転移した先が滅びかけ!?〜万能クラフトと解析眼で異世界再生スローライフ~  作者: 夢・風魔
1章

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19/33

19:毛刈り→ユタ→ぬっくぬく。

「さぁーって、毛を脱ぐぞぉぉーっ!!」

「え!? ぬ、脱げるの!?」


 アッパーおじさんの一家が町に来て三日目。

 今日は朝から彼らの毛刈りを行うことになった。


「あ? 物の例えだ。脱げるわきゃねえだろ」

「紛らわしい例えをすんなよっ」


 この三日の間でわかったことがある。


「ぷふーっ。け、毛を脱ぐ……くふふふふ」


 アッパーおじさんは、とにかく笑いを取らないと気が済まないおじさんだ。

 そしてレイアはよくツボる。


「おうおう、お嬢ちゃん、笑ってねぇーでやってくれや。あんま時間ねえんだろ?」

「あ。そうね。さっさと刈っちゃいましょう」


 アルパディカファミリーの毛刈りをしてもらうため、レイアには人の姿に戻ってもらっている。

 昨日、あちこちの家を探して回り、やっと見つけたハサミ。それを万能クラフトで錆び取りをして使えるようにしたんだが。

 昨夜、そのハサミで俺がアッパーおじさんの毛を刈ると「刈り過ぎなんだよ風邪引くだろうがっ」と怒られた。で、レイアに交代したってわけ。


「それじゃあ俺もやりますか」

「クアッ。ミッ、ミッミ」

「ミ? あ、ミッションか?」


 ユタは、それだと言わんばかりにピョンピョン跳ねながら頷く。


「じゃあ言葉のミッションもやっとくか」

「ルーッ」


 そうだなぁ。


「この前の『ユタ』。あれが未クリアのままだし、もう一回やってみるか」

「アッ。ィウウウウウウゥゥ……ィウ……タ。ウー」


 寄り目になって、どことなく眉間に皺を寄せているようにも見えるユタの表情。

 本人は真剣なんだろうけど、ごめん、ちょっと笑いそう。


「ウウ、イ、ウ、ュウ」

「おっ。もう少しだユタ。ユー」

「ウ、ユ。ユ!」

「おおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 言えた。ユって言えたぞ!

 ユタ本人も驚いて、それから嬉しそうに尻尾をぶんぶん振って左右にステップを刻む。


「ユ! ユ、タ。ユタ。オイ、ラ、ユタ!」

「そうだ。お前の名前はユタだ。凄いぞぉ、ユタ」

「オイラ、スゴイ! オイラ、エライ!」


 偉いとは言ってないけど、まぁ偉いか。

【ミッションクリア。個体名『ユタ』の言語能力が向上した】とメッセージが浮かぶ。

 その効果は既に現れているような。明らかにさっきより発音が流暢になっている。


「エラーイ! エラ――ンゲ」


 エラーイっと仰け反り、お約束の後ろこてん。


「ユタ、名前を言えるようになったのね。凄いじゃない」


 大量の毛を抱えたレイアがやって来てユタを褒める。その毛を受け止めるべく、インベントリを開いた。

 褒められたユタはシュタっと立ち上がり、また仰け反ってドヤ顔をする。こけるなよ、ユタ。


「ミッション! ミッション!」

「ユタ。同じ効果のヤツは、一日一回までしか出来ないんだぞ」

「アウゥ」


 ガックリと首を項垂れるユタ。リアクションがわかりやすい。


「違う効果ならいいの? あ、はい、これ次の毛ね」

「ほいほい。違う効果なら、ありなのかなぁ。ユタ、試しにやってみるか?」

「オウオウ。マカセ、トケ」


 ……あぁ、そうか。ユタの訛りって。


「おうおう。かーちゃんたちの毛刈りは、まだ終わっちゃいねえぜ」

「あ、ごめんなさいおじさん。今行くわね」


 レイアがハサミを持って、奥様方の方へと向かう。

 やっぱり、アッパーおじさんだよな。絶対ユタの奴、アッパーおじさんの喋り口調を真似てるんだ。

 ……ま、いっか。かわいいし。


「よしユタ。魔導装置の所まで走って行って、アーサを一本刈り取って戻って来るんだ。走るんだぞ?」

「テヤンデェ。オヤスイ、ゴヨー」

「じゃあ、よーい」


 どんっという前に、ユラがやって来た。

 

「志導。私にもその、ミッションというもの、やらせてくれない、かしら?」

「ユラも? うんまぁ、ユラが一緒ならユタも安全だろうし。じゃあ、二頭とも同じッションで。ユらは塔の周りを五周追加、でいいかな?」

「もちろん、よ」


 よし。じゃあ気を取り直して。


「よーい、どん!」


 二頭が物凄い速さで走っていく。ユラの方はもう見えなくなってしまった。

 は、速すぎだろ。


「い、今のうちにさっきの毛を糸にしてしまうか」


 繊維から糸に加工するのとは、やり方が違うようだ。

 アルパディカの毛を素材にし、毛糸への加工という作業ボタンと、洗浄という作業ボタンがある。

 解析眼の力も加わり、洗浄を何度かした方が糸が綺麗になるそうだ。


「じゃあ洗浄を三回して、それから毛糸へ加工しよう。で、次が……」


 毛糸を編む作業だ。とりあえず長方形になればいい。模様なんて一切いらない。

 そうなると、作業は簡単だった。

 縦横のサイズを決めるだけ。あとは編む作業ボタンを押せば一瞬で完成だ。


「よし、毛布の完成! ひざ掛けっぽいけど、まぁこんなもんか」


 軽とは太めに設定してみた。その方がもこもこしてそうだし。

 そして俺の予想は的中。

 めちゃくちゃふわもこじゃないかぁ。はぁ、気持ちいい。


「見せて見せて」

「ふふ。自信作だぜ。触ってごらん」


 レイアに出来たばかりの毛布を渡す。

 彼女は撫でるように毛布へと触れると、瞳を大きくして歓声を上げた。


「うっわぁ~。ふわっふわだわぁ」

「へっ。どうでぇ、わしらの毛は」

「凄く気持ちいぃ。それに、暖かいわ」

「だね。もう一枚クラフトしなきゃいけないし、毛の方頼むよ」


 今夜から暖かくして眠れるぞ。


「戻ったわ、志導」

「あぁ、おかえ――ユラ!?」


 え、もう戻ってきた? あれから十分かそこいらなんだけど。

 塔まで歩くと十五分はかかったと思うんだけど、それの往復だぞ?

 でもユラの手にはアーサが握られている。


【ミッションクリア。個体名『ユラ』の脚力・スピード・持久力・体幹が向上しました】と、なんかいっぱい上がってる。

 それから数分後、息切れをしたユタが戻ってきた。


「お疲れ、ユタ。よく頑張ったな」

「ク、クアァァ」

 

【ミッションクリア。個体名『ユタ』の脚力・スピード・持久力が向上しました】


 ユラと違って、体幹は表示されてないな。走り方に違いがあったんだろうか?



 



 その日の夜。

 ハンモックに横になり、ふわもこの毛布を抱くようにして体に掛ける。


「うっわ。気持ちいい。肌触りも最高だ」

「へっ。あたぼうよ」

「あぁ、幸せぇ。凄くあったかぁ~い」


 この時期だと暖かすぎるぐらいだ。お腹の辺りにだけかかっていれば十分。

 けど、肌触りが気持ち良すぎて、包まれたいとすら思う。


「毛糸、まだいっぱい残ってるし、何か編みたい物でもあるかい?」


 冬に備えてコートなんていいだろう。

 ただデザインのセンスがない。そこは女の子であるレイアにアドバイスをもらいたいんだけど……ん?


「レイア?」


 呼んでも返事がない。

 あぁ、もう寝てら。よっぽど毛布が気持ちよかったんだな。


「くあぁ~……俺も眠いや。おやすみ、みんな」

「おう。ゆっくり寝やがれ。焚き火の番はしてやるからよ」

「ありがとう……おじさん……」

 

 パチパチと焚き火が爆ぜる音が、だんだんと遠くになっていく。

 この日、俺はアルパカの群に囲まれ、もみくちゃにされながらも笑顔を浮かべる――夢を見た。

 

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